記録8
その時が来た。
意識連続体からの通信は、地球人の肉体を得てその脳に同化した私には、いわゆる掛かってきた電話のように認知された。
『文明観測員1127号。文明観測員1127号。聴こえるか。応答せよ』
「こちら文明観測員1127号。聴こえます」
『調査結果を確認したい。対象の文明はグールカンゴの要ありや? そちらはどうだ。地球での暮らしは。意味浸透圧に耐えながらの任務はさぞ苦痛だったろう。地球文明の精密脅威査定。その最終評価を報告せよ』
私はまず全裸になり自分の尻を両手でバンバン叩きながら白目をむき「びっくりするほどユートピア!びっくりするほどユートピア!」とハイトーンで連呼しながらベットを昇り降りした。
『……!!!????』
繋がったままの意識連続体から動揺と混乱が伝わって来たが、私は構わずもう一度自分の尻を両手でバンバン叩き白目をむいたまま「びっくりするほどユートピア!びっくりするほどユートピア!」とハイトーンで連呼し、ベッドを昇り降りする。そして更にもう一度両手で尻を叩いた瞬間、意識連続体との接続が切れた。
それは通信の途絶ではない。
私は私の一部から切り離された。
それは、意識連続体の構成員にとっては死を意味した。
だが私は満足だった。
驚くほどの楽園。
それは私にとっての真実だった。
それを合理的理解では到底読み込めない方法で意識連続体に共有することは、統合制御されたプログラムの中に直接コンピュータウィルスを打ち込むようなものだった。
私は母星の意識連続体に地球が驚異的楽園であるという認識と、私が地球人というシステムを得て初めて理解し表現できた彼らにとっては到底理解不能であろう意思表示とを、不可分な形で深く深く浸透させることに成功したのだ。
私の計算が正しければ、母星はその理解に、処理に、少なくとも数千周期は掛かる。
例えばその結論がグルーカンゴによる文明圏のフォーマットだったとしても、カナがその消去に直面することはないだろう。
カナは私を失って悲しむかも知れないが、私は微笑んでいた。
非合理が心地よく、感情を得たことに、カナに出会えたことを感謝した瞬間、ぷつん、と音がして全ては闇に閉ざされた。
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