第二十七節:すべてを思い出す青年

 記憶の中、アルヴァはある城の中にいた。

アルヴァはその城の主に仕える剣士だった。


「今・・・、何とっ⁉」


「聴こえなかったか? 貴様の故郷を滅ぼせ。

バレドの民を一人残らず・・・、皆殺しにしろ」


 跪くアルヴァの目の前、玉座に座る主はアルヴァにその非情な言葉を投げかける。


「なぜですか⁉ どうしてっ‼」


「我が眠りについた後、勇者カノンと聖剣フラガソラスの行方はいずこかへと消えた。

だが、奴はこの魔界から出る事はできなかったはずだ。

ならば、この魔界に潜み聖剣を隠し持っている勇者の末裔がどこかにいるはずだ」


「それが・・・、バレドの民であると?

そんなっ! そんな事はありませんっ‼

俺もバレドの民です! ですが、そんな話は聞いた事がありませんっ‼

それに俺達バレドの民も、魔族ですっ‼

勇者の・・・、人間の末裔であるはずがありません‼

あなたの御力で魔界は統一された! あなたが、この魔界を救ったのです!

我ら、すべての魔族はあなたに忠誠を誓っています!

ですから、どうか! どうか、この命令だけはっ‼」


「やれと、言っている・・・」


 立ち上がり、必死に城の主を説得しようとするアルヴァの言葉を聞いても、彼は眉ひとつ動かさなかった。


「できませんっ‼

俺が手に入れたかった未来は・・・、そんなものではありません‼」


 苦悩するアルヴァを見下ろす玉座に座る魔王には、アルヴァのその想いが届く事はなかった。




 頭が割れるような痛みに襲われながら、アルヴァの脳内に数えきれない情報が飛び交う。

それらはすべて、アルヴァが失っていた記憶だった。

やがて頭痛が収まると、アルヴァは茫然としながらその両目からは止めどめなく涙が流れ続けた。


「おい、アルヴァ! 大丈夫か⁉」


「どうしたと言うんだ?」


 傷ついた仲間達がアルヴァに近寄る。


「思い出した・・・、全部・・・。

俺は・・・、俺はぁっ‼ あ・・・、あぁっ・・・!」 


「アルヴァ・・・? あっ! そ、その瞳っ・・・!」 


 アサラの知るアルヴァの瞳の色は美しい琥珀色だった。

アサラの記憶の中にわずかに残る母の記憶、母と同じ瞳の色。

だが、目の前で魔族の女剣士ゼクシアの亡骸を抱いて涙を流しているアルヴァの瞳は、

あの魔族の魔法使いサダムのように、魔族の女剣士ゼクシアと同じように、

真紅に、染まっていた。

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