第4話 初陣突破とその後の顛末
何とか勝つ事が出来たとあって、生き延びた感が半端ないね。ゲームなら自然消滅する筈の敵の遺体も、すぐ
素直に喜べない空気だが、現実感が無いのは逆に有り難いのだろうか。後方の教師連中も、何とか奇襲の2匹を倒し終えた様子。
要領が悪かったのか、半数が怪我を負ってるけど。
だらしないな、
その次が、
まぁ、武器を持つ殺意ある相手に対したのだし、仕方のない被害か。
今はその傷を、
少し離れた場所でそれを眺める俺たち生徒組は、怪我が無いかをお互いに確認し合って。一応戦利品の石槍と錆びた小剣×2本を回収、他にも目ぼしいモノが無いかを確認する。
ゲームでは定番らしい、勝者は戦利品を得るのだそうだ。
「しかしこいつ等、確実にゴブリン……だよね? 本当にゲームって言うか、異世界に連れて来られたみたいだね、僕ら」
「拉致られたとも言うけどな、何にしろ作戦が成功して良かった……少なくとも、後ろの連中みたいに全身血まみれにならずに済んでるしな」
「これがゴブリンなのね、私もゲームとかあんまりしないから……腰の巾着袋の中身、全然大した物は入ってないみたい。木の実とか、これは何かの干し肉?
後は、錆び付いた硬貨が何枚かある程度かしら?」
俺が調べた袋の中身も、大体似たような感じっぽい。
《日常辞典》で調べてみたが、ちゃんと宝石と出たし、木の実や干し肉も食可能と判定されていた。いざと言う時の為に、これらは戦利品として貰っておく事に。
代表して、
ついでにこちらの隊列の補強と、戦力チェックも少々行う事に。俺の元の荷物は綺麗に盗られて、両手フリーでいざと言う時も自由に動けるけど。
先ほど得た、錆びた小剣を装備、これで簡易前衛戦士の出来上がりだ。
俺も石槍を手にして、生徒組小隊の戦闘力はそこそこ上がったと思われる。何より一度、戦闘経験を得たのが大きいかな。勝利も出来たし、自信もついた。
俺がそう言うと、寺島が急に思いついてスマホを弄り始めた。そう言えば、諸々の情報がそこに表示されるんだったっけな?
そうみたい、錆びた小剣で攻撃力が微増したと喜ぶ寺島。
更には経験値らしき項目も発見し、もう少しでバーは一杯に満ちそうだとの事。俺も慌ててチェックすると、確かに石槍を装備した事で物理攻撃が多少上がっていた。
それから経験値バーはどこに……ああっ、確かに名前の下にそれらしき棒線っぽいモノがあるな。ただし、寺島の言ってるように9割満タンどころか、半分も溜まっていない感じ。
何故だ、これも呪いのせいなのか?
後衛で今回はほぼ何もしていない、細木にも経験値は入っていたようで。南野も同じく、もう少しでバーが満ちる感じらしい。
更にはCPにも数値が6入っているとの報告、俺も確認した所こちらは4しか入ってなかった。完全に何処かからの阻害を感じるな、高確率で呪いのせいだろう。
さて、この結果を受けてどう動くべき?
皆轟春樹:Lv1 HP:12(21) MP:6(17)
==========-----------------
物理攻撃:12(16) 物理防御:5(9)
魔法攻撃:6(10) 魔法防御:3(5)
スキル【10】《観察》《平常心》《日常辞典》《硬化》
予備スキル《餌付け》《追跡》《時空Box(極小)》《投擲》《エナジー補給》《購運》《高利貸》《罠造》《貸技》《夢幻泡影》
獲得CP【4】 獲得SP【0】
状態異常:呪い【服従】【衰弱】【悪夢】
「実は俺、呪われていて各種ステータスも衰弱状態なんだよな……その点は済まん、皆に迷惑を掛けると思う。ただし、男2人で前衛を頑張る戦型は保ってみせる。
取り敢えず、これが俺のステータスと総スキルな?」
「えっ、呪いって……?」
驚く同級生に、俺は全ての経緯を話す事にした。俺たちをこんな境遇に
今の所、あの白スーツの男に勝てる見込みは万が一にもありはしないけど。思いがけずに貰ったこのシステム内では、どうやら俺達はレベルアップで成長が出来るみたいである。
だったら、いつかは勝てる目も見えて来る筈。
……まぁ、相手の土俵で遣り合っていて、結局は叶わない事態も大いにあり得るんだけどね。スマホ情報を読み進めた南野の話では、貢献した者には褒章は約束されるとの話だ。
大いに釣りな予感はするが、餌は各所にぶら下がっているとの事で。
確かに1クリックで数万円とか、美味しそうな餌なのは確かだけどね。
そんな甘い相手では無い事は、対面した俺なら胸を張って断言出来る。向こうの目的はほとんど見えて来ないけど、この異空間を探索する手駒を欲していたのは確か。
今回は初の三桁人数の召喚で、俺たちが第十三期メンバーだとも言ってたっけ。つまりは以前にも数十名単位で、攫われて来た先達がわんさかいるって事になる。
大掛かりな組織には違いない、目的は不明だけど。
「そんなにたくさん……僕たち、どうすればいいんだろう?」
「まずは生き延びる事が先だな、教師たちにいいように扱われるのは
さっき4匹目を足止めしたのは、南野のスキルか?」
「ええ、そうよ……私の能力はこんな感じ、どうぞ?」
そう言って、南野は俺たちにスマホ画面を開示してくれた。ちなみに俺の画面も既に提示済み、盛大な突っ込みを皆から受けたけど。
スキルの異様な多さと、それがランダム取得なのは一応納得して貰えた。ただ、さすがに呪いの項目は、皆が押し黙って掛ける言葉も無かったみたい。
同情と言うよりは、こいつヤベェって感じだろうか。
俺だって当人なのだし、その辛さは推して知るべしってな具合である。とにかく衰弱状態だけは、一刻も早く解除の手立てを見付けたいところ。
いや、《服従》と《悪夢》も相当なんだけどね? 力を出せないお陰で戦いで傷を負って、挙句に死んでしまうのも相当嫌なパターンには違いないし。
果たして白スーツの情報と、スキルの贈与数に見合っているかは今の所不明。
それは置いといて、南野のステータスはなかなかに優秀だった。後衛よりな数値はともかくとして、スキルの《闇魔法》と《魔力微増》が光り輝いている。
これは4Pと2Pのスキルで、さっきの混乱付与魔法は実践で使えるのは実証済み。ただしレジストされると効果は無いそうで、寺島によると魔法あるあるらしい。
まぁ、魔法も万能では無いって事か。
他に目を
要するに、人形を使役して味方につける凄い技らしいのだが。《魂魄術》ともなると、さらに人形に意思まで与える事が可能っぽい。
戦力増強には強力な手ではあるが、
そんな訳で、今の所は泣く泣くお蔵入りとなっている次第だそうな。使うにしても、スロットのセットし直しなど、色々と面倒な作業が待っているし。
とにかく南野は、今後も後衛から《闇魔法》で援護が基本パターンとなった。ちなみに寺島もさっきと同じく、《棍棒術》での壁役である。
他にも《体力倍増》や《土魔法》なども取得していたが、全部一緒に使おうにもスロットオーバーで無理なパターン。これを見ると、俺の安いスキル群も満更でもないと思ってしまう。
何事も、使い方次第で便利にも不便にもなるってか。
最後に細木だけど、彼女は見せるのを極端に嫌がっていた。どうも戦闘向きのスキルビルドでは無いらしく、その辺を気にしているらしい。
それでも笑わないし仲間外れにしないからとの約束で、何とか提示して貰う事に成功して。何しろこっちも命が
そして判明した、細木の何とも不可思議なスキル並び。
「……受付け嬢のアドバイスがあるから、変なスキル並びの奴はいないって話じゃなかったか、寺島?」
「これは完全に生産系のスキル並びだね、支援としては役立つと思うよ?」
「そうね、変なスキルは《体型補正》だけ……いえ、何でもないわ」
南野の指摘した《体型補正》は、8Pもする高位スキルだった。何やら余分な脂肪を燃やして、魔力やエネルギーに変換出来るらしい。
太った体型を気にしているっぽい、細木らしいチョイスだけど……間違っても
肝心の細木は、巨体を小さく縮めている。
他のスキルは、寺島の言う通りに完全に生産支援に特化していた。どうやら家庭クラブに所属しているらしく、その辺がモロに影響しているのだろう。
《裁縫》やら《料理》やら、《調理セット》や《裁縫セット》は何と道具を取り寄せ自在らしい。これらは全部2Pで、コスト的にはすごくお得な気がする。
唯一4Pとお高いのは、《糸紡ぎ》と言う名のスキルのみ。
これで戦えと言われても、確かに困ってしまうレベルではあるな。そんな訳で、細木には悪いが当分後衛で荷物持ちに徹して貰う事に。
それを聞いて、彼女もようやく一安心した様子。性格的に戦闘に向いてないし、ハブられるとここでは生きていけないと悟っているのだろう。
確かにその通りだ、何しろ寺島の話ではゴブリンは雑魚中の雑魚扱いらしいので。
進んで行けば、もっと強い敵が出現する可能性はとても高い。そう考えると、この道を選んだのは果たして正解だったのか。
南野の話では、生徒たちの大半は改札口を抜けるルートを選択したそうだ。まぁ、地上と言うか出口を探すなら極めて順当だと俺は思うけど。
生徒指導の教師たち、一体何を考えてるのやら。
とにかく、こちらの支度は大体整った。指示を仰ごうと後方の教師陣を見るが、何やらぐったりして動く気配がない。どうやら魔法の使い過ぎで、斎藤先生がグロッキー状態らしく。
仕方なく俺から近づいて行って、休憩ですかと尋ねてみたら。
「……
他にも、何か役立つもの見付かったか?」
「いえ、特に何も……この石槍と小剣ですか、貸し一つですよ?」
分かってるよと、嫌らしい笑みを浮かべる押野。それでも教師かと思うが、さすがに血を流す戦闘を経験して随分と腰が引けているのだろう。
他人の命や教師の立場などガン無視して、己の安全を取るのは
それより情報収集だ、こいつらの所持スキルは何だ?
「僕のスキルに《
「何だ、その《借技》ってのは……まさか強奪系のスキルじゃないだろうな?」
おっと、単純なカマ掛け問答なのに反応が凄まじいな。探知系のスキルを貸して欲しいと言う俺の提案に、思い切り田沼が反応を示して。
慌てて強奪する気かとの問いを返して来て、その言葉に押野が今度は
相手の声色や表情の変化が、何だか手に取るように解るよ。
「そんな大技持ってませんよ、たった4ポイントのスキルなんですから。それより小鬼の落とした剣や槍、ちゃんと使える人いるんですか?
せめて斎藤先生は、そちらで護ってくれないと……」
「当たり前だ、
なるほど、古典教師の仁科は《剣術》を持っていると。それから生物教師の田沼が、何故か《忍術》なんてレア職を選択したらしい。
使いこなせるのかは
そして肝心の押野は、どんなスキルを持ってるんだ?
さすがに体育教師らしく、2匹のゴブリンにとどめを刺したのはコイツみたいだ。俺から没収した武器は、念の為って意味合いが強いのかもな。
それなら返してくれと言いたいが、察するに血を流す怪我をしたせいで、教師陣はますます戦闘を
まぁいいや、教師陣は無能だと判断出来たし。
ってか、もっと酷い可能性が出て来た……押野が強奪系のスキルを持っているとしたら、狙われるのは俺たち以外はあり得ないのだから。
先ほど生徒組で話したのだが、魔法や武術系のスキルより怖い存在が幾つかあるらしく。掲示板にもしっかり乗ってたけど、寺島も南野も所持をスルーしたそうな。
つまりは強力ゆえに、他人から忌み嫌われるぞと。
その代表格が、さっき田沼が
寺島の話では、15Pもしてたそうなので、誰も取らないだろうと推測してたみたい。あの従順空間でも、どうやらその程度の損得勘定や理性は働いていたようで。
ただし、逆らおうとか余計な時間を使おうなどとは全く思えなかったそうな。
次に仲間から危険視されるのは、やはり《魅了》系のスキルらしい。自分の意思や人権を封じられて操られるのは、確かに勘弁して貰いたいものな。
ただし、これも強力版は高ポイントだったので、寺島も南野も無視したそうだ。低ポイントの威力の低い奴も見掛けたが、幾つかは既に誰かが取っていた後らしい。
普通に考えても、確かに便利で強力だもんなぁ。
先ほどの反応から、押野は《強奪》系のスキルを保有している可能性が高い。恐らくセットは出来ていないのだろうが、注意は必要だろう。
他の連中のスキル内容もだいたい分かったし、一応収穫としておこうか。最後に押野に向けて、この後も自分たちが先行するのかと問うてみたら。
当然だとの返答、奴の中では決定事項らしいね。
「……先生、これも貸しですよ?」
「分かった分かった……そろそろ出発するから、戻って準備してろ」
――俺のスキル《高利貸》が、2つ目の“貸し”を記録した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます