第3話 院政システムと両統迭立(1)
ところで、大覚寺統と持明院統の対立がなぜ起こったかというと。
後嵯峨上皇(のち法皇)が、最初に後深草天皇を即位させて院政を行っていたのに、途中で後深草天皇から弟の亀山天皇に譲位させたことが発端です。
なぜそういうことをする?
これが謎で。
ときどきあるのは、自分のお気に入りの后妃(おきさき)が変わり、その后妃の子を天皇にしようとして、前の天皇をやめさせる、というパターンなのですが。
ところが、この場合は、後深草上皇も亀山天皇も母(大宮院、西園寺姞子。「姞子」の読みは不明ですが、そういうばあいの例で「きつし」と音読みします)は同じです。
けっきょく、お父さんもお母さんも、幼いころに即位して身近にいなかった後深草上皇よりも、弟の亀山天皇のほうがかわいかったから、ということではないか、ということのようですが。
そして、後嵯峨法皇が、自分の院政の後継者を後深草上皇にするか亀山天皇にするかを決めずに亡くなったことが、亀山天皇系の大覚寺統と後深草上皇系の持明院統が皇位をめぐって争うという事態を生み出したというわけです。
「どちらをあとつぎにするかは決めないので、幕府で決めてください」
「いや、そう言われても」
と困惑した幕府は、後深草上皇と亀山天皇の母にあたる大宮院に後嵯峨法皇の遺志を確認し、亀山天皇をその後継者にしました。
亀山天皇は自分の皇子である後宇多天皇に譲位し、上皇として院政を始めることになります。
しかし、後深草上皇は当然ながらその状況に不満で、その不満を鎌倉幕府にアピールしたところ、幕府は後宇多天皇の皇太子に後深草上皇の皇子(後の伏見天皇)を立てるという妥協策を採りました。
その結果、大覚寺統と持明院統の両統迭立という事態になったわけです。
でも、「なぜそういうことをする?」ということへの回答としては、「院政というのはもともとそういうシステムだから」ということになるだろうと思います。
「延久の荘園整理令」とかで有名な後三条天皇は、自分の子の白河天皇に譲位した後、白河天皇の弟である
そして、今度は、白河天皇が、後三条天皇の愛した弟に対抗して、自分の子である堀河天皇の立場を強化するために、院政を開始します(上皇、後に出家して法皇)。
白河法皇の孫にあたる鳥羽天皇も上皇(のち法皇)となって院政を行い、自分の皇子であった崇徳天皇を退位させて、自分の寵愛する
崇徳上皇としては、自分の子に皇位が戻ることを期待したわけですが、そうはならなかった。それに不満をつのらせた崇徳上皇を後白河天皇側が挑発して保元の乱が勃発します。後白河天皇は崇徳上皇に勝利したうえ、その後、鳥羽法皇の期待した二条天皇も早くに亡くなったことで、後白河上皇(のち法皇)から高倉天皇とその子孫へという流れが確定します。
後白河法皇の孫の後鳥羽上皇は、まず土御門天皇を即位させますが、途中で譲位させて順徳天皇を即位させます。
土御門上皇と順徳上皇(承久の乱の直前に譲位)はどちらも承久の乱で配流されますけれど、もしその流れがなければ、土御門上皇の子孫と順徳上皇の子孫で皇位争いが起こった可能性もあります。現に、土御門上皇の皇子である後嵯峨天皇の即位の際には、順徳上皇の皇子が競争相手となりました。ここでは、鎌倉幕府が、順徳上皇が倒幕に積極的だったことを嫌って、後嵯峨天皇を推したために、このあと、順徳上皇の子孫が皇位争いに有力候補として絡むことはありませんでした。
で、そういう経験をしている後嵯峨上皇だったら、兄に譲位をさせて、弟を即位させればどうなるか、わかってるだろうに……という気が、後世からはしてしまいます。
でも、院政を行っている上皇・法皇(「治天の君」といいます)が自分の気に入る皇子を天皇の地位に即ける、というのも、院政の機能の一つなのですね。
その皇子が天皇になれば、その天皇は「院政を行う上皇・法皇」の地位を手にする有力候補ということになり、自分の気に入っている子の子孫に「治天の君」の系譜を伝えることができるわけです。
私たちは後の世から線の引っ張ってある系図を見て考えるので、「ここで流れを分けてはいけないでしょ? 後のトラブルのもとだよ」とか思うわけですけど、その時代に生きている上皇なり法皇なりにとっては一度きりの人生のなかでの選択ですからね……。
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