第二十四節:眠る少女に付き添う青年
「う、うーん・・・」
身体に妙な重さを感じながら、アサラはベッドの上で目を覚ます。
「よう」
ベッドの横の椅子に座り本を読んでいた途中だったアルヴァは、その様子に気づき声をかけた。
アサラは眠る自分の部屋にアルヴァがいる事に驚きながら、自分の今の状況を頭の中で整理する。
「アルヴァ?
私、たしか無理矢理 結界魔法を発動して・・・」
「3日間寝ていたんだぞ? 心配した。
でも・・・、おかげで助かった」
アサラは魔族の魔法使いサダムとの戦いで敵の結界魔法を一時的に無効化する為に、遺跡全体に魔方陣なしの結界魔法を行った。
それを知ったエルミリアの王宮魔道士は言葉を失っていた。
結界魔法は結界の生成が困難であり、魔方陣でそれを安定させるのが定石だと言う。
もし、それを行わずに広範囲の結界魔法を行おうとすると放出した魔力は止めどなく溢れ続け、やがては術者の生命力すら放出してしまい最悪の場合は死に至る危険な荒業らしい。
しかもそれを、アサラは敵の結界を上書きする形で遺跡全体という広範囲に行った。
エルミリアの王宮魔道士は成功したのも生きているのも奇跡的と口にしていたが、それがアサラの魔法使いとしての実力でもあった。
どちらにしろ、そのような危険な行為を仲間を守る為にアサラは決行した。
アルヴァは、目の前の少女に恩義を感じながら、目を覚ました彼女に水を渡す。
口の中の渇きを潤したアサラは気だるそうに再度ベッドの上に横たわり、アルヴァの方へ向く。
「ずっと、看ていてくれたの?」
「いや、実はさっきまでルクストがついていたんだけどな」
「ああ、心配のしすぎで熱だして倒れた?」
「さすが幼なじみだな。 よくわかっている」
実際、ルクストの慌てようは酷かった。
容態は安定していてやがて目が覚めるという話を聞いていても、一睡もしないでアサラのそばを離れようとせず、3日目にしてとうとう体調を崩したので、リーウェンが無理矢理部屋から引きずり出して休ませた。
「遺跡はどうなったの?」
「あの魔法使いが死んで、結界が弱まったらしい。
魔法陣も見つかったよ。無事に壊して、今頃は船の回収作業が始まっている頃だ」
「そう、良かった・・・」
安心した様子の顔を見せたアサラは、何かを思い出したようにすぐに表情を曇らせる。
「ねえ、アルヴァ。あのサダムっていう魔族の魔法使い、アルヴァの事を知っていたけど・・・」
「ああ。まだ思い出せていないけどたぶん、記憶を失う前に俺は・・・」
「きっと戦っていたんだよ、アルヴァは!
私達より先に、あいつらと! 魔族と戦っていたんだよ!」
アルヴァが思いつめるような表情を見せたのを察し、アサラはその言葉を遮った。
そうしてベッドの中から手を出して、椅子に座るアルヴァの手を握る。
アサラは、そうしないとアルヴァがどこかへ行ってしまいそうな気がしていた。
「アサラ・・・」
「船、楽しみだね! きっと勇者も聖剣も見つかるよ! アルヴァの記憶も、きっと・・・」
アルヴァの為に疲労した身体で笑顔をつくり、そう口にしたアサラはやがてゆっくりとまた眠りについた。
その寝顔を見ながら、アルヴァは考えていた。
思い出した記憶の事、アルヴァの剣の師匠と思われる老人の存在、ゼクシアという名前、そしてバレドの里。
アルヴァは理解していた。
ゼクシアとは、アルヴァが探している銀髪と紅い瞳のあの女剣士の名前だ。
アルヴァは、かつてバレドの里と呼ばれる場所からゼクシアと共に旅立ち、やがて誰かを裏切り制止するゼクシアに別れを告げてその里を守る為にひとりでザスディーンという名の戦士達と戦い、敗れた。
問題は、その記憶の中にサダムという名も出てきていた事だ。
なぜ、この件に魔族が関わってくるのか。
そして、アルヴァが使う剣術と同じ、バレドの名を持つ里。
おそらくは、そこがアルヴァの生まれ故郷。
だが、エルミリア王国の図書館に通い各地の地名を調べても、アルヴァはバレドの里などと呼ばれる場所を見つけられなかった。
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