第17話 奇跡の再会~文芸部



 それ以降は物騒な会話はなされず、俺たちはひたすら戦力補強に従事した。謀反も何も、俺たちが生存を続ける事が最低条件なのは間違いないのだし。

 もっともその条件に、男子教師陣の有無は余り関係は無い訳だ。むしろ、いない方が清々するのは内緒だ。こんなサバイバル状況に、集団に亀裂が入ってるのはアレだけど。

 とにかく備えは怠らない、後で慌てたくは無いからな。


 それより実験の結果、マネキンは結構な力持ちだと言う事が判明した。工具の杭打ちハンマー程度なら、楽々振り回せる様子。ただ、スピードには欠けるので、戦力としては微妙か。

 壁役には、一応は適していると思う……そんな訳で、俺も《借技》でもう1体を追加で作成する事に。南野が2体目を作るのは、レベル的に無理な様子。

 或いはLv2なら、それも可能になるのかも?


 スキル8Pの技を借りるのは初めてだったけど、意外と素直に借りる事が出来た。MP消費が多くかかったのみ、そしてマネキンの動作環境も7割程度の出来に落ち着いて。

 このマネキンを動かすのには、定期的なMP贈与が必要みたいなのだが。別に《人形使役》をスロットにセットしていなくても、エネルギー補給は可能らしい。

 ただし、他人からのエネルギー贈与は一切受け付けないとの事。


 何にしろ、素直に2体目が戦力に加わって嬉しい限りである。俺のマネキンはチャールズと命名しよう、見るからに顔が外国人っぽいからな。

 そして所有させる武器は、定番のハンマーに加え、サブ武器にバールを選択。電動ノコとか考えたけど、さすがにバッテリーが無いので無理だと気付き。

 同じく、草刈り機もガソリンが切れたら無用の長物なので却下。


 音がうるさいと、遠くのモンスターまで引き寄せてしまう可能性があるしね。それよりチャールズ、一言も文句を言わずに重たい荷物も背負ってくれる優秀さ。

 地下鉄のホームで鞄を失った俺は、この店舗でようやく自分用のリュックを再度入手に成功する事が出来た。その中身は厳選して選ぼうと思う、着替えの下着やシャツとか予備の食料とか。

 キャンプ用具も必要だな、ランタンや寝袋とかね。


 もちろん、予備の武器や投擲に使えそうな工具も忘れずにリュックに入れておく。取り敢えずは、チャールズに背負わせる予定のと同じ感じて分けておいて。

 これでどちらかが紛失しても大丈夫、戦闘を担う身なので中身は程々に抑えておいて。ちなみに予備の食料は、ペット用品のジャーキーがメイン。

 ここは人間用の食料は、置いてなかったので仕方が無い。ペットボトルの類いは、結構あったので少しだけ補充しておいたけど。

 そちらは重いので、《時空Box(極小)》の中である。


 俺の時空ボックスは、スロットにセットしないと中身を出し入れ出来ない。不便だけど仕方が無い、そういう仕様なのだから。

 それより、俺たちが苦労して使役したマネキンズ、案の定斎藤先生たちにも驚かれた。確かに、傍から見たらシュールな光景には違いないな。

 大丈夫、俺は味方だぞチャールズ!


 ちなみに、南野は《魂魄こんぱく術》と言う6Pスキルも持っていて、これは使役した人形に魂を注入すると言うレアな技。これを行うと、使役した人形が自分の意思で動き出すらしい。

 面白い技だが、現状ではMPも残り少ないし、使うのは無理だと保留中である。今夜キャンプ地を決めて、寝る前にMPが回復していたら試すとの事で。

 俺もその時は、スキルを借りてチャールズに魂を入れてみるつもり。


「でも、まさか話をしたりはしないよな……?」

「さあ、私も使った事は無いから……でも、夢は広がるわね。命令しなくても動くのは、楽でいいし戦力アップには間違いないわ」


 そうらしい、いや良く分からないけど。彼女がこのスキルを選択したのも、並々ならぬ隠れた情熱があったのかも。そのご相伴にあずかる俺には、ちょっと分からないが。

 女の子って、人形とかぬいぐるみに対する愛情は半端ないってイメージあるし。南野もそうなのかも知れないし、違うのかも知れない。

 聞くのが怖いので、敢えて突っ込まないけど。



 とにかく俺たちは、このホームセンターでの滞在時間で色々と補充や休憩をこなして行って。ついでにこの店舗でも、ポーションを幾つかゲットする事が出来た。

 今まで獲得したPカプセルも、分配して俺の手元には2個ほどある。すぐに使って、75CPと1SPを得た。おっと、SPが2以上増えたな。

 さてどうしよう、《時空Box(極小)》を上げるか?


 こんなボーナスステージが、毎回あるとはとても楽観出来ないし。キャンプ用品ももう少し欲しい、今は食器や料理道具は細木のスキルに頼りっ放しだしな。

 他のメンバーも、もう再出発の準備は整っているらしい。ただし、スキルセットを弄った南野は、《闇魔法》の再セットまでは弱体しているとの報告で。

 大事を取るなら、もう少し時間を置くべきか。


 まぁ、彼女は使い始めた新スキル《人形使役》の操作に忙しいかもだけど。そう言えば、細木が気付いて報告して来たが、ここの商品の消費期限は余裕で期限内らしい。

 つまりは、少なくともこの異世界店舗、品揃えは遥か昔って訳でも無いようだ。察するに現時点での日本の、どこかの店舗をコピーして提供してるんじゃなかろうか。

 そんな推測を、細木たちはしているみたい。


 つまり作為的な補給所を、このダンジョンに放り込んだ誰かさんは設置している事になる。だから今後も恐らくは、そう日を置かずに出会えるんじゃないかと推測している模様。

 そうだと良いが、俺はあの連中は全く信用していない。


 男子教師陣に限っては、大して仕事もしていないのに、疲れ切ったかのように店舗の隅に固まっていた。邪魔にはならないが、少なくとも奴らの目を盗んで出発は無理。

 それより俺は、もう1つ使いたいスキルがあるんだけど。


 さて、どうしよう……《時空Box(極小)》のレベル上げと《購運》の使用だけど。《購運》は、スキルセットしてしまうと、スロット内がさらにぐちゃぐちゃになる弊害が。

 えぇい、悩む時間も惜しい! 時空ボックスは、どのみち大きくして行く予定だし。運はどれだけあっても、現状打破には必ず必要になって来るし。

 皆には少し待って貰って、どちらも敢行する事に。


 そんな訳で、レジのお金漁りを少々……この店舗はレジの数が少なくて、回収は楽で助かる。お金はやはり、つり銭用の小銭を中心に結構な額があった模様。

 全部“運”に変えてしまったから、どれだけあったかは不明だけどね。それよりレベルを上げた時空ボックスだが、容量はそんなに増えなくてガックリ。

 精々、3段ボックス⇒4段ボックス程度だろうか。




 武器になりそうなものと、キャンプ用品を物色して。ようやくこちらの準備は終了、時刻は4時を少し回っている感じ。俺の架空スマホは、取得してずっと出しっ放しである。

 これって思ったよりずっと便利、ハンズフリーで、しかも視線で操作が出来るのだ。他の者からは見えないけど、視界の端に置いておけばマップ確認とかも楽に出来る。

 電池も何も必要ないし、視界も遮らない親切設計。


 他のメンバーは、まだ誰も交換してないそうだが、これは本当にお勧めである。さっき確認したら、CPの交換アイテムがまた大量に増えていた。

 これなら少なくとも、餓死する事態にはならないだろう。CPは放って置いても増えて行くし、Pカプセルから補充も出来るからな。

 後で欲しいモノを、じっくり考えるのも良いかも。


 そして再開した探索の道のりは、先ほどとは一転して静かなものだった。敵の襲撃もまばらとなって、ただその分、強い敵が混じって出現する事態が増えて来た気がする。

 昨日も見た大ムカデや、相変わらず良く分からないカテゴリーの一反いったん木綿。現実エリアで、雰囲気は埠頭ふとうの倉庫のような感じを受ける。

 空気もどことなく、海の香りを含んでいるような。


 あれから俺と南野は、男子教師陣の置いてけぼり計画を論議していない。《服従》の呪いが幸運にも解かれた今、最低条件としては、斎藤先生が納得してくれるか否かがポイントかな。

 それと言うのも、今後ももちろん斎藤先生には、こちらに同伴願いたいと言う願望が存在するから。回復系の魔法は、当然ながら最大の保険でもあるし。

 いや、斎藤先生の人格を否定する訳じゃ無いけどね。


 とにかくこの目論見は、慎重に進めなければね。連中に逆切れされて襲って来られても嫌だし、出来れば自然と縁が切れてくれれば言う事は無いんだが。

 向こうはこちらを、ていのいい露払い程度にしか思ってないのは知っている。だからこそ手放す意思が無い事も、またうんざりする程に分かってしまうけど。

 嫌な縁を結んでしまったな、日頃の行いのせいだろうか?


 とにかく敵の姿は、忘れた頃に急に出現する感じでポツポツ出現した。マネキン2体も大活躍……ともいかず、精々が壁役に利用される程度。

 もっとも、大ムカデの毒を気にせず、抑え込めるパワーは重宝しそうだけど。その2体を較べると、やっぱりチャールズの方がパワーが弱い。

 仕方ないとは言え、ちょっと悲しいな。


 埠頭の倉庫ルートは、やはり前回より広くて分岐も増えていた。蜘蛛の巣エリアも存在して、こちらの気力を消耗させる気満々な気がする。

 ところが、このエリアで意外な出来事に俺たちは遭遇した。今までの探索で、一度も無かった事態である……別の探索グループと、ばったり遭遇したのだ。

 しかも俺の顔見知り、文芸部の嶋岡しまおか部長たちだった。


「皆轟君、こんなところで出会えるなんて! 凄い偶然だね、いや無事で良かったよ!」

「おおっ、部長に……尾崎おざき水本みずもとか、お前らも無事だったのか、良かったよ!」


 思わず大声を出して抱き合う俺たち、何と言うかこんな場所で出会えるなんて運命を感じてしまう。ちょっと感極まって、大げさな行動に出てしまったけど。

 何と言うか、生死の境を潜り抜けた先だと、ちょっとした偶然でも感動を味わえるモノ。どう言う経緯なのかと問う俺の質問に、嶋岡部長の顔は目に見えて歪んで行った。

 どうやら相応に苦労したみたい、こっちも似たようなモノだけど。


 足を引っ張る男子教師陣とか、いきなり呪いを喰らってのマイナススタートだとかね。でもまぁ、もう一つの約束のスキル多めは守って貰えたのでそれ程でも無いか?

 いやいや、呪い3つで充分にお釣りが来る……1つは思わぬ他陣営の横槍で、何とか取って貰えたけど。そんなこちらの経緯も、異世界転移に造詣ぞうけいが深い部長には、是非にも聞いて貰いたい。

 などと思っていると、後ろの陣営から仁科がやって来た。


 そして、問答無用で絶対忠誠を《命令》して行きやがった。生徒に使役系のスキルを使うとか、奴は正気なのかと驚いた感じの嶋岡部長。

 さすがの部長は、奴のスキルをレジストしていたようだったけど。可哀想に、尾崎と水本は完全に委縮してしまった様子。くっそ、使役スキルって厄介だな!

 何とか解除する方法、どこかに無いモノか……?


 取り敢えず、俺は新しく遭遇した3人に、現在の仲間を紹介する。ほぼ成り行きで結成されたパーティだが、ここまで脱落者も、大きな怪我人も出さずにやって来れた。

 斎藤先生も、仁科先生の態度はアレだけど、もう安心して大丈夫と太鼓判を押す。うん、確かにそんな流れだが……戦力になってくれれば、こっちも助かるのが正直な話。

 なにしろチャールズは、今日が初陣だしな。


「マネキンが前衛って、変わった戦法を取ってるんだね……スキルは何だろう? もちろん僕らも、戦闘には参加させて貰うよ、前衛は生憎と水っちしか出来ないけど。

 ……実は、昨日の戦闘で前衛をやってくれてた仲間が……」

「えっ、死んだのか……?」


 そうらしい、部長とは同じクラスだったらしいが、俺とは面識のない生徒だった。斎藤先生はかなりショックを受けたようで、呆然自失の状態に。

 それはそうだ、自分の受け持ってたクラスの生徒が亡くなったのだ。しかも2人らしい、そんな事態に出遭えば、顔を思い出せない俺だって落胆してしまう。

 仲間意識って、大抵はそんな感じだよな。


 しんみりしてしまったが、後ろからさっさと進めと空気を読まないヤジが飛んで来て。さすがの斎藤先生も、これには目をいて抗議の構え。

 俺たちはその間に、それぞれ通って来たルートを刷り合わせる。


 嶋岡部長たちは、やはりホームセンターの店舗には寄っていなかったようだ。全く別のエリアから、今のエリアに到達したらしい……しかも、逃げるようにして。

 どうも、2人の生徒を殺害した変異種モンスターを、部長たちは完全に倒せなかったようで。パーティ壊滅の被害の中、ようやくの事生き残り勢で逃げ出す事に成功したらしい。

 悔しそうな辛そうな、部長の告白に俺も胸が苦しくなって来た。


 嶋岡部長のグループも、壮絶な道のりを辿って来たんだな。俺は脱落者に黙とうを捧げつつ、聞き慣れない部長の発した言葉に思わず質問を投げ掛ける。

 隣の寺島は、どうも見当がついているらしいけど。つまりは変異種ってなんだ? やたらと強いのは話からも分かるけど、例えばあのガーゴイルみたいなモノなのかな?

 ちょっと違うらしい……変異種とはどうも、そのエリアには本来いない筈のレベルの強敵の総称なのだとか。


「ゲームとかだと、レアモンスターとかユニーク種とか、色々と呼び名はあるけどさ。強くて癖があって、お宝いっぱい持ってるイメージ?」

「ここの奴が、それに当て嵌まるかは分からないけど、概ねそんな説明で合ってると思う。出遭ったのが不幸だったのさ、塩崎しおざき浅岡あさおかには本当に申し訳なかった……」


 しんみりとしてしまうな、それも仕方が無いけれど。思えば、この過酷な異世界ダンジョンに放り込まれて、既に3日が経っているのだ。

 実際は、犠牲になった生徒の人数は、もっと多いのかも知れない……。そもそも、ホームに残った連中は無事なんだろうか? 戻ろうにも、無理な構造なので確認し様も無いが。

 せめてスマホの、電話機能が使えてたらなぁ。


 地下鉄での待ち合わせ中に、直前まで話をしていた光哉みつや直史なおふみは無事だろうか。俺が意識を取り戻した時には、伝言を残して先に探索に出掛けていたけど。

 確か道場の仲間、静香と玖子も一緒の修学ルートだったよな……最近はあまり喋らなくなっているけど、昔はそこそこ仲は良かったのだ。

 安全な場所を、探し当ててくれればいいんだけど。


 自分たちの事でいっぱいで、精神的にきつかったせいで。友達の事とか、ほぼ思い返す余裕が無かった。文芸部の仲間を慰めながら、不幸は誰にでも起こり得る事だと口にする。

 南野はもう少しクールで、これ以上犠牲者を出さないようにしましょうと。新しい仲間のスキル情報をチェックしつつ、戦闘配置を決めて行ってくれている。

 そして斎藤先生が戻るのを待って、探索の再開だ。



 とは言え、パーティ全体が、もう探索の雰囲気ではなくなっていたので。ひたすら今夜の寝床を探す感じの緩いモノへとシフトチェンジ。

 その結果、次のエリアへと通り抜けた先に、何とか仮の寝所になりそうな場所を発見した。辛うじて及第点だったのは、倉庫の端にトイレと水飲み場があったから。

 もちろんの事、ベッドや快適な部屋は見当たらない。





 ――それでも人数の増えた俺たちは、昨日よりも大きな安心を得たのだった。





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