第12話 夢の中の奇妙な出会い
5つ目のエリアで、ようやくキャンプに適した場所に巡り合えた。水辺が近くにあって、祠のような横穴が無数に空いている遺跡跡地である。
そこは終始薄暗かったが、定番のスケルトンの群れを倒したら、それ以降は静かになってくれた。敵影はそれ以上は見当たらず、疲労していた面々はそこを今夜の仮の宿に指定する。
そこからは、皆でキャンプ場の居心地向上に働き始める。
もっとも、すっかりむくれてしまった男子教師陣は、さっさと自分たちの居場所を離れの祠に定め。再び勝手に、宴会を始めてしまってたけど。
付き合っていられない俺たちは、軽い夕食の後に情報交換を始める。安全確保はバッチリとは言えないが、出来る範囲でやっておいた。
俺の《罠造》で、周辺の各ポイントに罠を仕掛け済みだ。
「ってな訳で、不用意に歩き回らないでくれよな。仕掛けた俺には罠の場所は分かるけど、他の人には見えないみたいだから。
それじゃあ、寺島の発見とかドロップ品の事とか、情報の交換を始めようか」
「そうね……こちらも細木さんたちが夕食を作っている間に、色々とスマホ情報を再チェックしてみたわ。特に良く分からなかった、CPの使い方とかを重点的に」
「それは助かるなぁ、南野さん……いや、僕の仮説は単に、今現在のエリアがチュートリアルなのかなぁって、そんな感じがするだけって話なんだけど……」
謙遜する寺島だが、俺は意外と重要な気付きだと思う。確かに白スーツの男も言っていた、拉致られて連れて来られた連中は大事な戦士の卵だと。
スキルと言う武器を与えた大事な商品を、いきなり死地に放り込むのも馬鹿げた話ではある。つまり今は俺たちは、知らぬ内に鍛錬中なのかも知れないって事だ。
ひょっとして、そのボーナス期間は明日には終わる可能性も。
まだまだ強敵に対しても、余裕でクリア出来る戦闘力は俺たちには無い。とは言え、この先もチョロい敵ばかりだぜと、
その辺は、ちゃんと肝に銘じておいた方が良いとは思う。いつ強敵と巡り合っても、慌てず対処が出来るように。それが生き延びるコツだ、必ず全員でここを突破してやる。
いや、男子教師陣は勘定に入れてないけどね?
そのための戦力強化だが、俺は道中の戦闘後に拾い集めていたPカプセルを皆に見せる。今後、この手の形状のアイテムを見付けたら拾っておくようにと。
分配に関しては、公平にが一番良いだろう。細木は恐縮したが、彼女だって大事な戦うメンバーの一員である。問題は、端数をどうするかって事だけど。
そこは女性陣、前衛で大変な俺たちに譲ってくれるそうな。
Pカプセルは、今日の昼のその後に拾った分は、全部で7個あった。敵はその倍以上倒していたので、ドロップ率的には約半分程度だろうか。
別に死体から掘り出した訳でもなく、ただ本当に側に転がっていた感じ。魂のように、死体の口から零れ出たんじゃないかと寺島は推測していたけど。
それが本当かどうかは、この場の誰にも分からない。
さらに最後に倒した大ムカデ、あれのドロップしたPカプセルは、他のよりも大き目だった。俺の鑑定でも種類は同じで、推測としては獲得ポイントが多いのかなって感じ。
ラッキーな事に、それを俺が貰って良いそうな。寺島も1個貰って、残りの5個を女性チームで分けるとの事。多分、細木が遠慮するんだろうな。
まぁ良いけど、とにかく戦力アップの手段の多さは大歓迎だ。
それから南野の報告だが、CPで交換可能な品揃えが、いつの間にか増えていたそうだ。今までは
どうも、自分達がこの異世界ダンジョンで、実際に発見したモノについては交換可能になる仕組みのようだ。それとも単に、レベルが上がったせいなのかも。
その辺は定かではないが、豊富な品数は素直に有り難い。
俺も自分のスマホから、CPの欄をチェックしての確認作業。ちなみに、先ほどの大きなPカプセルは既に使用済み。嬉しい事に、またもやSPも増えてくれた。
もちろんCPも50以上増えて、有り難い補給となった。
それにしても、スマホの電力が一向に減らないのは異世界仕様なのか? いや助かるけど、これが使えなくなったらマップ確認とか情報収集とか、ステ画面の操作とか全て不可能になってしまう。
それより俺のCP交換画面も、南野の指摘通りに物凄く増えていた。いつの間にとも思うけど、そもそも確認とかほとんどしていないからなぁ。
それでもこの交換システムは、凄く助かるのは確か。
ふむふむ、まずは目につくのはポーション類だな……ポイントは50~100Pなので、一応交換は可能だ。MP回復のマナポは70Pか、試しに交換してみようかな?
いや、先に他の品揃えを確認しておこう。食料と水、タオルや生活小物が新たに増えていた。平均30Pと、まぁお買い得ではあるけど。
食糧とか1食分だと、やや高い気もするな。
他にも何故か、日本のお金が交換可能になっていた。50Pで、幾ら貰えるのか興味はあるけど、ちょっとコレは交換には
架空スマホとか安全エリア設置は、確か前からあったかな。架空スマホは、ぜひ欲しい機能の一つである。多分だが、ハンドフリーでスマホ操作が可能なのだろう。
これは交換200Pだ、まずはこれ用に貯めておこうかな?
他にも上着とズボンとか、下着とシャツなんかも交換出来るようになっていた。平均が100Pと少々お高いが、現状では一番欲しいかも知れない。
ってか、今夜もまたお風呂無し……いい加減、肌が汗でべたついて気持ち悪くて仕方が無い。他のメンツも同じ状況だし、俺だけ文句も言えないけど。
ってか、女性陣は物陰で汗だけでも拭うそうな。
俺たちも後で行こうかと、寺島と話し合っていると、細木がそっと近付いて来た。どうも午前中に採取した、蜘蛛の糸の使い道について相談したい様子。
俺も何気なく提案しただけなので、詳しい用途など思い付かないのだが、素材の材質そのものは、とっても良いみたいと細木は太鼓判を押してくれた。
それなら何か、《裁縫》か《糸紡ぎ》で装備を作れないかな?
その話題に乗って来た寺島も、ちょっと興奮している感じ。よくよく聞いたら、彼は結構なゲームオタクだったらしい。数々の発言から、何となく察していたけど。
それはともかく、本当にそのアイデアが実行可能かは、当の細木本人にしか分からない訳で。スキルのセットを弄って、試行錯誤していた細木は何かを確信した表情に。
どうやら俺の提示したアイデア、実行可能らしい。
寝る前の時間にやってみるねと、細木は言葉を残して去って行った。南野と斎藤先生に合流して、
男性陣を警戒してか、交代で見張りに立っての身体拭き作業のようで。細木が見張りを交代して、斎藤先生が奥へと入って行った。
せっかく水辺もあるし、俺たちも後で行く事に。
「そう言えば、皆轟君は剣道部に入ってたんでしょ……どうして小剣じゃなくて、石槍を武器にしてるの? 小剣の方が、使いやすいんじゃないの?」
「いやいや、衰弱した状態じゃあ斬り付けたり
その点、槍だと体重を乗っけて突くのは割と簡単なんだ。寺島も意識してみろよ、殴り掛かるときに体重も掛ければ、威力も上がるから。
でも慣れない内は、それやるとバランス崩すから防御は弱くなるぞ」
「そっかー、木の盾も手に入れたから攻防のバランスも考えなきゃだね」
などと俺たちが戦闘論を熱く語っていると、女性陣がプリプリしながら戻って来た。どうやらあの生徒指導教師ども、本当に女性陣が身体を拭いている最中に
しかも言うに事欠いて、酒盛りの
奴らはその後で、こちらにも文句を言いに来たけどな。
要するに、今夜も見張りをしっかりしろとの事だったのだが。酒臭い怒鳴り声での《命令》は、強制スキルにしては掛かりがやや甘い感じ。
レジスト出来たのが体感で分かったし、どうもそんなに強くない強制力みたいだ。仁科はそれに気付かずに、さっさと戻って行ったようだけど。
何にしろ、また眠れない夜が来るってね――
寝込むには精神的な抵抗はあったが、日中の労働に対して身体は休息を求めて来た。そんな訳で、簡易キャンプ場の見晴らしの良い場所で、寺島と一緒に座り込んだ姿勢のままに。
交代での見張りの様相を呈しているが、実際は2人とも寝込んでいる。そうでないと、明らかにオーバーワークでぶっ倒れてしまうだろう。
それでも教師陣は、知らん顔をしているとは思うけど。
実際、今夜は俺の方が、寺島より寝込むのが早かったと思う。それだけクタクタだったのだ、前日の睡眠不足も祟って、眠りの世界へと簡単に誘われ。
そして昨日と同じく、次々に出現する悪夢の中の夢魔の軍勢。昨日より多い気がするな、ヤル気満々な性悪軍団が俺を取り囲んでいるよ。
逃げるのはもう飽きた、徹底的に抗ってやる。
この悪夢の中の法則を、少しずつでも整理していかなくちゃ。情報ももっと欲しいかな、昨日は倒した分、経験値が貰えたようなんだけど。
そんな事ってあるのかな……あっ、寝る前に《夢幻泡影》をセットしておくのを忘れちゃったよ。いやしかし、寝てる間に襲撃に遭った時、それだと不安だしな。
まぁなるようになれだ、腹はとうに
それにしても数が多い、素手での戦闘も俺はある程度、道場で習っているけど。ウチの師匠は、弟子の興味がある分野は何でも教えてくれるのだ。
それはいわゆる、戦場で無手で相手を無力化する技術だった。敵を捕らえて盾にしつつ、関節を極めて無力化していくと言う。
それを極めれば、囲まれずに戦局を切り抜けられるのだ。
パズルみたいに多人数を動かして、こちらに不利な状況を決して作らない。口にするのは簡単だが、実行するのは当然の如く困難である。
そしてこの夢の世界、こちらに有利な障害物の類いが一切ない。当然の如くに囲まれて、昨日と同じく擦過傷があっという間に増えて行く。
それでも俺は、愚直に1匹ずつ自由を奪って、決して相手に急所は晒さない構え。
それが功を奏したのか、一方的な
出てくる敵が分かっていれば、心身ともに対処の気構えは出来ると言うモノ。恐らく、傍から俺の寝姿を見れば、きっと壮絶にうなされているとは思うけど。
我慢できる程度だと思う、少なくとも昨夜よりはずっとマシ。
そうやって、どの程度の時間を過ごしていただろうか……夢魔も結構な数を仕留めて、その見返りにこちらの姿はズタボロのぼろ雑巾のような姿に。
きっと現実世界だったら、少なくとも動くことなど不可能だろう。夢ってすごいな、こんなナリでもちゃんと身体は動くし、夢魔相手に戦闘をこなせている。
変に感動していたら、周囲の景色が不意にぐわっと歪んだ。
俺の緊張感は、当の昔に破綻していて感動も警戒も出来ないほど。それでも新たな敵の出現か、はたまた大ボスの登場かと何とか視線を巡らせると。
何故か夢魔の集団も、この現象に慌てふためいている様子。おっと、それじゃあ敵の増援ではないのかな? どっちにしろ、変化は大歓迎である。
何しろ、既に俺の身体は限界を超えて動きそうもない。
「おやおや、妙な術式の芳りを辿って、遥々とやって来てみたら……お取り込み中の様子だな、しかしこの夢魔の群れはどうしたもんだ?
ああっ、なるほど……呪いの術式だった訳だ」
「…………」
空間の裂け目を、ひょっこりと抜け出たその妙な人物は、明らかに地球生物では無かった。オレンジ色の毛糸のような髪の毛の下には、どこか爬虫類を思わせる顔が存在している。
無理やりに着込んだチェックのシャツとズボン、背丈は小さくて身体つきも細い。それでも醸し出す威圧感は、あの白スーツの男と同等かそれ以上だ。
当然ながら、あっという間にこの場の雰囲気を支配している。
おびえる夢魔たちはもちろん、疲労
だからと言って、味方だとは到底思えないけど。この前あの白い部屋で取った行動は、完全に藪蛇だったのは心に刻み込まれている。
今回は、もっと慎重に見極めなければ。
「おおっ、なるほど……君は白の陣営に、スカウトされて連れて来られたひよっこ戦士って訳だ。その連中の、呪いの術式に捕われている理由は……ははぁ、奴らも短気だな!
しかし何とも
舐めてる奴らには、相応のしっぺ返しを食らわせてやらなきゃな!」
次に起きた事象は、この異世界で見た中でも飛び切りの魔術だった。オレンジ髪の詠唱と共に、薄暗い夢の空間に巨大な魔方陣が出現する。
どうやらそれは、大掛かりな召喚の術式だったようだ。立派な装備を着込んだ、爬虫類の顔を持つ兵士の群れが、何十人と目の前に現れて整列し始める。
夢魔たちの群れは、もう完全に周囲から消え去っていて。
正直、俺も逃げ出したかったけど、その兵団の指名はちゃんと別にあった様子。オレンジ髪の命令で、次々に空間の亀裂の中へと飛び込んで行く。
どうも白の陣営とやらに、襲撃に向かっているらしい。
それを楽しそうに見守る、オレンジ髪の存在に不意に共感を覚えてしまったのは否めない。何しろ個人的に、味方の筈の陣営には、散々酷い目に遭ってるしな……。
そんな感情を読み取ったのか、オレンジ髪と再び視線がぶつかった。あんたは誰だとか、陣営ってなんだとか、色々と質問が心の中で
それを相手は、案の定
「相変わらず、白の陣営は
君も気付いている通り、ボクは奴らとは別の陣営、要するに敵対勢力の幹部みたいなものさ。陣営は幾つもあるし、経営方針もバラバラだけどね。
何を争ってるかって? やれやれ、説明不足は奴らの常識なのかね?」
俺に同意を求められても困る、そもそも奴らの考えでは、俺はただの使い捨ての駒でしかないのだから。不遇な職場環境に寝がえりを画策したいが、こちらの経営理念も不透明で怖い。
俺を助けてくれたのも、単なる偶然みたいだし。
そう考えた途端に、オレンジ髪の人物に爆笑された。その通りだと同意を得られても、やっぱりネと返すしかなく。ただし面白い奴だなと、何となく気に入られたみたいではある。
良かったよ、これ以上敵は増やしたくないもんな。そもそも寝返るも何も、奴らには拉致されて無理やり連れて来られた間柄、味方だとの認識はまるで無い。
俺に至っては、呪いまで掛けられてる始末だし。
「あぁ、君の気にしているその呪いの術式だけど……1つは道を辿るために使わせて貰って、既に壊れかけているね。ボクが無茶したからだけど、念のために解呪しておこうか。
なに、礼には及ばないよ……君は面白い存在だし、多少の興味も湧いて来た。ボクの陣営に引き抜く事もしない、自由に生きたまえ。
そうそう、ボクの陣営かどこかって質問だけど、まぁその内分かるだろう」
――そう、陣営は幾つもあって、互いに殺し奪い合ってるのさ。
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