第14話

「ハナちゃんただいまー」


火曜日の夕方、私はハナちゃんへのお土産を片手に、帰宅した。


「にゃにゃーにゃー」


ハナちゃんがリビングから顔を出す。

おかえり、という言葉を知らないため、ただいまと言っていると思う。

私を真似ることで、徐々に言葉を覚えていっているのがとても嬉しい。


「今日は美味しいデザート買ってきたから、楽しみだねー」


頭を撫でると、ハナちゃんは嬉しそうに手に頭を擦り付けて来る。

相変わらず可愛い。


「よしよし可愛いねー」


私は台所に入って、冷蔵庫に買ってきたデザートを入れる。


後ろを振り向くと、ハナちゃんがテーブルの前で座っていた。

そこは、いつも食事を始める時に私がハナちゃんを支えて椅子に座らせる場所。


どうやらハナちゃんは、ご飯タイムと勘違いして台所まで付いてきたらしかった。

きょとんとした顔でこちらを見ている。

え?くれないの?と言わんばかりの顔だ。


「お腹すいてるのか」


「なーん」


少しご飯には早いような気がするが、上目遣いでこちらを見てくるハナちゃんに負け、ご飯をあげることにした。



申し訳ないことに、本日はコンビニで買ってきたお弁当だ。

お弁当といってもおにぎりだが。


しゃけ、こんぶ、つな、うめ、色んな種類を買ってきた。ハナちゃんの好みを把握するのが主な目的となる。

元々猫であることを考えると、魚類が好きだと予想される。

甘いものが大好きなハナちゃんは、それこそつななんかを気に入るんじゃないだろうか。


よくよく考えてみれば、箸やスプーンが必要な料理よりも、慣れるまでは手づかみのものを出してあげた方がよかったな。

今度サンドイッチでも買ってくるか。


今のハナちゃんにはコンビニおにぎりを開封するほどの頭脳がないため、あらかじめ皿に用意する。

食べ方の見本を見せるため、ハナちゃんが1番食べられなさそうな梅干しおにぎりを掴んで食べる。


ほら、こうやって食べるんだよ。


「あーん」


パリパリと音を立てておにぎりを食す。

梅の酸っぱい味が舌を刺激する。

梅とのりと白米の味は、奇跡的とも言えるバランスで成り立っている。これだから私は梅干しおにぎりが大好きなのだ。


ハナちゃんは美味しそうに食べる私を見て、早速おにぎりに手を伸ばした。

はじめてのパリパリとした食感を楽しみながら、おにぎりを噛む。


ハナちゃんが選んだのは、どうやらしゃけだ。

白米のおかずとしては最高位に位置すると私は考えている。

しゃけおにぎりといえば、お茶とも合うのだ。


私は冷たいお茶を用意する。


ハナちゃんはガツガツとおにぎりを頬張る。

食べ終わって指をぺろぺろと舐めているのが大変可愛らしい。

乾いた喉を潤すように冷たいお茶を流し込んでいる。


全身にお茶が巡っているのを、ビールを飲む年配男性のように味わっている。

涙目でぷはあと声をあげて椅子にもたれかかった。


ハナちゃんが幸せそうでなによりだ。


私は冷蔵庫から買ってきたデザートを取り出し、2個目を食べ終えたハナちゃんの前に差し出す。

残ったこんぶは後で私が食べるとしよう。


今回私が買ってきたものは、ソフトクリームだ。


コーンにぐるぐる巻きのアイスがのっかった定番デザート、甘く、冷たい。

甘いもの好きのハナちゃんにはピッタリだと思って買ってきた。


ハナちゃんに見せると、アイスの部分を直接掴もうとしてとても焦った。

コーンを持って食べるという感覚がないため仕方ないといえば仕方ない。


私はいつもの如く、スプーンですくって食べさせることにした。

久しく食べていないソフトクリームは、なんなら私が食べたくなるくらいには美味しそうだ。


先端部分を上手くすくって、あーんする。


「あーん」


「なーん」


ハナちゃんの口が開かれ、可愛らしい舌が見える。

その上にトンとスプーンを乗せて、口が閉じられる。


ハナちゃんは目を輝かせて、舌の上で溶けていくソフトクリームを味わう。

そういえばハナちゃんがこれほど冷たい物を食べるのははじめてだ。


ひとしきり味わって舌なめずりをしたあと、2口目はまだかと、ちらりとこちらを見る。


「はい、あーん」


あーんする度に前のめりになってくるハナちゃんは、見ててなんだか面白い。

やはり今回は難しそうだが、いつかソフトクリームを自分で舐めて、口周りにクリームがついたハナちゃんをみたいと思ってしまう。


ソフトクリームでキンキンになった口の中にはパリパリとしたコーンがよく合う。

私で処理してしまおうかとも思ったが、やはり醍醐味を外すことはできない。


ハナちゃんはコーンも美味く食べ終えた。

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