第13話 異世界探索3日目
昨日の目覚めと違って、今日の覚醒はあらゆる希望に満ちていた。疲労もある程度回復出来ていたし、何より夢の世界からの無事な帰還どころではない。
何と言うか、物凄く大きな手土産持参と言い表すべきか。
女性陣は既に目覚めていたようで、小声で話し合ったり身支度を始めている様子。隣の寺島は、座ったままの姿勢でまだ起きる気配は無い。
本当は俺も寺島も、横になってぐっすり寝たいのは正直な気持ちではある。それでもこんな異世界の
状況が好転するまで、とにかく辛抱だ。
そうそう、状況の好転と言えば……あのオレンジ髪の来訪者に、呪いの1つを解いて貰ったんだっけ? いや、夢オチだけは本当に勘弁して貰いたい。
とにかく確認だ、左右の手首をチェックするも、残念ながら紋様はそのまま。最後は首の奴だが、これは鏡か何かが無いと確認出来ない。
そうだ、制服に突っ込んだままのエチケットブラシに小さな鏡が付いていたな。
うん、無いっ……!! あんなに目立っていた首の紋様は、綺麗サッパリ消失していた。素晴らしい爽快感、小躍りしそうになるテンションを辛うじて抑えつつ。
そうだ、念のためにスマホでもチェックしておこう。
皆轟春樹:Lv4 HP:17(28) MP:16(25)
=---------------------------------
物理攻撃:19(25) 物理防御:14(18)
魔法攻撃:11(17) 魔法防御:8(11)
スキル【11】《夢幻泡影》
予備スキル《餌付け》《観察》《平常心》《追跡》《日常辞典》《時空Box(極小)》《エナジー補給》《投擲》《硬化》《購運》《罠造》《高利貸》《借技》
獲得CP【116】 獲得SP【4】
状態異常:呪い《衰弱》《悪夢》
装備:石槍、手作りフレイル、木の盾
おおっ、やっぱり消えてる……無くなったのは、《服従》の呪いだったようだ。首の紋様だから、関係性は合ってるな。そして、いつの間にかスロットに滑り込んでる《夢幻泡影》ね。
何となく予測していたが、どうやら夢での経験値取得とか諸々の事情は、コイツの仕業らしい。ってか、寝ている間にレベル上がってるし!
随分な数、夢魔の群れを倒したからなぁ。
しかし、夢の中に敵の陣営の管理者が出て来て、呪いを1つとは言え解いてくれるとは。出来過ぎな気がするな、ひょっとしてこれも《購運》のせい?
だとしたら感謝だ、昨日の俺、グッジョブと褒め称えてあげたいな。しかもステータスを見ると、半減していた数値が幾分か持ち直している様子。
休息がほどほどに取れたせいかな、これも嬉しい収穫だ。
さて、SPも4P貯まっているし、レベルアップ作業でもしておくか。男性教師陣は深酒のせいか、まだ全く起きて来る気配は無い。
この敵だらけの異世界で、何とも豪胆な事である。決して褒めてなどいない、ひたすら呆れているだけだ。こちらは自分のペースで、戦力増強を図るのみ。
まずは均等上げで、2Pを使用してと。
おおっと、ツキはまだ我が頭上にあったようだ! スロット枠も増えてくれて、これで12になった。順調に増えてるな、スキルのセットし直しも忘れずにしておかないと。
《投擲》《罠造》《高利貸》と、この辺りは定番なんだけど。《高利貸》はずっとセットし続けてないと、ちゃんと利子がつかないのかが不透明で困る。
返して貰う時には、容赦はしたくないからな。
とにかくこれで8P、残りは《硬化》と安いスキルだが攻撃的な布陣ではあるものの。ってか、考えてみれば《硬化》って、実は防御寄りのスキルなんだよなぁ。
例えば上着に掛けておけば、敵の打突や噛み付きにある程度は対応出来る。恐らくこのスキルは、そうやって使うのが普通なんだろうな。
間違っても、ネクタイを硬直させて殴り掛かるとかはしない筈。
まぁ、あの時は武器が何もなくて、非常事態だったし仕方が無い。それはともかく、残りのセットはどうするか……《日常辞典》も捨て難い、《観察》とのコンボで敵の情報を読み取るとか出来るし。
今の所は寺島のゲーム知識が功を奏して、敵がどんなタイプかを判断出来ているから問題ないけど。そう思うと、やっぱり《硬化》で良い気もするな。
うん、当面はそうしておこうか。
さて、PカプセルでもSPを2P獲得していたから、もう一度均等レベルアップが可能なんだけど。ここは実験、1Pを消費してMPを特定上げしてみよう。
どれだけ上がるか、ちょっと見モノである。
結果は、11上がってHPよりMPの方が多くなってしまった。均等上げだと3~5の上昇なので、特定上げはその約3倍と言う事になる。
勿体無い気もするが、ピンポイントは確かに便利でもある。ちなみに残りの1Pは、保険の意味も込めて使わずに置いておく事に。
例えば死にそうな時に、HPに振り込むとか使い道は色々。
そんな事をしていると、ようやく寺島が起きて来た。朝の挨拶を交わして、女性陣の方を見やると。向こうも起き出して、朝食の支度を始めている様子。
一日の始まりだ、今日はどんな冒険が待っているのやら。
そんな出ばなをくじく、男子教師陣のみっともない体たらく振り。すっかり朝食も摂り終えて、出発の準備もバッチリなこちらに対して。
いつまでもグダグダ、終いには斎藤先生も置いていきますよと絶縁の素振り。それでようやく動き出す面々、こっちはそれでも全く構わない。
《服従》の呪いが解けた今、いつでも離脱出来るからね。
その点は何と言うか、心に物凄い余裕が出来ている次第だ。ただし、俺のステータスは相変わらず、衰弱によるマイナス補正が酷い。
戦闘や探索に不安があるのは当然で、何気なく寺島に尋ねたら、向こうのHPやMPは25前後と言う話。衰弱した俺の数値より、10程度の隔たりがある。
いや、俺も衰弱が無ければその位なんだけどね?
とにかく戦闘フォーメーションは昨日と同じ、俺と寺島で前衛の壁役を全うする構え。いつの間にか斎藤先生がリーダーで、その方が俺たち生徒組には有り難い。
エリア選択も斎藤先生で、生徒指導の男性陣は、本当について来るだけの存在に成り下がっている。そんな状況で、今日1つ目のエリアにと俺たちは侵入を果たす。
そこはやはり古墳の迷宮で、不気味さと薄暗さも相変わらず。
さっきの仮キャンプ場も、夜と朝の明るさがまるで変わらなかったし。時間の間隔は、こんな場所にいると狂いそうになって仕方が無い。
とは言え、文句ばかりも言ってられない。さっそく敵のお出迎えだ、昨日と同じくスケルトンが数体。俺は手作りフレイルに持ち替えて、寺島と共に前へと出る。
っと、骸骨の後ろにも何かいるぞ?
「……あれってゴーストかな、皆轟君? ゲームだと、通常攻撃は効果無いとかなんだけど?」
「マジか、ちょっと待て……うん、ナイフが綺麗に通過したな、寺島の推測通りみたいだ!」
いきなり不測の事態だ、骸骨を見た瞬間にチョロいぜとか思って御免なさい。取り敢えずはその骸骨を、小銭の入った袋で粉砕しておいて。
音もなく近付いてくるゴーストには、思わず腰が引けてしまった。
表情まで分かるってエグいな……日本人には見えないが、絶望した透明な顔が接近するのはひたすら気持ち悪い。どうしようとか思ってたら、援護は後方から来た。
斎藤先生の光魔法を浴びて、ゴーストは絶叫と共に消えて行った。そしてコロンと落ちるPカプセル、何だ……良い敵だったんだな。
今日も豊作をお願いしたい、しかし物理無効とは参ったな。
魔法で倒せる事は分かったが、それだと前衛は何の策も無いって事になる。寺島の話では、定番は魔法の掛かった武器とか銀製品での対応らしいのだが。
そんなのどこで見付ければって話だ、どうしたもんだか?
しまったな、こんな事なら《日常辞典》を最初からセットしておくんだった。敵の弱点を正確に知るって、思ったよりも大事なんだな。
相談の結果、次に出たら簡易火炎放射器が効くか試してみようって事になった。お塩とかも効果あるかもと、細木は呟いていたがどうだろう。
ゲームの世界なら斬新だな、ゴーストを塩で撃退するって。
とにかくそんな感じで、探索は再スタートした。そして、程なくしての2度目の敵との遭遇……何だか今日は、敵の密度が高い気がするな。
今度はゾンビだ、古墳のエリアだからいつかは遭遇するかなって思ってたけど。だって、どのゲームでも定番のモンスターだもんな、ゾンビとかスケルトンって。
ただし、対面すると腐肉のある無しは大違い!
臭いっ、とにかく臭いが酷い……!! 鈍器で殴りつけると、変な汁が飛び散って背筋にゾっと寒気が襲って来る。寺島の方も似たようなモノ、思い切り怯んでいる。
ここは燃やした方がいいのか、斎藤先生の光魔法の攻撃で、1匹は呆気なく昇天して行ったけど。先生のMPは治療にも必要なので、むやみに消費するのも考えモノ。
せめて前衛で、1体ずつは片付けたい。
などと思っていると、戦闘音を聞きつけてゴーストが2体壁から出現した。突然の襲来に、対応に慌てる面々。俺は《平常心》で平静を保ち、火炎スプレーをお見舞いする。
うおっと、目の前のゾンビも巻き込んでしまった……派手に燃えてるな、こんな近くで暴れないで欲しい。ゴーストはどこ行った、聖なる炎で無くても効果あったのか?
いや、無かったみたいでガッツリ憑かれてしまった。
途端に、周囲の音が遠くなった。俺は構わず、燃えているゾンビを蹴り倒して、その膝を手製フレイルで撃ち砕く。これで移動は出来まい、しかしゴーストはどこへ行った?
背筋が急に寒くなった、呼吸の具合もおかしくなっている気がする。隣の寺島は、未だにゾンビに
もう1体のゴーストは、斎藤先生が倒してくれたようだ。
そして急に、目の前が真っ暗になった――
はっ、何か夢魔とゾンビとゴーストに、ひたすら追い掛けられる夢を見ていた気がしたけど。どうした事だ、皆が俺を心配そうに覗き込んでいる。
敵の姿はもういない、全て片付け終わっている様子。
「皆轟君、大丈夫……? 僕の事が分かるかな、意識に混濁は無い?」
「おっ、おう……どうした、寺島? 何があったんだ、一体……?」
「どうやらゴーストに憑かれていたようね、急に倒れたからビックリしたわ……細木さんが試しに塩を掛けたら、ゴーストが離れて行ったのよ。
今は一応安全よ、少し作戦の練り直しが必要みたいね」
おおうっ、何と言う塩対応……凄いな、細木は! 報告に驚きつつも、俺は自分のステータスをスマホで確認してみたら。何と、HPが6にまで減っていてビックリ仰天!
……知らない内に、ヤバい領域に突入してたんだな、俺。
しかし物理無効の敵が、壁を擦り抜けて戦闘領域に乱入して来るとは。南野の言う通り、確かに作戦の練り直しは必要だな。
ちなみに後方の男子教師陣が、何をしていたかの報告も受けていた。彼らも仁科がゴーストに憑かれて、壮大な仲間割れを起こしていたらしい。
発狂して仲間に危害を加え始めた同僚を、抑えるのに苦労してたそうな。
挙句の果てに、再び田沼が横腹を斬られてヤバかったみたいである。……仁科って、心の奥では田沼を嫌っているのかも知れないな。
当の仁科も、押野に顔面をぶん殴られて、今は青タンを作って倒れ込んでいる。その不始末を、先ほど斎藤先生と細木が出掛けて行って、何とか収拾して来たそうだ。
本当にお疲れ様である、しかしまさか塩が効くとはねぇ。
ゴーストもゾンビも、斎藤先生の光魔法にはてんで弱いそうだ。ほとんど一発で倒せる特効を持ち合わせているが、何しろMP消耗が斎藤先生1人に偏るのは宜しくない。
頭を寄せ合って考えていたら、またもや細木がおずおずと発言した。
「……あの、この前みたいに皆轟君が、斎藤先生の《光魔法》を借りるって出来ないのかな?」
「……その手があったか!!」
まさに目から鱗の、お手軽な戦力増強作戦である。細木凄いな、俺達が褒めそやすと彼女は真っ赤になって照れていた。ついでにゾンビの対策に、今後はなるべく《罠造》で対応する事に決定して。
何しろゾンビは、見た目は鈍くて弱そうな外見でしかない。MPをケチって、物理で対処しようとの目論見も、まぁ心情的には間違ってはいないのだが。
アレに接近戦は、結構辛いと俺と寺島の意見は一致して。
寺島も、スロットを弄って《土魔法》を使ってみると言ってたし。俺も斎藤先生から《光魔法》を借りて、これで前衛2人とも遠距離攻撃が可能になった。
そんな感じで、MP回復の後に再出発。
「皆轟君……《光弾》がMP2消費で、《光癒》がMP3消費だから。MPがきつくなったら、無理せず休憩しながら進みましょうね?」
「了解です、斎藤先生……大丈夫、安全優先で進みますから」
再出発に関しては、後ろで文句ばかりをがなり立てる大人を宥める方が難しかったけど。斎藤先生が半ば無視して進み始めたので、連中も文句を収めてついて来る事にしたようだ。
残念だな、ずっと休んでくれてても良かったのに。ちなみにMPは、10分休憩すれば3ほど回復してくれる。半時間での休憩で、10MP回復がおおよその目安である。
今はマナポも持ってるし、気分的には随分と楽かな。
今回の《借技》だが、斎藤先生の《光魔法》を借りるのに4MPを消費した。これで2時間ほど借りれるみたいで、その威力はこの前も説明したが7割程度である。
借りる時のMP消費量は、どうも借りるスキルのコストに依存するらしい。つまり《光魔法》は4Pのスキルって事になる。南野の《闇魔法》も同じなので、魔法系は4Pが定番かな。
しかし緊張するな、初の魔法使いデビューだもの。
などと思っていると、最初のエリアは完全踏破してしまった。戦闘は皆無で、次のエリア選択へ。今回は2つの扉だ、同じサイズの異空間が広がっている。
すぐ後ろの斎藤先生に伺うと、かなり迷って左を指さした。俺と寺島は、ほぼ同時にその扉を潜り抜ける。そして落胆、前と似たような古墳迷宮のようだ。
つまりは、出て来る敵も似た感じなんだろう。
それは程なくして判明、やはり最初はスケルトンの団体様の模様。その後ろには、ゾンビが何体か
うん、どうやら死霊フルコース確定っぽい。
俺と寺島は示し合わせて、骸骨を鈍器で粉砕しようと働き始める。ゾンビは《罠造》のMP2消費のトラ挟み……おっと、1個の罠に2体が掛かったよ。
しかも腕とか千切れて、飛んで行ってるし。
なかなかにカオスだな、しかし戦闘ターンはさっきと違って順調にこなせている。スケルトンの群れは、早くも半分が粉微塵になって地面に倒れ込んでいる。
コイツ等は、臭いも少なくて好きだ……などと
つまりは、
俺の初使用の《光弾》は、それは見事にゴーストに命中した。7割の威力ってどうよとか思ってたけど、問題無く一撃必殺で敵を粉砕してくれた模様。
魔法が無いパーティとかだと、本当にどうなるんだろうね? 考えるだけでおぞましい、或いはさっきの生徒指導の男性陣のように内部崩壊を起こして人生終了かも。
さっきも細木と斎藤先生が助けなかったら、確実にそうなってたし。
ゴーストは、全部で3体いたようだ。残りの1体ずつを俺と斎藤先生で仕留めて、これで気を遣う脅威は排除できた。しかし……幼子のゴーストとか、混じって来るの本当にヤメテ。
精神的に背徳心を感じてしまうじゃないか、本当に嫌な敵だな。
戦闘も順調なら、このエリアは探索も比例して順調に進んだ。しばらく歩くと、俺たちは広場のような空間に出て、その中心にお供え物の置かれた祭壇を発見。
何の祭壇だろうか、そこには干からびた果物やお米、それから金銭らしきコイン類に混じって、ポーション類やPカプセルが幾つか。
これはボーナスステージですか、手を出すのは
「……さすがに、お供え物に手を出すのは駄目でしょ」
「ポーションとかPカプセルは、セーフな気もするけどな。まぁ、先生の言う通りに」
「皆轟君、こっちのは祭壇じゃないよね……何か隠し棚とかありそう」
広場の中心は噴水付きの泉で、しかし水はチョロッとしか出ていない。祭壇の反対側には、アイテム保管庫のような古びた棚が、半ば崩れ掛けて置いてあった。
そこのチェックは、さすがの斎藤先生も文句を言わないだろう。ここに来るまでの戦闘でも、Pカプセルは既に6個も貯まっているし。
俺たちは注意しつつも、探索を続けて行く。
――そして最悪の仕掛けを作動させたのは、案の定の男子教師陣だった。
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