第15話 反逆の兆し
それぞれの強化されたスキルを確認しつつ、探索は続いて行く。今回の古墳エリアは意外と広く、次のエリアの境目を見付けるのに酷く苦労してしまった。
その間に戦闘は2回ほど、敵は毎度のゾンビとスケルトンの群れだった。2度目の群れには、それに加えてゾンビ犬が少々混じっていた。思ったより動きの素早いコイツに、少々苦労させられたが。
《罠造》の投網で動きを封じて、事なきを得た次第。
もちろん、時々ゴーストの襲来もあった。《借技》の効果が切れていたので、もう一度先生に《光魔法》を借り直しての移動だったのだけど。何と新しく、魔法の種類が増えていてテンション上がるっ!
どうやら元の、斎藤先生の《光魔法》がLv2になっていたせいらしい。そう言えば、借りる際のMPコストも微妙に増えて8も必要だったけど。
4×2の方式なのかな、強いスキルを借りるのも大変だ……。
ちなみに新しく増えていた光魔法は、《光盾》と《光付与》の2つである。どちらも光の性質の盾を出現させたり、或いは自身に付与したりが可能となっていて。
貴重なMPを消費して、斎藤先生と2人で検証して分かった事実である。MP消費は4~5と痛いが、特に《光付与》はゾンビにもスケルトンにも効果大!
付与された武器の攻撃で、連中はほんの数撃で昇天なすってくれた。
俺の交換した銀製の穂先だが、寺島の予測通りにゴーストにも微力な効果が認められた。残念ながら《光魔法》のような一撃必殺ではなく、何度か突き刺せば倒せるって感じだけど。
やはり戦力アップの実感は、《光付与》が一番大きな気がするな。MP消費5はきついし、その上効果は10分程度しか持たないけど。
このエリアでは、効果抜群なのは間違いなし。
俺の《罠造Lv2》の効果だが、次のエリアに進出しての実証となった。今日はあんまり進めてないが、エリアにようやく変化がみられて。
次はお馴染みの、現代建築ダンジョンだ。どこかうらびれたシャッター商店街の、通路が延々と続いている。何か嫌な雰囲気で、気が滅入るってモノだ。
そんな景色の中を、一行は進んで行く。
ちなみに幾つか試してみたが、どのシャッターも開かない仕様みたいだ。まぁ、現実世界でも店の持ち主以外に簡単に開けられるシャッターなど、何の防災にもなって無いけどね。
つまり道は限られていて、それでも分岐は道なりに幾つか伺える。細い分岐の奥は、しかし大抵は行き止まりになっている感じだけど。
なのでメイン通りを、俺たちは真っすぐに進む事に。
ここで出現する敵だが、既にお馴染みの大ネズミと野犬が相変わらず。たまにカラスが出て来たり、初見では大ゴキブリが群れをなして襲って来た事も。
女性チームはもちろん絶叫、俺も久々に背筋にゾワッと寒いものが。
「ひっ、皆轟君……!!」
「慌てるな、寺島……投網で一網打尽だ、上から殴りつぶせ!!」
いやまぁ……奴らの特性で、投網と地面の僅かな隙間から逃げる奴らもいたんだけどね。南野が必死になって、《闇魔法》の闇の波動を飛ばして接近を阻害している。
終いには、手渡された即席火炎スプレーで、細木まで駆り出される始末。初の戦闘参加じゃなかろうか、ゴキが火に弱くて助かったけど。
熾烈な戦いの中、やはり新しい《罠造》スキルは試せず終い。
無理に新しい技を試して、効果が薄かったら
単体で出てきてくれる、スピードの遅い相手がいれば理想なんだけど。そうそう上手くは遭遇出来ず、時間だけが過ぎて行く。
そうこうしている間に、このエリアは終了の運びに。
団体様との遭遇が多いお陰か、経験値の入りは極めて順調だ。ただしPカプセルのドロップは、弱くて小型の敵が増えたせいかほぼなくなってしまった。
気を取り直して次のエリアへ、適当に進路を選択して進んで行く。今度もシャッター街通りだが、地下街へも進む事が可能みたい。
シャッターの閉じた店舗の合間に、下へ降りる階段がある。
「進路はどうします、斎藤先生? メイン通りには、敵はいないみたいですけど」
「地図を見る限り、この先は行き止まりみたいですよ。次のエリアに進むには、地下へ進む必要がありそうですね」
俺の言葉に続いて、南野がスマホをチェックしてアドバイスをくれた。それなら地下へと降りるしかないと、俺と寺島は覚悟を決めて階段を下りて行く。
視界の端に、一定の距離を置いてついて来る男子教師陣の姿が見えた。露払いの役目をしている限りは、文句も言って来ないし今はこれで良い。
不本意ながらも、こんな関係で進むしか無く。
急に視界に白い物体が飛び込んで来て、俺は驚いて後ろに飛び退いた。階段を下りた間際の出来事で、段差に
寺島はもっと酷くて、その白い布のような物体に絡み取られて身動き不能に。どうやらコイツ、意思を持つ長い布型生物のような感じらしい。
一反木綿だと、細木が感心して呟くのが聞こえた。
これはどこを攻撃すれば倒せるんだ、そもそも妖怪は通常武器で倒せるのか? 様々な疑問は閉じ込めて、まずは寺島の救助に向かう。
生きている布って、何とも触り心地が奇妙だな。ちょっと例えが思い付かないけど、独特な動き方に思わず腰が引けてしまう。《平常心》は外してるから、そのせいかも。
とにかく急がないと、寺島が窒息してしまう。
何とか一反木綿を剥ぎ取った瞬間、後方から魔法が飛んで来た。それに撃ち抜かれて、一瞬で活動を止める不思議生物。HPは低かったようだ、助かった。
しかし、こんな敵でも油断してたら死を招くな……当の寺島が、その事については一番理解している筈。厄介な敵は2匹のみ、他には見当たらない。
そして左右に続く、地下シャッター商店街。
ちなみに一反木綿の成れの果ては、細木が回収して素材に出来ないか検証するそうだ。面白いアイデアだが、果たして上手く行くかどうか。
個人的には、上手く行って欲しいんだが。
「左から何か来る……気を付けて、2人とも!」
「了解……行くぞ、寺島!」
先ほどの戦闘音を聞きつけて、何かが近付いて来たらしい。地下街も灯りは充分で、歩き回るのに苦労は無い。相手も同じく、真っすぐこちらに向かって来ている。
ここはチャンスか、つまりは《罠造》のMP消費4以上を試す。ターゲットの姿を視界に確認すると同時に、俺はその作戦を実行に移す。
まずは、MP消費4の罠を喰らわせてやる。
そいつは何と言うか、仮面をつけたサルとでも言おうか。小柄なのは分かっていたが、毛むくじゃらで両手が異様に長い。仮面は顔の上半分を覆っていて、サルの口元の牙は剥き出しだ。
サルが割と凶悪なのは、地元の近くにも出没するので俺も知っている。ってか、野生動物はカラスでも猪でも、大抵は何でも狂暴なんだけどね。
しかもそいつ、右手に棍棒を持ってるし!
明らかにヤル気な相手に対し、こちらも迎撃態勢は一応整っている。ついでと言ってはアレだが、待望のソロ襲撃の相手なのだ、奴の通路上にMP消費4の罠を設置。
そして素直にそれを踏んでくれる、雰囲気は怖いが心遣いは優しい仮面サル。途端にどこからか飛んで来た、複数の矢に貫かれて大変な事に。
しかもどれにも、毒か何かが塗ってあったようで。
「うわっ、酷い……」
「いやっ、ちょっと《罠造》の性能チェックで……」
寺島の小声での呟きに、思わず言い訳じみた返答をしてしまう俺。こんな筈じゃあ無かったんだとか、思わず頭を抱えて白状してしまいそうだけど。
敵を簡単に仕留められた事は、そもそも素直に喜ぶべき事と気付いて。これも割と使える罠だと脳内で認定、MP消費量は多いけど結果は満足だ。
そしてこの敵からは、ようやくPカプセルを収穫出来た。
それから死体検分、このサルのしていた仮面は、どうも特殊な効果があるようだ。能力の一時パワーアップとか、俺の《日常辞典》では良く分からないけど。
だからと言って、死体から剥ぎ取ったこの仮面を、進んで被りたいとは思わない。寺島も同じ気持ちらしい、そんな感じでこの装備はスルー。
代わりにコイツの持っていた、棍棒は寺島の元へ。
地下街の通路では、単独でこの仮面サルが出没する仕様のようだった。体格も微妙に違うし、かなりガタイの良い奴はそれなりに強敵だった。
それでも《罠造》のMP消費5の実験には、最適な敵ではあったな。その効果も絶大で、単独の敵には良い感じで作動してくれた。
上から落下の鐘打ち棒の一撃で、雑魚敵はほぼ行動不能に。
投網もそうだが、一体どこから出現するかが全くの不明である。敵を始末したらフイっと消えてしまうし、魔法扱いなのかも知れないな。
とにかくレベルを上げた効果は実感出来たし、上げて良かったとも思う。俺のスキルの中で、続けて他に上げるとすると……《硬化》とか《投擲》かな?
《硬化》はしかし、考えると防御寄りのスキルだしなぁ。
前にも言ったが、間違えてもネクタイに掛けてブン殴るような類いの技ではない。あれは武器が全く手元になかった時の非常措置で、今ではちゃんと槍とか手製フレイル持ってるし。
だからと言って、《投擲》もどう考えてもサブ用の技だしな。これで敵を、丸々1匹倒せと言われても困ってしまう。物凄い威力の爆弾とか、手元にあれば別だけど。
今あるのは、精々が使い回しの矢とかナイフ&フォークのみ。
などと強化案やら何やらを考えつつ、このエリアの端へと到着。仮面サルは全部で8匹出現して、結構な割合でPカプセルを落としてくれた。
一番大きかった奴は、SPジュエルを落としてくれたし。旨味はあったが、それとは別の心配事が。段々と、敵が強くなって来た気がして仕方が無い。
現に俺はゴースト戦以降、改めて《光癒》のお世話になったし。
架空スマホをチェックしたところ、時刻はお昼の2時前となっていた。まだ今夜の仮宿を定める時間ではないが、少し休憩は挟みたい気はする。
次のエリアがどんな様子かを見てから、休憩場所を決めましょうとの斎藤先生の言葉に。俺と寺島は頷いて、いざ異界ゲートを潜って行く。
そして約5秒後には、歓喜で飛び上がっていた。
いや待て俺、興奮するのはまだ早い……昨日のスーパーには敵はいなかったけど、ここにいないとは限らないし。間違いなく何かの店舗には違いないが、品揃え的には食品は少ないみたいだ。
恐らくホームセンターか何かだろう、昨日のスーパーよりは広い気がする。俺は寺島に合図して、まずは安全確保の見回りへと歩を進め始める。
うん、どうやら敵の気配は無い様子。
それと同時に、男子教師陣がエリアにインして騒ぎ出した。異界のダンジョン仕様とは言え、彼らに好き勝手に漁られる店舗には気の毒に思う。
いや、俺たちも漁るんだけどね……少なくとも俺たちは、必要な分だけ誠意を持って貰って行こう。うん、必要と言えば……パンツとか置いてないかな?
着替えも欲しいな、なにしろ3日間着た切りスズメだったから。
俺たちの安全報告に、それならと斎藤先生は暫くの自由行動を申し渡してくれて。女性陣も、同じく着替えや生活用品を物色して回るみたい。
こちらも同じく、作業着を中心にこのホームセンターは取り揃えが豊富みたい。ジーンズや安全靴も置いてあるし、武器になりそうな工具もある。
ここは当たり店舗かも、とにかく先にサッパリしよう。
そこからは暫く、売り物のタオルや着替えを物色して回る。自分の今着ている制服を改めて眺めたら、敵の血や良く分からない液体で、見るも無残な状態だった。
これは完全に、オール交換案件だな……ついでに物陰で身体を拭いて、簡易水浴びを済ませる事に。こんな時は、俺の《時空Box(極小)》は有り難いな。
次はこれを、Lv2に上げるのもアリかな?
とにかく着替えを含めてサッパリした俺は、10分前とはまるで違う格好に。迷彩の作業着が何故かあったので、現在の俺はサバイバル風味を醸し出している。
それを見た寺島は、自分も真似しようと売り場を覗いてる始末。迷彩服はともかく、安全靴はぜひ装備して欲しい。それから次は工具コーナーだな……おや、盾っぽい工具もある。
溶接用の工具かな、でも軽いし良いかも。
ハンマーもいいな、重い先端はもう少し狂暴性が欲しいけど。衰弱状態の俺の筋力では、やや振り回しに難があるのも否めない。
やはり手製フレイルの方が、取り扱いが簡単なのは確かだ。アレに刺とか付ければ……いや、間違って自分が怪我しそうだし、その案は止めておこう。
それより、もっと別に強化案があれば良いんだが。
「皆轟君、ちょっといいかしら……私のスキル実験をしたいんだけど、効果があれば皆轟君もと思って」
「おうっ、南野……何のスキルを実験するって?」
どうやら《人形使役》のスキル実験らしい、連れて来られた区画には、マネキンが数体並んでいて。えっ、これを使役するのかとの、俺の戸惑いは当然だろう。
それでも南野は、かつてない程に興奮している様子。その小柄な体をソワソワさせて、無表情なマネキンを見上げて物色している。
俺としては、このマネキンが動き出す方が怖いんだが。
それでも確かに戦力増強には、使役マネキンの前線への参加は有り難いかも? 《人形使役》は8Pと重いので、南野的にはスキルセットの併用は難しいそうで。
その上、使役しようにも今まで人形に出逢えなかったと言う。
まずは南野がセットを弄って、初めての《人形使役》を慎重にマネキンへと使用する。果たしてマネキンは次の瞬間、割とスムーズに動き出した。
見守っていた俺も、これには驚きを隠せない。斎藤先生と細木の2人は、今は女子トイレで身体を拭いたり身繕いをしている最中らしい。
残念だな、新たな仲間の誕生に出会えないとは。
なおも興奮模様の南野は、マネキンに色んな指示を与えている様子。人間そっくりとまでは行かないが、少なくとも錆び付いたロボットのような動きでもない。
武器を持たしてみようぜと、俺は先ほど発見した工具売り場に南野とマネキンを誘う。その移動の途中で、こちらを驚き顔で凝視する仁科先生と遭遇。
まぁ、普通はこの状況で驚かない奴はいないよな。
ところが仁科は、次の瞬間には
そんなの、自分の身の安全を守るために決まっている。どうやら向こうは、男子教師陣の集団を切るためだと思っているぽいけど。
こっちだって必死なんだ、戦力補強の機会は逃したくなどない。
散々とゴネられて、下らない条件や愚痴を聞かされるこちらの身にもなって欲しい。あちらはとにかく、自分の立場の保身に必死なのだろうけど。
そう言う行動を取られる度に、そっちの評価がダダ下がりなのを分かってるのだろうか。散々嫌味を聞かされて、何とかマネキンの所持を認めて貰ったモノの。
心の中では、お前の許可なんかいらないよとの魂の叫びが。
どうやら南野も気持ちは同じだったらしく、普段は表情の動かない涼しげな顔が、苦々しいものへと変わっていた。さもあらん、良かれと思っての行動にケチをつけられたのだ。
いや、実際この戦力強化は随分と有り難いけどな。少なくとも見知らぬ異界のダンジョンを、先陣切って進む俺と寺島にとっては。
何しろ、凶悪なトラップ1つで酷い目に遭うのは俺たちなのだ。
アレは完全に、そんなのは全て他人事と言う態度に他ならない。こちらが全滅でもすれば、困るのは向こうも同じなのに。知恵が足りないのか、元が楽観的なのか。
考えてみても無駄だろう、何しろ最近は仁科の《命令》縛りも
「ねぇ、皆轟君……謀反起こそうか?」
「そうだな……奴らを置き去りにしても、たぶん誰からも文句は出ないよな」
――南野からの提案は、或いはもっともな申し出だった。
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