第20話 新たに得た呪いと称号
考える事は色々と多い、戦闘が終結を迎えたこの仮のキャンプ地でそう思う。あれから先生同士の話し合いでひと悶着あったが、今はもう落ち着いてる。
あの後は、それなりに戦後の処理は酷かった。細木は幸い、それほどのダメージを負ってなくて、あの時見放した俺に、逆に感謝してくれていたけど。
心とは正反対に体が動くのって、相当に恐ろしい体験だったようだ。
細木とは逆に、戻って来たオザキンと水っちは、相当酷い怪我を負っていた。どうやら《命令》されての行動って、相当に思考と身体のバランスがちぐはぐらしい。
本来なら当然出来る、自衛手段が取れなかったのかも知れないな。俺と斎藤先生で、結構な時間を掛けての治療となってしまった。
それでも悪びれない男子教師陣に、とうとう斎藤先生もキレてしまい。
最終通告の類いを、奴らに対して発して来たとの話である。俺からすれば、それでも甘いと思うが果たしてどうか。誰が見たって、このパーティは既に破綻している。
誰かが他者を意思の無い盾に使い始めたら、もうお終いだ。
それでも考え直す機会を与えるとは、斎藤先生は優し過ぎるよな。今度やったら別行動との事らしいが、それで向こうにキレられても面白くない。
こちらはひたすら、順当で平穏な別離を祈るのみ……まぁ、それまでの辛抱だと思えば辛さも紛れるか? こっちは色々と大変なんだ、当然ながら無駄な重荷は背負いたくは無い。
そう、考える事は色々と多いのだから。
まずは何から片付けるべきか……眠れそうもない俺は、コンテナの上で一人、見張りに立っている。いや、実際には座り込んで、側の木箱に寄り掛かってるんだけど。
他の連中は、相当に消耗したのか眠りに落ちて静かなモノ。考えるには都合は良い、ただし結構な重みのある深刻な内容も含んでるけど。
これもあのマミーもどきと、勝手気儘なスキルのせい。
俺の《夢幻泡影》が、寝ている間に勝手にセットされる問題は話したと思うけど。先ほどの戦闘では、何故か《高利貸》まで暴走してしまった模様で。
恐らくあの時、部長たちへの貸しを返して貰うと、腹立ち紛れに念じた瞬間だろう。そのせいかどうかは不明だが、マミーもどきの討伐報酬が酷い事に。
酷いと言うより凄いのか、何だか混乱して良く分からない。
まずはレベルが、一気に2つも上がっていた。それとは別に、SPが10ポイントも増えている……1P使わずにいたのとレベルアップ分を合わせて、合計15Pだ。
果たしてこれを、本当にスキル《高利貸》で奪ったのかどうかも定かではないけど。単に討伐報酬なのかもだし、CPもいつの間にか一気に増えてるし。
まぁ別に、増える分には良いんだけど。
増えたと言えば、実は呪いが新たに1つ増えた……《陽嫌》と言って、どうやら昼日中にはステータスの低下や不快感を覚える、実に死霊らしい内容の呪いである。
また衰弱系が、新たに追加された訳だ……勝利と引き換えにするには、いささか嫌過ぎる重しである。本当に勘弁して貰いたい、こんな身体に誰がした?
この呪い、果たして解ける日は来るのだろうか?
ついでに言うと、何やら『称号』なるモノもこの戦闘報酬で得た。悪い事ばかりでは無かった訳だ、それが僅かな光明でもある。
そう言えば、何故か夢の世界戻りに《光魔法Lv2》も持って帰って来れてたし。うん、悪い事ばかりでは無いな! この取り引きが、公平かどうかは別にして。
ちなみに、称号の名前は《安寧》と言うそうな。
効能は、ちょっとの時間寝ただけで、HPやらMPやらが回復してくれるとの事。悪くは無いな、ってか『称号』って何だって話なんだけど。
どうやらスキルスロット枠にセットしなくても、常時効果を発揮してくれる特殊スキルのようなモノらしく。取得は相当大変そうだと、勝手に推測してるんだけど。
あんな類いの変異種を、相手取る苦労を思えば当然か。
皆轟春樹:Lv8 HP:30(49) MP:34(55)
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物理攻撃:33(46) 物理防御:29(40)
魔法攻撃:20(34) 魔法防御:16(26)
スキル【13】《光魔法Lv2》《投擲》《硬化Lv2》《高利貸》
予備スキル《餌付け》《観察》《平常心》《日常辞典》《追跡》《時空Box(極小)Lv2》《エナジー補給》《購運》《罠造Lv2》《借技》《夢幻泡影》
獲得CP【529】 獲得SP【8/0】
『称号』:《安寧》
状態異常:呪い《衰弱》《悪夢》《陽嫌》
装備:銀の槍、手作りフレイル、工具の盾、蜘蛛糸のマフラー《空気浄化》、木綿のポーチ《収納倍加》
持ち物:ポーション×4、マナポ×2、毒消し薬、架空スマホ
大量に入ったSPの使い方に迷った末、均等上げに4Pほど使用してみた。結果、ステータスは程々に上昇したけど、念願のスロット枠は増えず……。
《購運》で買った運は、既に消費してしまったのだろうか?
それより今は夜明け前なので、ステータスの衰弱度は以前と変わらない程度だけど。朝になったら、さらに酷くなる呪いが新たに増えてしまったらしい。
世も末だな、こんな事でこの先やって行けるか随分と不安だけど。地力だけは着々と付いてきた感じ、何しろ現パーティでレベルがトップとなっている。
つまりはマミーもどきの経験値、俺の総取りだったっぽい。
それは置いといて、続いてSPの使用法だけど。取り敢えずは、3Pを支払って《硬化》をLv2に上げてみた。防御の肝スキルだし、さっきの戦闘でも割と役立ってたし。
それにしても、さっきの戦闘で回復にと飲んだポーション、不味かったな。でもあれが無かったら、マミーに絞殺されていたかも知れない。
そう思ったら、薬品類は今後も充実させたいな。
考える事は多いけど、まぁぼちぼちやって行こう……ちなみに、残りのSPは貯蓄しておく事に。何かの事態に備えて、保険みたいなものだ。
称号については、未だに良く分かっていないのでスルーで。
時間的には朝が来たが、仮のキャンプ地周辺に変化は無い。明るくもならないし、敵の姿が出現する事も無い。仲間たちの中には、起き出して来る者もチラホラ。
新しい一日の始まりだ、憂鬱で仕方が無いけど出掛ける支度はしなければ。とにかく先に進めば、安全な場所かこの異界の出口があると信じて。
そうでなければ、本当にやってられない。
男性教師陣に対してのギスギス感は、当然だか相当に膨らんでいた。このまま出発して大丈夫なのかと、誰かに対して問い質したい程度には。
しかし、生徒間のそんな不満は心得ていたのだろう。斎藤先生は厳かにパーティ編成を変更したと、朝食時に俺たちに告げて来た。要するに、パーティを2つに分割したらしい。
なるほど、それは良い案に思える。
いままで戦闘に全く参加しなかった教師陣に、これ以上経験値を分け与える事も無い訳だ。あっちはあっちで、勝手にやってくれとの事らしい。
ついて来るならご自由に、これ以上こちらは面倒見ませんと。
その取り引きを聞いて、肩の荷がだいぶ降りた気がするな。他の生徒も似たような気持ちらしく、朝食の場の空気が一気に和やかなモノへと変わっていく。
ちなみに、新参入の文芸部の3人は、ほとんど食料の類いを所持していなかった。今まで進んで来たルート上に、補給地点はある事はあったらしいけど。
荷物になるので、多くは持ち出せなかった様子。
その点こちらは、細木のスキルに加えて、俺の収納系のスキルも存在するので。食料事情の違いに、3人は感動する始末。もっとも彼らは、水本が非常食を召喚するスキルを持っていたらしいけど。
非常食だけあって、味もほとんどしないらしい。俺の《エナジー補給》と同じだな、荷物は増えないけど味気ないので3食は勘弁と言う奴だ。
おまけにこちらは、細木と斎藤先生が調理を担当してくれるしな。
そんな感じで朝の支度も終わって、いざ出発となったのだが。チャールズも一応は無事だった様子、昨日はご苦労さんと一応労ってみると。
軽く手を挙げて返された、違和感はバリバリあるがまぁ良しとしよう。今日も頑張って貰わねばならない、大切な戦力なのだから。
ちなみに南野のマネキンも、同じく無事である。
隊列を慎重に決めて、進むべき方向へと出発する。この時点で、マミーもどきに貰った呪いの効果が段々と分かるようになって来た。
体の怠さと不快感、ステータスを覗いてみたら、たしかに衰弱のレベルは上がっていた。朝からキツいな……取り敢えず、水っちも前衛役こなせるから負担は減ると思いたい。
マネキンズもいるしな、ちょっと楽させて貰おう。
警戒は怠らず、それでも水っちが《気配察知》を持ってるから、前より随分と楽になった。寺島もリラックスした表情で、ゲーム好きならではの話を披露している。
こんな話でも、この異世界に通じる共通点も意外と多いのだ。水っちもそれには大いに賛同していて、あながちこちらの思い違いでも無いらしい。
生き延びるためには、色んな場所にアンテナ張ってないとね。
薄暗い倉庫エリアは、仮のキャンプ地からしばらく続いた。それから唐突に、隅っこの広場に小さな扉が3つ並んでる地点を発見。
次のエリアへのゲートだ、意外と近かったな。
斎藤先生が、悩んだ挙句に右端の扉を選択する。俺達がそこに入って行くのを、しっかり後方で確認する男性教師陣。残念、ここで撒けたら嬉しかったのに。
次のエリアは、幸いな事に光量には恵まれていた。そのせいで身体の不快感はアップしたが、視界が不自由よりはマシだと思う事にして。
キリキリと先を進む、迎え出る野犬の群れを駆逐しつつ。
ここも一応は倉庫通りと言うか、変な繋がりの街路と倉庫の組み合わせ。コンテナの積み重なったダンジョンも、通路を複雑にしていて行く手を阻んで来る。
出現する敵は、さっきから頻繁に姿を見せる野犬と大カラス、それからゴキブリの群れに大ムカデと多彩だ。そんなエリアが、しばらく連続して続いて。
俺たちはあちこち迷いながら、エリアを攻略して行く。
数時間が経過して、現世建物の様相にも変化が現れて来た。平屋コーポのような建物が、通路の左右に伺えるようになって来たのだ。
寺島と手分けして、試しにと部屋の扉に手を掛けてみるけど。案の定、開く素振りも見せずにオブジェのような扉の列だったり。
水本の《気配察知》にも反応無いし、取り敢えずスルーで。
万一開いたとして、誰かの部屋を漁ると言うのも嫌な話だ。幸い、今は食料に余裕があるし、所持品で特に不自由している物も無い筈。
ただし、お風呂には入りたいな……俺がそう零すと、皆が一斉に相槌を打ってきた。思いは同じらしい、でも相変わらず開く扉は皆無と言う。
そうこうしている内に、今度は大ネズミの襲撃が。
さすがにこの辺りの雑魚には、もう苦戦しなくなって来た。俺の《罠造》の投網攻撃で、一網打尽のパターンが楽が出来て嬉しいけど。
少々捕らえ損ねても、大ネズミ程度なら前衛は一撃で倒す事が可能になっている。寺島も《棍棒術》のスキルを覚えたらしく、時たま《スマッシュ》と言う技を使っている。
威力のある技で、大柄な寺島が使うと勇ましく感じられる。
少し進むと、またコーポの扉の列が出現した。そして、珍しく開閉が可能と判明したコーポの扉の奥に、水っちが《気配察知》で奴らの巣を発見してしまい。
壁にも床にも、一面のゴキパラダイスを目にしてしまうハプニングが。
全員の意見が一致して、そこは絶対にスルーと決定したのだけど。俺がホームセンターで持ち出した荷物の中に、役に立てばとバ〇サンが紛れ込んでいて。
何しろそれ以前に、ゴキブリには幾度も遭遇してたからなぁ。ダメ元の思いで、俺がチャールズに設置して貰おうかと意見すると。
それならばと、少し離れた場所で昼食休憩する事に決定。
「……なんか、部屋の中で何かが暴れまわってる音が聞こえる気かする……」
「気のせいだ、水っち……ここまで聞こえる訳ないだろ」
「そうそう、絶対に気のせいだよ……」
想像力逞しく、部屋の中で煙にいぶされ、悶絶するゴキの群れを妄想する水本。一方の俺は、架空スマホで経験値の取得情報をチェックしていたら。
丁度昼食が終わったころ、ズンズンと伸びて行く経験値バーを見る事に。
「うわっ、レベルアップした! ゴキ経験値って、意外と侮れないね、皆轟君!」
「そうだな……部屋一面に、ラグビーボールくらいの大きさのゴキが巣を作ってたからな」
「余計な情報はいらないわ、皆轟君……」
いらなかったらしい、南野にそれ以上喋るなと目で制された。仕方ないので、皆がレベルアップ作業をしてる間に、チャールズを伴って例のゴキ部屋の確認に向かう。
部屋の扉に耳を当てるが、まだ微かに奴らの動き回る気配を感じる。それが収まった頃を見計らって、チャールズに目ぼしいアイテムが落ちてないかチェックに入らせる。
マネキンの彼は、一瞬嫌な顔をした……気がした。
多分幻覚か何かだろう、マネキンが表情を変えるのは物理的に無理だから。渋々と言った体で、1DKらしき造りの室内へと入り込むチャールズ。
時折戦闘音らしきものが聞こえるのは、生き残りを潰して回っているのだろう……想像はしない事に、そして寺島が迎えに来る頃にチャールズも無事に戻って来た。
その手には、何やら色んなアイテム群が。
「うわっ、凄いね……これ全部、ゴキがドロップしたの?」
「……違うっぽいな、チャールズが首振ってるし。部屋に隠されてたアイテムも、混じってるって事かな?」
そうらしい、意外と頑張ってくれた彼を
ちょっとした思い付きだったけど、それで仲間がパワーアップしたなら何よりだ。しかもアイテムまでゲット出来たのだ、言う事無しの結果である。
おっと、今のうちに皆で分けておくか。
新規参入組の文芸部の連中にも、力を付けて貰わないといけないしな。アイテムの内訳は、Pカプセルと薬品類が数個ずつ、それからSPジュエルが何と2個。
後は良く分からない液体の入った瓶も数本、部長によると薬品合成などに多様に使えるとの事。それならと全部預けると、物凄く喜ばれてしまった。
ちなみに俺は、SPジュエルを貰っておいた。
使った効果は5Pと良い結果、また何かスキルを上げようかな……でもこのポイントを使ってのスキル上げ、Lv2⇒Lv3だと3倍のポイントが必要になるみたいなのだ。
つまり3Pの《罠造》や《硬化》だと、Lv2にするのに3P、Lv3に上げるのに6Pも必要になる訳だ。倍々に増えて行くなら、貯めておくのも手ではある。
しかしまぁ、そうすると重いスキルはLv上げ大変そうだ。
そうこうしている間、一行は再び進み始める。寺島は《棍棒術》に続いて、《土魔法》もLv2に上げたそうだ。試してみればと振ってみたが、どうも覚えたのは防御系の魔法っぽい。
殴られるの覚悟で使うのなら良いが、そこまでして性能を確かめたくは無いとの事で。ちなみに、同じく前衛の水っちは、ひたすら均等上げに走っているそうな。
体力上げないと、前衛は厳しいから良い案だと思う。
「それでもやっぱり、新しい技を覚えたいってのもあるし、迷うな~」
「次のSPジュエル、水っちに回してやるから、それまで我慢してくれ。取り敢えずは前衛が強くならないとな、また強い敵に遭遇したら大変だから」
「でも、3人も戦闘員が増えたから、前より随分と戦うのが楽になったよね」
寺島の言う通りだが、敵も段々と強くなって来ている気がしないでもない。一度に襲って来る数は、確実に増えていると断言出来るし。
エリアも少しずつ、大きくなっている感は否めない。次のエリアに侵入した途端、そんな諸々の嫌な予感が、的中したのだと悟ってしまった。
ここからは再び遺跡エリアらしいが、かなり様相が違ってる。
――より混迷を増したダンジョンが、俺たちを待ち構えていた。
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