#4 こちら、「星街放送局」より
勢いよくドアが開かれる。
「サインください!!」
「誰もいるわけないでしょ。入口だってあんなに雑草が伸びているのに」
足元を確かめながらゆっくりと入ってきた冷静なミクの言葉に、ツタウは肩を落とす。
「大体、これって勝手に入ったら不法侵入になっちゃうんじゃ......
入学早々に停学とかほんとありえないからね。この建物の正体も分かったんだし、はやく駅に戻ろうよ」
「えぇ~、もう少しいいじゃん~。みてみて、DJみたい?」
ツタウが机に置かれていたヘッドフォンを装着し、喜々としている。
「ここ、ラジオ局みたいだね......」
部屋の中にはラジオの放送で使用するであろう機材がキレイに残されていた。
「! こっちの部屋はなんだろう~」
そうはしゃぎながら、重く、大きな扉を開いて隣の部屋に入っていく。
「ブースだね。出演者が収録したり、生放送したりするところ」
そう言いながら、ミクも少し楽しくなってきたのかツタウの後をついていく。
「防音設備。かなり本格的だな」
初めてみる”本物”の機材に感心していると、例の鼻唄がまた聞こえてきた。
「みなさん、こんばんは! ツタウラジオ、本日も始まりました~。
今日はなんと! ゲストが来てくれています! 幼馴染みで新高校1年生のミクちゃんで~す」
座席からラジオパーソナリティー
「それでは、ここでお
ミクがのってこないと見るやいなや、側に置かれた手紙に手を伸ばす。
手紙には「2004/10/23」の日付。
宛先と差出人を確認しy――。
突然、部屋が大きく揺れた。
電車が勢いよく、小屋の側を通ったようだった。
線路に近いからか、かなりの振動があり、部屋が轟音と
突然の出来事にツタウは完全に不意をつかれた。
驚きのあまり、手紙を強く握りしめる。
そして目の前のスイッチに触れた。『ON AIR』と書かれたスイッチに。
その瞬間、これまで見たことのない――いや、経験したことのない感覚に包まれた。
頭上を、視界いっぱいを、無数の光が駆け抜けていくようなビジョン。
まるで、夜空を幾数年分の流れ星が一気に駆け抜けていくような――
ふと我にかえり、辺りを見回す。
先ほどのビジョンに驚きつつも、落ち着きを少し取り戻した。
「はぁー、びっくりした......」
呼吸を整えて続ける。
「ミク! 今の流れ星みたいなの見た!?......あれ――」
何も変わっていないはずの部屋に違和感があることに気付いた。
ミクがいない――
胸の鼓動が早まる。
たしかに今さっきまで、そこにいたはずのミクがの姿が見えなくなっていた。
もちろん普段は少し友達の姿が見えなくなっただけでこんなに焦ることはない。
しかし、直感的に何かがおかしいことを感じ取り、不安がツタウにまとわりつく。
自分を驚かせるために隠れているのかもという考えが一瞬頭をよぎるが、ミクはそんな子供じみたことはしないはずだ。
「ミクー! ミクー!」
小屋は不気味なほど静まり返っている。
ひととおり小屋中の部屋を見て回ったが、やはりどこにもミクの姿は見当たらない。
胸いっぱいに広がる不安に押しつぶされそうになりながら、ブースに戻る。
そこで手紙を落としていたことに気付き、拾いあげると――
「ツタウ! ツタウ!」
ミクの声だ。
「ミク! どこにいるの!」
確かに聞こえた聞き馴染みのあるその声に応えようと、手紙を机に戻し、姿を探す。
しかし、やはりどこにも見つからない。
「まさか。手紙?」
机の上の手紙を再び手にする。
「ツタウ! どこいったの!」
やはりミクの声だ――
どうやら手紙を手にしているとミクの声が聞こえるようだった。
「ミク! ここ! なんでか分からないけど、この手紙を持っていると話せるみたい」
「手紙? なんのこと? でも、とにかく無事そうでよかった。急にツタウが消えちゃって」
安堵から今にも二人は泣きだしそうだった。
しかし状況は全く改善しておらず、元に戻るための解決策も思い当たらない。
「とにかく、”手紙”は持ったまま、状況を確認してみよう。外の様子も変わりない?」
冷静なミクの指示に従って恐る恐るドアを確かめながらツタウは街に出てみることにした。
空には先ほどまでの晴天とは異なり、ドンヨリとした黒い雲が漂っていた。
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