第14話 天罰とパワーアップ会議



「皆轟君、この石像の持ってる槍の穂先、ひょっとして外せるんじゃないかな? 何かの金属かも、私の身長だと届かないけど」

「おっ、マジか……おおうっ、これは良さそうなモノだな! サンキュー、細木!」


 寺島と一緒に古びた棚を漁っていたら、細木が武器に使えそうな穂先を見付けてくれた。女性陣も各々が探索中で、前もってこの広場の安全はチェック済みである。

 ちなみに現在の俺のスロット、必然的に《借技》と《日常辞典》をセットしているお陰でぐちゃぐちゃである。最近は《高利貸》を外してもいいかなとか、普通に思っていたり。

 憎しみよりは、我が身の安全の方が重要だからなぁ。


 《日常辞典》で確認した結果、穂先は何と銀製の逸品だった。これはひょっとして、ゴーストにも物理で対処可能になっちゃうのではなかろうか?

 などと妄想していたら、今度は寺島に呼ばれた。さっきから漁っていた棚の下から、弁当箱より少し大き目の木箱を発見したらしい。

 このまま開けて良いモノか、判断し兼ねるとの事で。


 素人の俺の選定眼では、罠があるかなど判別は不可能である。とは言え、こんな薄い木箱に幾らも時間を掛けてなどいられない。

 俺は思い切って、その蓋を開け放つ。


「おおっ、ポーションセット……かな? ポーションにマナポに、この赤いのは『戦闘力増強の秘薬』だそうだ。筋力とかスピードが、一時的にアップするみたいだぞ。

 1本しかないから、誰が持つかは要相談だな」

「普通に皆轟君でいいんじゃない? いやでも、今はMP使用の魔法剣士みたいな立ち位置だし、ちょっと微妙だね」

「俺の立ち位置は、今は魔法剣士なのか……ちょっと格好良いけど、要するに何でも屋って事じゃね?」


 そんな事無いよと、こちらをヨイショする寺島の瞳は確かに泳いでいた。《観察》を付けてなくても、その位は分かるぞ。まぁ良いけどな、そしてまた呼ばれた。

 今度は斎藤先生と南野が、チェストを発見したらしい。広場の端の方の草むらの中、それはひっそりと置かれていたそうで。

 怪しいけど、中には確実に何か良いモノが入ってそう。


 呼ばれはしたものの、こちらにも罠の探知とか鍵開けのスキルなど勿論無い。それより、ようやく広場に辿り着いた、酔っぱらい連中の戯言ざれごとが酷くうるさい。

 これ見よがしに置かれた祭壇の宝物が、気になって仕方ないらしいけど。アレに手を出さない程度の、常識またはマナー所持には期待したい。

 こちらは目の前の、チェスト開封に集中したいし。


 結局は、力押しで行く事にした。《罠造》でトラ挟みを造り出し、チェストを粉砕して中身を拝もうとの作戦である。そして何故か上手く行った、鍵穴から何か飛び出た時は驚いたけど。

 どうやら仕込み針の罠があったらしい、やだ怖い。


「……何か宝石みたいなのと、巻き物みたいなのが入ってるな。あと1個は、Pカプセルみたいだな。ちょっと鑑定してみる」

「お願い、皆轟君」


 鑑定と言っても、スキルの《日常辞典》で調べるだけなんだけど。だから大した知識は得られないけど、名前と効能だけは辛うじて分かった。

 宝石はSPジュエルと言って、使用すればスキル専用ポイントが、幾らかランダムに増えるらしい。巻き物は、驚いた事にスキルの書だった。

 どうやら《暗視》のスキルが、使用者に付与されるみたい。


 《暗視》はスキルセット1Pと非常に軽いが、暗所での行動にはこの上なく役立ちそう。それよりもスキル専用ポイントとの言葉に、俺たちは揃ってアレッという顔付きになった。

 何か色々と情報が滞っているけど、各々が所持しているスキルって成長させられるんだっけ。何かそんな話は、確かに何処かで聞いた覚えはあるけど。

 逆に言えば、スキルを成長させないと、今後苦しい展開に?





 などと、獲得したアイテムの分け方も含めて、皆で相談していたところ。聞きたくも無い、中年オヤジの絶叫が広場に響き渡った。

 咄嗟とっさに周囲を窺うが、敵がこの広場に入り込んだ形跡は無い。ゴーストなら或いは、こちらに知れずに接近する事は可能だろうけど。

 とにかく、俺と寺島は武器を手に声のした方へ。


 絶叫の主は、どうも押野と田沼だったようだ。俺達が供物を含めてスルーした祭壇だけど、実は結構大きくて立派な石造りで。

 中央の神像らしきものは、どの宗教かは全く不明だけど、人の背丈の半分程度。その両脇に、それを守護するように石造りの怪物の像が置かれていたんだけど。

 それが2体とも動き出して、男子教師を攻撃している。


 うん、見事に罰が当たったんだな……恐らくお供え物の、取っちゃいけない品物に手を出したのだろう。子供騙しの仕掛けではある、ってか恥じらいがあればまず取らない行動だ。

 2体の石像は、俺が見た限りガーゴイルで間違いないらしい。さっき眺めた時に、何となく嫌な予感はしていたんだけどな。

 斎藤先生の言葉が無くても、手は出すまいと思う程度には。


 それをこの教師陣、あっさりと引っ掛かって酷い目に遭っている。執拗に狙われているのは押野で、俺と寺島が殴り掛かっても、石像はこちらを見ようともしない。

 田沼に関しては、一応は仁科と共に反撃を試みたようだ。その試みは大いに失敗に終わった様子で、勿体無い事に所持していた剣が完全に折れている。

 3人ともボロボロ、ガーゴイルが素手なのが唯一の救いか。


 武器を持っていたら、不意打ちで一発アウトだったかもな。それにしても硬い、石なので当然だが、石槍とか効果が無いのは見たら分かる。

 今はスキルセットが歪なので、《罠造》位しか主力になり得ないな。一応は《光弾》を飛ばしてみたが、石の表皮に多少の焦げ目が付いたかなって感じ。

 寺島の《土弾》も同じく、硬い音で弾かれて終わり。


「寺島、1体をトラ挟みで封じるから、残った奴を2人で何とかするぞ!」

「わ、分かった……魔法が全然通じないよ、剣も駄目だし飛び掛かるくらいしか手が無いよ?」


 その度胸があれば良い……何だかんだで、寺島も戦闘度胸がついて来たな! 俺は言葉通りに、田沼をつけ狙うガーゴイルをトラ挟みのターゲットに指定する。

 目論見は上手く行って、何とか1体は自由を奪う事に成功。ただし、さっきの木製チェストみたいに、歪みも傷も大して与えられてはいない様子。

 汚い悲鳴を上げつつ、田沼と仁科は戦場を離脱していく。


 こっちをフォローするって思考は、全く湧いて来なかったみたいだ。もっとも、唯一の武器を見事に壊した現状、無手での連中は戦力にもならないだろうが。

 斬り付け武器があっても、こんな硬い相手ではどうしようも無いけどね。とにかく、俺と寺島は残ったガーゴイルにタックルを連続でかます。

 押野は既にボロボロで、立ち上がる気力も無い様子。


 石像は俺よりやや小柄だが、体重は遥かに重いようだ。この重さを利用出来ないかと、奴の肩口に抱きつきながら考える。ちなみに寺島は、奴の腰に見事なタックルを仕掛けていた。

 なかなかやるな、感情の無い石像が怯んでいるのが分かるよ。ってか、こいつ力が強いな……暴れられると、こんな抱擁は長くは持ちそうにない。

 そこで閃いた、やはり頼りは《罠造》だ。


 寺島に注意を呼び掛けつつ、コイツの真下に1MP消費の落とし穴を作成。見事に落っこちて、自重で槍衾やりぶすまに脚を砕かれるガーゴイル。

 俺は肩口から、乗り掛かる様にさらに奴へと体重を乗せて行ってやる。それから腰を抱きかかえていた寺島に、俺の上に乗っかる様にと指示を出す。

 間に挟まれた俺は、結構苦しかったけど。


 浅い落とし穴に嵌まり込んでたガーゴイルは、もっと悲惨な目に遭っていた。腰の辺りまで槍の穂先が食い込んていったようで、とうとう十数秒後には動かなくなってしまった。

 動力源の核か何かがあるとしたら、てっきり胸の辺りかなと思ってたんだけど。半壊させれば、コイツは動きを止めてくれるみたい。

 しかも口元から、Pカプセルも吐き出してくれていた。


 素敵な模範解答に味を占め、2体目も同じ方程式で仕留める事に成功。これで何と、皆のレベルが5へと上がった模様で何より。

 俺も今回は一緒に上がったし、置いてかれ感は味合わずに済んだ。



 戦後の処理に、完全に意識朦朧の押野に《光癒》を掛けてやる。もちろん、《高利貸》の貸し付けは忘れないが、借りた技での回復具合が見たかったと言う理由も。

 斎藤先生は、補助スキルに《治療》と言うのも持っているらしく。それが《光癒》の効果を高めるそうで、俺の仮初めのスキルとは大違いみたいだ。

 その斎藤先生は、ダメな大人2人を現在治療中。


 ちなみに押野先生は、治療中もずっと片手に祭壇から取ったお供え物を離さなかった。どうやら本物の宝石らしい、大人の手の平からもはみ出る位の大きさは、かえって不気味だ。

 日本に持ち帰れば、一体幾らで売れるんだろうね……それも命あっての物種だが、この人たちは言っても耳を貸さないだろう。

 そういう人種だ、天罰よりも欲を取る。


 せめてコンディションは整えて欲しいものだ、今では完全に足手纏いなのだし。その自覚も無いのかな、こちらがいつまでも一緒にいると思ったら大間違い。

 そもそも何で一緒に行動しているんだ、こちらに利点が全くない! かと言って縁を切るのも難しいな、正論で退けられるような連中じゃないのは確かだし。

 やるとしたら、見捨てるか置き去りにするかだけど。


「……治療終わりましたよ、どうです?」

「……糞ったれが!!」


 ほらね、治療のお礼すら言って来ないし。生徒を奴隷とでも思っているのかね、こちらも聖人君子じゃないんだし、不愉快だから立ち去ろう。

 ってか、斎藤先生の方も似たような状況みたい。どうやら供物を祭壇に戻してくださいとの、ストレートの正論を無下に却下されたらしい。

 救われないな、俺の鑑定だとそっちの宝石はイミテーションだよ?


 だからなのか、仁科と田沼先生の傷はそれ程でも無かった様子。五月蠅そうに治療して貰った斎藤先生を振り払い、どすどすと向こうへと去って行くその姿。

 次に手痛い傷を負ったら、本当にどうするつもりなんだろう? こっちもお人好しの限界があるって、考えもしないんだろうか。

 もういいや、向こうに振り回されるのも腹が立つだけだ。


「本当に、どう仕様も無い人たち……同じ教師なのが恥ずかしい、供物をくすねるなんて罰当たりな事をして!!」

「信仰する神が違えば、横柄な態度も許されると思ってるんでしょ……歴史上では、幾らでもあった事ですよ、斎藤先生」


 クールだな、南野は……歴史好きなのかな、確か成績はすこぶる良かったような覚えはあるけど。俺たちは車座になって休憩を取りつつ、今後の方針について話し始める。

 もっとも、最初の数分は男教師どもへの愚痴が大半だったけど。


「SPジュエルの存在で、どうも所持スキルも成長が見込める事が分かったんだけど。これって、逆に言えばさ……スキルも成長させて強化して行かないと、痛い目見るって事じゃね?」

「確かに、皆轟君の推測は合っていると思う……セット4Pの魔法系は、SPポイント4を使用すれば、恐らくレベルが上がると思うんだけど。

 それで新しい魔法とか威力が、増えてくれるんじゃないかしら?」


 ちなみに、レベルアップで増えたSPも、所持スキルへのレベル上げに使用出来る事は判明済み。だから今回のレベルアップで、貯まったSPの使い道を皆で論じているのだ。

 まぁ、ここら辺はジレンマと言うか……ステータスも勿論上げたいし、スキルも強化したいのは当然なので。圧倒的にポイントが足りない、そこでSPジュエルの出番である。

 今回見付かったのは3個、さてどう分けよう?


 もっとも、敵が落としたPカプセルも7個あるので、そこまで不公平にはならない筈。《暗視》のスキル書も見付かってるし、分け方が難しいかも。

 結局は斎藤先生に均等に分けて貰って、スキルは欲しい人が取る事に。俺は既に、大量のスキルを所持する身なので潔く辞退する事に。その代わり、PカプセルとSPジュエルを1個ずつ貰った。

 そして、熟考の末にパワーアップ!




 皆轟春樹:Lv5   HP:21(36)   MP:26(42)

=======----------------------

物理攻撃:26(34)   物理防御:20(27)

魔法攻撃:15(24)   魔法防御:11(17)


スキル【12】《日常辞典》《罠造Lv2》《高利貸》《借技》

予備スキル《餌付け》《観察》《平常心》《追跡》《投擲》《時空Box(極小)》《エナジー補給》《購運》《硬化》《夢幻泡影》

獲得CP【48】   獲得SP【1/1】


状態異常:呪い《衰弱》《悪夢》

装備:銀の槍、手作りフレイル、木の盾

持ち物:ポーション×2、マナポ×2、毒消し薬、架空スマホ



 Pカプセルでは、今回残念ながらSPは増えなかった。その代わりCPを大量に入手、念願の架空スマホを入手可能に。SPジュエルでは、何とスキル専用に4Pをゲット出来た。

 この数値は、どうやら平均値らしいね。南野は3Pで、1Pをレベルアップ分のポイントから支払っていたし。斎藤先生は逆に5P入手で、余裕で《光魔法》を2Lvへと上げていた。

 なんにせよ、皆が順調に強化に勤しんでいる。


 細木に限っては、完全に裏方だったけど。それでも俺の石槍の穂先を銀製のに変える作業を、《糸紡ぎ》のスキルを使ってしてくれている。

 驚いた事に、《糸紡ぎ》はそんな加工にも使えるらしい。他にもマフラータイプの装備品を、回収した蜘蛛の糸で作っている最中らしい。

 何か特別な効果が、付与されていると良いけど。


 通常のSP2ポイントだが、俺は素直に均等レベルアップに回した。今回もスロット増は無し、そこまで運は味方してくれなかったみたい。

 他には、細木のお陰でメイン武器が銀の槍へと格上げされた。穂先は普通に固定されていて、なんの危なげも無い感じ。羨ましそうな表情の寺島、駄目だコレはやらんぞ!

 広場で見付けた薬品も分け合って、まずは一息。


 例の戦闘力増強の秘薬は、結局寺島に持っていて貰う事に。現状では向こうの方が力が強いからな、ってかこっちは衰弱してる身の上だし。

 Lv2に上げた《罠造》に関しては、これから検証するつもり。MP4消費以上の技が使えるようになるのかな、それはそれでMP量の少ない俺には負担だけど。

 この先パワーアップが必要なのは、恐らく確定なので仕方が無い。


 魔法使いの面々も、使える魔法が増えたと喜んでいる様子。これもこの後の戦闘で、要検証となる訳だけど。ついでに昼食も取って、もうすぐ出発となる予定。

 勝手に予定を決める事も、既に抵抗なくなって来たな、斎藤先生。





 ――やれやれ、男教師どもがゴネなきゃいいけど。




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