第2話 大サービスは恋愛休暇?

 ソアは注文が来たと言ってきた。それだけで、僕は毎回ビビるのだ。

メインを持ってこられて、作ってみると大毒舌されたことがあるからだ。サイド

メニューがどれだけできていてもメインがしっかりしていなければ意味はない。

その人は3口ほど食べただけで出て行こうとしたので、店員全員が硬直したのだ。

それからは、メイン料理を持ってこられると、緊張からミスることが多くなった。


「え~っと、『最強中華定食②』だって」

最強中華定食はその名の通り、うちが最も力を入れた最も美味い料理をまとめた

定食だ。

①はラーメン、チャーハン、ギョーザの定食である。

②は麻婆豆腐、シューマイ、焼きそばの定食だ。

③は回鍋肉、チンジャオロース、春巻きの定食。

④は麻婆ナス、バンバンジー、卵スープの定食の4つだ。

①~④のどれかがデザート無料になる。どこがデザート無料になるかはランダム

で決まる。今週は②の定食だ。


「それじゃあ、森。君は麻婆豆腐を作ってほしい」

副店長でエース的存在の中国人、雲嵐ウンランは僕に指名した。

「はい。分かりま・・・・・した?!」

そう、②のメインは麻婆豆腐。麻婆豆腐を作るになったのが僕。つまり、僕が

メインを作ることになるのだ。

「何でですか・・・・・?また失敗しちゃいますよ」

「あれから成長しただろう。失敗を恐れては何も始まらない」

普通に正論を言われてしまった。正直者で内気な僕は強い圧に耐えられない。

「分かりました・・・・・」

コック帽をかぶり直して、林司は厨房に立った。


 8分ほどで最強メニューを作り終え、恐る恐るお盆の載せた。

「お待たせしました、『最強中華定食②』でございます。ごゆっくりお召し上がり

くださいませ」

ソアがメニューを運ぶ。

「ありがとう、日本語お上手ね」

「ありがとうございます」

香蓮はそのお盆を見て目を輝かせた。

「いただきます」

そういうと、なんとも上品な感じで、なおかつ美味そうに料理を口に運んでいた。


「ごちそうさまでした」

香蓮はメニューをキレイに完食した。

「とても美味しかった!!この麻婆豆腐を作ったのって誰?」

ビクッときた。またクレームを突き付けられるのではないかと。

「この森林司です」

「ど・・・・・どうも」

どうやらすげぇ人らしいので遠慮気味に挨拶してしまった。

「あなた――」

くそっ、もうダメだ。これで2回目だ。

「すごくいいもの作るのね。美味しかったわ」

「え」

えの1言しか出なかった。


 午後3時。僕は退勤時間ではないのに外をブラブラ歩いていた。隣には女が

歩いていた。たまたま横にいるのではない、相手は故意で横にいるのだ。

「ねえ、林司君。いつからあそこに勤めているの?」

もう馴れ馴れしく「林司君」と呼んでくる。デート感覚か、こいつは。

「えっと・・・・・高校出てちょっとしたらです」

「へぇ。大学行ってないのね」

「行くほど勉強したいものもなかったし、推薦受けてたんですよ」

「あのさ、敬語やめて」

「ごめんなさい」

「やめてって」

いやいや、自分がどれほど有名人だと思っているんだ、この人。普通敬語になる

だろ。それに対して怒るか?


実は、女——稲吉香蓮から店長はあるお願いをされていた。

「この子を私のそばにおいて料理を作らせたい。だから有給休暇をこの子に頂戴」

いかにも図々しい頼みだ。店長も引いていた。

「いいでしょう。この子は才能が確かに有ります。もっともっと美味い料理を

作らせてください」

「ありがとうございます」

店長の企みは僕の有給休暇だった。そして、自分が惚れている香蓮の機嫌どるための

措置だった。

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