第三十五節:帰ってきた青年

 アルヴァ達の視界を覆っていた青い光がゆっくりと消える。

そうして目の前に見えたものは、地面に描かれた魔法陣を除けば、それまでとはまったく異なる景色だった。


「どこだここ? どこかの建物の中か? 魔界にこれたのか?」


「ずいぶんと薄暗い・・・、夜になったのか?

いや、そういえば・・・」


 ルクストはアルヴァから聴いていた魔界の環境を思い出す。

太陽はなく、照らす薄暗く寒い世界、ここはまさにそういう場所だった。


「ああ。この暗さ、空気・・・。魔界にきたんだ」


「じゃあ私、転移魔法に成功したんだね! しかも、地上から魔界への転移だなんて!」 


「さすがです、姫様」


「それで? ここは魔界のどこなんだよ?」


 リーウェンがそう問うと、アルヴァは今いる場所をまるで見知っているかのように目の前にある扉へ手をかけながら答える。


「外に出てみればわかる」


 そうして、アルヴァが扉をかけると、そこから風が吹き込む。

アルヴァの後に続いて、扉の外へ出たアサラ達はそこが自分達が生まれ育った地上とはまったくの別世界である事を理解する。

薄暗い闇夜の空には青い炎を纏った巨大な8つの星が不気味にゆっくりと動き続けている。

その炎が、周囲に広がる荒野を鈍く照らす。

遠くを眺めると、空にも大地にも魔物達が徘徊している。

アルヴァ達がいたのは、その魔物達にまるで守られているかのような荒野の中に建てられた塔の中だった。

そして、その場にあるのは塔だけではなかった。

まるで、焼き焦げたかのように黒く塗られた巨大な城が、すぐ目の前にあった。


「なんだ、この禍々しい黒い城は・・・、まさか、ここが⁉」


「やはり、ゼクシアが訓練場に使っていた東の塔か。

帰ってきたんだな、ここに・・・」


「ここが、魔王城なのね・・・」


「うー、なんかゾワゾワしてきたな。これが武者振るいって奴か」


 先頭に立ち、振り返ったアルヴァは仲間達の顔を見る。

敵地にいる中でも、アサラ達の表情に戦いへの不安はなかった。

アルヴァは、それに応えるように力強く声を出す。


「狙うは、魔王ルシファスの首ひとつだ。 案内は任せろ。

一気に駆け抜ける! ついてこい‼」


「「「おうっ!」」」


 アルヴァを先頭に、4人は最後の戦いへと駆け始めた。

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