第10話

ハナちゃんとのイチャイチャランチが終わって数時間後、角崎が家に訪ねてきた。


「それで、ハナちゃんがあーんしてくれたんだよ」


角崎が来たがってたから呼んだのに、本人はとても不機嫌そうだ。


「それで?ハナちゃんはどこだ?」


こいつハナちゃん好きすぎやろ。


「寝てるよ、こたつの中で」


ハナちゃんの睡眠の邪魔にならないように、台所で談笑をするのがお決まりになっていた。


「まったく、会えないなら来た意味がないじゃないか」


角崎は、持ってきたあたりめをつまみながら失意の感情を吐露する。

兄弟の家に行って姪がいなかった時みたいな反応に、思わず笑ってしまいそうになる。


「まあまあ、起きるまでいていいから」


「当たり前だ」


あまりに速い返答に、苦笑いを浮かべる。

好きなものを作ると人は変わると言うが、角崎も以前よりなんだか柔らかい雰囲気を放つようになった。


私と角崎は机を囲んで飲んでいた。

といっても2人とも酒が飲めないため、緑茶を飲んでいる。

つまみはあたりめと、ハナちゃんの話だ。


「自分で立とうとして、スプーンを持ち、お前にあーんした、か」


「どう思う?」


「どう思うも何も、いいことじゃないか」


「ちょっと早いというか、唐突というか」


角崎はふむ、と考え込む。


「もうハナちゃんは人間だ。甘くて美味しいホットケーキを食べて、何かに気づいたのかもしれんな。立ったり喋ったり、お前の真似をしている辺り、飼い主ではなく親として認識し始めたんだと思う。それに猫はもともと賢い生き物だし、何よりハナちゃんはもう14歳、言っちゃなんだが遅いくらいだ」


「う、うーん」


確かにその通りだ。

普通の人間だったらもう中学生、ゆっくりしてたら色々まずいことになる。


「とりあえず積極的に話しかけること、あと美味しい物をどんどん食べさせること、引き続き2足歩行の練習を忘れずにすること」


「はい」


もはや叔父というより祖父、もしくは祖母に近しいものを感じる。

ハナちゃんが角崎の方を好きにならないか心配になるレベルだ。


「それにしても……ハナちゃんにあーん、あーんか……」


「したいの?してもらいたいの?」


「どっちもに決まってるだろうが」


怖っ。


ドスの利いた声で話す角崎、嫉妬心というのは怖いものだ。


「してもらうはともかくとして、別にしたいっていうならあーんさせてあげたのに」


「そんなことをされたら可愛すぎて心臓が止まってしまうだろうが」


酔ってんのかこいつ。

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