第三十四節:洞窟の中の青年

「だいぶ、深くまで来たな」


「なー。 あの姉ちゃん、こんな森の中にいったい何を残したってんだ?」


「それがわからないから、確かめに来たんでしょうが」


 フルシーラ王国に戻ったアルヴァ達4人は、ゼクシアの遺書に記された森に来ていた。

ゼクシアがそこに残したとされる『道しるべ』を探す為に。


「書かれていた地図では、このあたりになるけど・・・」


「あ、おい! あんなところに洞窟があるぞ? 何か隠すならああいうところじゃね?」


 広い森の中、何度も魔物と遭遇しながらも同じようなところを歩いていた一行は、進む道を遮るように現れた岩壁にぽっかりと空いた洞窟を見つける。


「そうね、行ってみましょう」


 見ると中はそれほど深くもなく、入ってすぐに行き止まりになったがその地面には何かが描かれていた。


「これは・・・?」


「魔法陣? こんなところに魔法陣が描かれている・・・。

これが、ゼクシアさんが残したもの? だけど、この魔法陣はいったい・・・」


 様々な魔法を使うアサラは魔方陣を見ればそれが何の魔法の為に描かれたものかわかるのだが、見た事のない紋様を含むその魔方陣の答えはすぐに出なかった。

その答えを教えてくれたのは、アルヴァだった。


「この魔法陣、見覚えがある・・・。

以前、サダムが地上偵察に行った時に使った魔法陣とよく似ている・・・」


「転移魔法の魔法陣⁉ そういえば最初に逢った時、彼女は転移魔法を使っていた。

そうよ、ゼクシアさんは転移魔法の使い手だった・・・!」


 魔方陣の正体がわかったアサラは、荷物の中から取り出した魔導書を片手に魔方陣を踏まないように注意しながらその周りを歩き解読を始める。


「転移魔法という事は・・・、これを使えば別のどこかへ行けるという事ですか?

いったいどこへ・・・」


「決まっているだろう。これは・・・、魔界に繋がっているんだ」


 それが、ゼクシアがアルヴァに残してくれた『道しるべ』だった。

アルヴァを再び、戦うべき場所へ導く為にゼクシアはそれをこの場所に残していた。


「まじか⁉ じゃあ、こいつを使えば奴らが攻め込んでくるより先にこっちから仕掛ける事ができるのか⁉」


 リーウェンの言葉にルクストも同調し笑みを浮かべるが、アサラは顎に手を置いて難しい顔で魔方陣を見ていた。


「うーん・・・。

そう簡単なものでもないみたいよ、この魔法陣。

まだなんとか生きてはいるけど、この魔法陣から感じる繋がりはとても細く脆いものだわ。

何度も、何人も行き来できるものではないみたい」


「まだ扉は開いていない。

これはきっとルシファスがつくったわずかばかりの世界の壁に生まれた亀裂・・・、

そこを通じて道を作っているんだと思う。

だけど俺ひとりが、魔界に戻るには充分だろう」


 もし、今魔界に戻って魔王を討ち取る事ができれば、地上との扉が開く事はない。

魔族の軍勢が地上に攻め込んでくる事はなくなる。

地上と魔界の双方の平穏を望んでいたアルヴァにとっては、それは一番の解決案だった。


「アルヴァ、お前・・・」


 アルヴァのその言葉にリーウェンが呆れたようにため息をつく。

そして、誰が言うでもなく3人の仲間達はアルヴァの周りに並んだ。


「たしかに、今決着をつければ地上と魔界の戦いは起きずにすむ」


「うん、私達4人ぐらいなら行けると思うわ。

私にまかせて」


「みんな・・・」


 武器をその手に握り、力強い表情を見せる仲間達の決心はもう誰にも止められるものではなかった。

そして、アルヴァにとってそれは何よりも心強く、自分を支えるものだった。


「ここまで来て、ひとりでなんて行かせないからね」


「さあ、魔王とやらの顔を拝みに行こうぜ!」


「我らの手で、この地上を守るのだ!」


「ありがとう・・・。

アサラ、行けるか?」


「うん。

みんな、覚悟はいいわね?」


 全員が同時に頷いたのを確認し、銀色の杖クルケリオンを手にしたアサラは深く呼吸し、精神を集中する。

アサラは、転移魔法を使った事がない。

その手段すら失われた伝説の魔法だからだ。

だが今、目の前にその魔法陣が存在し、伝説の杖を手にしたアサラにとってそれはもう、できない魔法ではない。


「我が魔力よ、繋がりを辿れ。ウィアム アド ポルタ。

道よ開け、我らを新たな地平へと導きたまえ!

ムンドゥス デ セクゥンド!」


 アサラの詠唱に応じるように、そこに描かれた魔法陣から青い光が放たれ、たちまちアルヴァ達の視界を覆った。

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