第二十五説:塔を登る青年

 やがて、回収、修繕されたキャプテン・ハックの海賊船に乗り、アルヴァ達一行は海を渡った。

伝説の通り、その船はあらゆる荒波にも、魔物の襲撃にも動じずに海を越え、それまで連絡の途絶えていたプラネス地方へと渡る事ができた。

そして一行がまず向かった場所は、女神エルディナが降臨したとされる天空の塔。

それは、山奥に天を突きさすようにそびえ立つ美しい塔であった。


「うー、高いなー! 今、何階まで登ったっけ?」


「お前が数えるんじゃなかったのか?」


「いや、倒した魔物を数えていたらわかんなくなっちまった」


 そのような会話をするリーウェンとルクストを先頭にして、アルヴァ達は天空の塔を登っていた。

その後ろにアサラ、そしてアルヴァが続く。

いつの時代に誰が建てたのかも定かではない、にもかかわらず朽ちる事なく天高くそびえ立つその塔の内部は魔物達の住処すみかになっていた。


「まさか、こんな神聖な塔までが魔物の住処になっていたなんて・・・!」


「この塔の頂上にあるんだな。その、女神の御神体・・・、エルディナ神が降臨したっていう石像が」


 ここ数日どこか思いつめるような表情を見せていたアルヴァがそう呟くと、アサラは空気を明るくするかのように笑顔で言葉を返す。


「うん、それで女神エルディナ様が現れてくださればきっと、勇者も見つかる!

ビトラダイトもきっと手に入るよ! もしかしたら、この中の誰かが勇者としてご加護を頂けるかもしれないわよ!」


 とは言っても、それは勇者伝説での出来事だ。

実際に今も起きるという保証はない。

ただ、手がかりがないアルヴァ達はそれに頼るしかなかった。

それでも前向きに考えながら旅を続けるアサラの姿は、仲間達の励みにもなっていた。


「だとしたら、やはりフルシーラの騎士である私でしょうかね」


「俺はパスかなー、聖剣ってのはガラじゃないわ」


 笑みを浮かべながらそう会話する仲間達の中で、アルヴァの表情だけがどこか曇っていた。


「アルヴァは? 私達より先に魔族と戦っていたんだもの。

もしかしたら、アルヴァが勇者かもしれないわよ」


「俺は・・・、きっとそんなんじゃないよ」


「アルヴァ? どうしたの、なんか怖い顔して・・・」


 アルヴァは警戒していた。

魔物達が巣食うその塔の様子に、どこかサダムがいた遺跡と同じものを感じていたからだった。


「これだけの塔が、魔物の住処になっているんだ。

なら、あのサダムって奴のようにこれだけの魔物を育てている魔族がここにいるんじゃないのか?」


「アルヴァ? 考えすぎよ、そんな・・・!」


「おい、ようやく頂上みたいだぞ!」


 先頭で階段を昇っているいるリーウェンが振り向き、仲間達へ声をかける。


「これでようやく、女神像が・・・、あ・・・あぁ!」


 ようやく塔の頂上に辿り着き笑みを浮かべるルクストだったが、その表情は一瞬で変わった。

後から続くアサラも、ルクストが目にしたものを確認し、言葉を失う。


「あっ・・・! う・・・、嘘っ・・・!」 


 塔の頂上には美しい祭壇があった。

だが、祭壇の中心の台座の上にあった女神像は、破壊されその断片が床に転がっていた。


「嘘だろ、おい! ここまで来て!」 


「なんという、女神の降臨した石像をこんなバラバラに・・・!」


 アルヴァは、破壊された女神像を確認する。

まるで誰かが女神へ怒りをぶつけたかのように、手や脚、胴体、さらに首などの像の断片が散らばっている。

だが、その断片は真っ直ぐな直線を描いている。

像は、力任せに砕かれたものではなかった。


「これは、斬られたのか? まさか、ここにいる魔族は・・・!」


 その時、アルヴァはひとつの気配を感じた。

アルヴァはそれに、どこか懐かしさを、そして胸が締め付けられるような感覚を覚える。

それは、祭壇の奥から歩いてきた。


「何をしにきた」


 外套マントを翻してそこに現れたのは、銀色の長い髪、白い肌、深紅の瞳の美しい女性。

アルヴァの夢の中に何度も出てきた・・・、アルヴァがずっと探し求めていたあの女剣士だった。

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