第二十節:若き王と会談する青年
「まあ、アサレフィア姫! よく来てくれました!」
「お久しぶりです。ルナミーア様」
エルミリア王国に到着した一行は、すぐにエルミリア王に謁見する。
アサラとは王宮に嫁ぐ以前からの知り合いという王妃ルナミーアはアサラの来訪に大変喜び旧交を温めていた。
その姿は並んでみれば、姉妹のようにも見える。
そして、妃と同じく玉座に座っているフルシーラ王国の同盟国エルミリアの王もまた、アルヴァ達とはそう変わらない若い男だった。
「このような時に、よくぞ危険な海を渡り、来てくれた。歓迎しよう」
「エルミリア王、このたびは・・・、これからの戦いの為に、フルシーラの使者として参りました」
そうして、アサラはフルシーラ王国で起きた事などについて語り始める。
それを聴くエルミリア王は、思い悩むように顔をゆがめていた。
「なんと、そのような魔物がフルシーラの王都に攻め入るとは・・・!」
「エルミリア王、どうか共に地上を守る為に力を貸していただけないでしょうか?」
「あなた・・・」
表情をこわばらせていた王に王妃は優しく手を添え、自分を奮い立たせるように頷いた王はアサラに向き合った。
「うむ。 地上と魔界の戦い・・・。 すでにその伝説もおとぎ話となり果てた今の時代、人々がどこまでついてきてくれるか不安ではあるが・・・、やれるだけの事はやろう。
問題は、勇者と聖剣だな」
「伝説では勇者は魔界に姿を消した・・・。ならば、聖剣は今も魔界にあるのではないでしょうか?」
「現状、私達に魔界へ行く手段はない。
地上と魔界を繋ぐ扉が開けば、魔王軍が地上に攻めてくる。
それからでは、だめだ」
そうしてまた思い悩むエルミリア王だったが、そこで一緒になって頭を抱えるようなアサラではない。
「ですが、魔物達は太陽の金鎚を狙ってきました。
それはつまり、私達に再び聖剣フラガソラスを生み出す事ができる可能性があるのではないでしょうか?」
「この地上のどこかに、天界の金属ビトラダイトが存在するかもしれないというわけか・・・」
「いやいや。どこかって言ったって、世界は広いよ?
勇者もその、天界の金属も手がかりなしで探すのはちょっと・・・」
リーウェンが口にしたそれは事実だった。
そのビトラダイトという金属が現存しているとわかっていれば、フルシーラ王はすぐにそれを手に入れる為に動いていただろう。
だが、大昔に女神から授かったと伝えられているだけで、そもそも地上に存在するものなのかもわからないのだ。
「それならば、心当たりがふたつございます」
その中で、一番に口を開いたのが王妃ルナミーアだった。
「ひとつは、勇者カノンが太陽の女神エルディナの加護を受けたとされる天空の塔。
そこならば、あるいは伝説のように女神エルディナ様が現れ、新たな勇者への加護を、そしてビトラダイトを頂けるかもしれません。
もうひとつは、このエルミリア王国にて一番の名工と名高い鍛冶職人リガルです。
彼ならば、聖剣を生み出す事も、その手がかりも、きっと力となってくれるでしょう」
博識な王妃の言葉に感嘆しつつ、アルヴァはその名工の存在が気になった。
「鍛冶職人・・・。その者は、刀についても詳しいのでしょうか?」
「え、ええ。もちろんです。
このエルミリア王国でリガル以上の武器を作れる者はいません。
刀においてもおそらく、この世界でリガル以上に詳しい者はいないでしょう」
未だにバレド流剣術について知る者が見つからない今、刀の専門家からその剣術を知る者がいないか聞く事ができればアルヴァの記憶の手がかりを見つける新たな糸口になるかもしれない。
「問題は・・・、どちらも現在は連絡手段が途絶えている事だ」
そう言うエルミリア王は頭を抱える。
どうも、先ほどから王が思い悩んでいるのは現在のエルミリア王国の状況にも理由があるようだった。
「連絡手段が途絶えている? それはいったい・・・」
「すでに知っての通り、我が国も魔物の増殖に苦しめられ船を出せないのだ。
天空の塔がある、そしてリガルが暮らすプラネス地方に行く事ができずにいる」
「そんなっ! エルミリア王国の造船技術を持ってしても・・・!」
「だが、我々もまったくの無策というわけではない。
海を渡れないのならば、海を渡れる船を手に入れればいい」
「船を・・・、手に入れる?」
「実は、ここから南にある古い遺跡の奥に海へと繋がる洞窟が発見されてな。
そこで見つかったのだ、伝説の大海賊キャプテン・ハックの船が」
「伝説の大海賊?」
アルヴァが読んだ勇者伝説の本にも海賊についての話があった。
たしか海賊の船に乗り、海の魔物と戦う話だ。
「伝説の勇者カノンに命を救われ、強い友情を結んだとされるその海賊キャプテン・ハックは地上と魔界の戦いの際にも、地上の為に力を貸してくれたそうです。
その船は、海の神ネプトゥスより与えられた神器とされ、あらゆる荒波を乗り越え、魔族との戦いでも沈む事なく戦い抜いたと伝えられています」
王妃が口にした史実とされる海賊とその船の話に、疑問を口にしたのはリーウェンだった。
「って事は、千年前の船? いやいや、いくらなんでも・・・」
「私もそう思った。しかし、それを確認した我が国の船大工が大層驚いたそうだ。
ほとんど痛んでいない、これほどの船は見た事がない。
少し修理するだけで、どんな海も乗り越える事ができる・・・とな」
思い悩む王がその船に希望を見出しているのを感じるが、どうも様子がおかしい。
「なぜ、それほどの船を回収しないのですか?」
ルクストがその疑問を投げかけると、王の顔がその日一番の曇りを見せた。
「もちろん我らはすぐに回収の為に動いた。だがそこに、魔物が現れたのだ・・・。
奴らは南の遺跡を住処にしてしまい、船の回収は難航した。
そして恐ろしい事に、魔物の討伐に向かいその遺跡で命を落とした我が兵士達は・・・、
生きる屍として、魔物になってしまったのだ・・・!」
そう語るエルミリア王は拳を握り、自身の無力さを感じているように顔を歪める。
これが、今この国で起きている一番の問題なのだろう。
だが、人間の死体が魔物になるというのは少なくともアルヴァやリーウェンは初めて聞く事象だった。
しかし、アサラはその事象を知っているかのようにエルミリア王へ問いかける。
「その遺跡を住処にしているのは、死霊のたぐいなのですか?」
「その通りだ。
恐らくは遺跡の地下に眠っていた亡骸が魔物となって、あの遺跡を守っているのだろう。
原因はわからぬが・・・」
「それこそ、魔族のしわざなんじゃないのか?」
「たしかに・・・。フルシーラに現れたゴブリンの軍勢が魔族によってまとめられたものならば、このエルミリア王国にも、そのような軍勢が整えられつつあると見てもいいだろう」
アルヴァとルクストのその考えに、アサラは頷いた。
「ええ。 私も本でしか見た事がないけど、死体を魔物にする古い魔法があるらしいわ。
もしかしたら・・・」
「って事はだ! 遺跡にいるそいつらをぶっ飛ばしてやりゃあ、その伝説の海賊船が回収できるんだろ?」
いつもの調子で、リーウェンが声をあげる。
「お前、簡単に言ってくれるな」
「エルミリア軍ですら、苦戦しているのだぞ。 そう簡単に・・・!」
楽観的なリーウェンに呆れていたアルヴァとルクストだったが、アサラは魔法の杖を手にその自信を口にした。
「ううん。私なら、その魔物に対抗できると思うわ」
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