第34話 究極の未来
全日本U21アルティメット選手権大会が終わって、三ヶ月が過ぎた。
優勝は早実スーパーソニックス、鎌倉アルティメット・ガールズは準優勝だった。
お姉ちゃんは今、日本代表候補選手を集めた代表合宿に参加している。
競技歴一年足らずで、もう日本代表候補だ。驚くべき出世スピードであるが、お姉ちゃんが本気を出せばこんなものだろう。
肩書きから「候補」の二文字が外れるのも、そう遠くない気がする。
お姉ちゃんより先にアルティメットを始めたのに、すっかり置いていかれてしまった。
だから、春休み中にコソ練する
早朝の由比ヶ浜海岸に、軽やかな風が吹いていた。
潮騒の音が子守歌のようだが、眠気覚ましに一発かますことにする。
「よーし、とってこい。あるてぃま!」
羽咲アリサは、フライングディスクをバックハンドで投げた。
背番号0――あるてぃま日本代表の青地のユニフォームを着た、愛犬のあるてぃまは喜々として砂地を疾走する。ディスクの行方があらかじめ分かっていたかのように、地面すれすれでばくっと咥え、見事にキャッチした。
「ナイスキャッチ、あるてぃま!」
フライングディスクを咥えて戻ってきたあるてぃまは、ふさふさの尻尾をちぎれんばかりに左右に振り、「すごいでしょ。褒めて、褒めて」とアピールしている。
キャッチの天才であるあるてぃまは、今すぐにだってフライングディスク競技の日本代表になれるぐらいの逸材だ。というか、もうなっている。
「本当になっちゃおうか。ねえ、あるてぃま」
アリサはあるてぃまが咥えたディスクを受け取ると、よしよしと頭を撫でた。
賢いあるてぃまは「なんになるの?」なんてことは聞かない。
遠からずお姉ちゃんは日本を代表するアルティメッターになる。世界に羽ばたいていくお姉ちゃんの背中には羽根が生えていて、ちょっと見ない間にどんどん上手くなる。
姉妹で並び立つには、アリサが追いかけるしかない。
でもお姉ちゃんですら、出世レースのスピードではあるてぃまには敵わない。
愛犬が着たユニフォームがなによりも雄弁に、究極の未来を物語っていた。
アルティメット・ガールズ 神原月人 @k_tsukihito
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