#3 こちら、「ミク」より

 「もー、今日は本当に恥ずかしかったよー」


 頬を膨らませながら、新入生と共に入場するという辱めを経験した勇者は帰り道で不満げにつぶやいた。


 「2年連続で”新入生入場”を経験できるのもなかなか貴重だよ」

 帰り道、ミクはいつもの調子でフォローになっていないフォローをする。


 「たしかに! もしかして人類史上、初めてかも!?

歴史の教科書にかも!?」

((......ツタウにとってはフォローになっていたようだ。))


 「でも、先輩としての威厳というものがだね」

 「もともとそんなものはないでしょ」


 そんなやりとりをしながら、最寄り駅へと到着した二人の幼馴染は時刻表を確認するために注意をむける。


 「......電車、行っちゃたばかりだ。」


 次発の電車は2時間後だった。


 「ほんと田舎すぎ」

 ミクが不満げにこぼすと、すかさずツタウが口をついた。

 

 「田舎じゃないよ! うちの近くにショッピングモールあるじゃん!」

 

 二言目にはいつもこれである。

 もう何百回と聞いたその謳い文句にミクは全く意に介さず、手に持ったスマホにへと目を落とす。


 SNSでは、流行はやりのアーティストが新曲をリリースした話題で盛り上がっていた。


 「そうだ!」


 突然、ツタウから大きな声が発せられる。

 くだんの新曲を聞こうと、イヤホンを手していたミクは不覚をかれたようにひるんだ。


 「びっくりしたぁ......なに、どうしたの」

 「そういえば今朝けさ、学校に行く途中でヘンテコな小屋をみつけたの!」

 「ほぉほぉ、前人未到の伝説を作った勇者は、学校という城へ辿り着く前にダンジョンを冒険していた、と」

 「その話はもう忘れてよ!」


 ”あの辱め”が再びフラッシュバックし、いたたまれない気持ちになりながら続ける。


 「線路沿いの近道を通っていた時、不思議な棒が屋根に突き刺さった小屋をみつけたの! あそこが何なのか確かめに行ってみようよ! もしかしたら本当に魔王城かも!? 本物の勇者になれちゃうかも!」

 「近道って......あんなとこ通るのツタウしかいないよ」


 正直乗り気でないミクだったが、目を輝かせながら人気RPGのテーマソングを鼻でうたうツタウをないがしろにはできず、シブシブとうしろをついていくのだった。

 背中越しにツタウのBGMと重なって、17時を知らせる駅のメロディーがかすかに聞こえた気がした。


 「もう帰りたい......」


 雑草がスカートから覗く白い肌に触れる度、そうながら、必死に前をいくツタウに追いすがる。


 一方のツタウは慣れた足取りで、ズンズンと行く手を阻む草むらをかき分けていく。

 ツタウによって雑草が踏みならされてできた”獣道けものみち”はミクにとって唯一の救いだった。


 「ほんとにこんなとこ、”小屋”があるの? もしも、肉まん、おごってよ」

 不安を隠そうと語気ごきに力を込めるミク。


 ツタウの鼻唄はなうたは、どうやらサビの部分しか知らないらしく、同じフレーズが何度もリピートされ、まるで壊れた音楽プレイヤーのようだった。


 ♪~......


 突然、BGMが途切れた。

 「(ついに壊れたか......)」

 そう思いながら、目の前で急に立ち止まったツタウ気付かず、コツンとぶつかった。


 「ここ......」

 そうツタウから視線を上げると、確かにそこにはヘンテコな棒が突き刺さった小屋が建っていた。

 思っていたよりも突き刺さったは太く、複雑に組み合わせられながらそびえている。


 「ね! 本当にあったでしょ!」

 「ずいぶん古そうな建物ね......」


 ”小屋”の正体は依然として不明ないまま、ぐるりと周囲をまわってみると反対側には入口らしき扉があった。

 そしてその上には看板が――


 「「『星街放送局ほしまちほうそうきょく』」」


 二人の声が重なり、周囲に響いた。

 看板にはツタが絡みついており、ところどころがサビてはいるが、文字はなんとか読めた。


 「えーと、放送局?? ってことは、テレビ局なのかな?

 こんな名前のテレビ見たことないけど......ミク、知ってる?」


 「う~ん、建物の規模からしてテレビ局ではないんじゃない?

 でも屋根についてるあの棒はアンテナなのかも」


 「アンテナ! やっぱりテレビ局なんだ!

 もしかしたら有名人とかいるかも!? 見てみたい!!」


 そう言いながら、勢いよくドアへと突入していくツタウに、危ないと制止するミクの声は全く届かないようだった。

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