第二十三節:師を思い出す青年

「師父、どうか早くお逃げください‼」


 蘇るアルヴァの記憶の中、アルヴァは師父と呼ぶその老人にそう声をかける。

だが、老人はそこに座したまま動こうとしなかった。


「あの御方が、この里を滅ぼすと決めたのだ。 それを、どこに逃げようというのか・・・」


「アルヴァっ! まずいぞ、もうそこまで来てる!

しかも、あの旗は、ザスディーン将軍の部隊だっ‼」


 慌ただしい様子で走ってきたひとりの若い剣士が、アルヴァにそう声をかける。

アルヴァは腰に差した刀の鞘に手を置きながら、避けられない戦いに負い目を感じていた。


「よりによって、あの人か・・・!

サダムあたりだったら、なんとかなったんだけどな。

しかし、来るにしては早すぎるっ‼」


「ゼクシアは? ゼクシアはどうしたんだ⁉ まさか、ゼクシアも俺達を見捨てたのか⁉」


「ゼクシアの決めた事であろう。 ゼクシアは、ゼクシアの道を選んだのだ。

アルヴァよ。 お前も・・・、お前の道を行け」


 落ち着きを失った剣士に対し、それを制するように老人が口を開く。

アルヴァは、その老人の顔をまっすぐと見てその手を握った。


「俺の道はここです、師父。 俺は、俺を育ててくれた師父を、この里を、守る為に戦うのです。

そして、俺はこの道で、俺の夢を・・・この世界を守ってみせます。だから・・・!

おい、師父をお連れしろ! しんがりは俺が務める!」


「わかった・・・! アルヴァ、頼んだぞ!」


 若い剣士は老人を連れて、その場を去っていく。

その姿から背を向けてアルヴァは戦いへと向かおうとしていた。

その背中に、老人の声が届く。


「アルヴァよ・・・、死んではならん。 お前は・・・、決して死んではならんぞ」


「バレドの里は・・・、俺が守ってみせます」


 離れていく足音に寂しさを感じながら、アルヴァはそう口にしていた。

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