第十九節:旅立ちを思い出す青年

 アルヴァはまた夢を見ていた。

夢に出てくるのはいつもの銀髪と赤い瞳のあの女性。

だが、最近見る夢は以前に見ていた別れを告げる場面とは異なる情景。


 どこか懐かしい丘で、遠くを眺めるアルヴァにその女性は声をかける。


「本当に、この里を出るのか?」


「ああ。 戦いの火はもうそこまで来ている。 この戦いを終わりにする。 この世界はひとつになるべきなんだ」


 そう答えるアルヴァの隣に、その女性は静かに寄り添った。


「ならば、私も一緒に行こう」


「お前・・・」


「何を驚いている? 私の剣の腕が信じられないか?」


「そうじゃないけど・・・、でも・・・」


「お前は言ってくれただろう? 私にそばにいてほしいと」


「そうだけど、それは・・・!」


 彼女は、アルヴァのそばにいようとしている。

だがアルヴァは彼女を危険から避けるかのように、それを素直に受け入れる事ができずにいた。

しかし、彼女はそれでもアルヴァの顔をその赤い瞳でまっすぐと見つめ、アルヴァのそばにいる事を選ぶ。


「私の気持ちはお前と同じだ。 私はお前のその信念を、何よりも尊敬している。

共に誓ったではないか。 私達の剣で、この世界を救うんだ」


 アルヴァには、その女性に近くにいてほしいという想いがあった。


「ああ、そうだな」


 笑みを浮かべた彼女とアルヴァは、これからの自分達の行動について話し始める。


「それで? どの軍に入るのだ? やはり、かのザスディーン将軍の治める北の大陸か?」


「いや・・・、眠りの地へ行く」


「眠りの地? なんびとたりとも踏み込んではならないとされるあの場所に?

まさか、お前・・・」


「ああ。 この世界を再びひとつにする。

その為には、あの御方の帰還が必要なんだ」


 夢はそこで途切れた。

誰かに呼ばれたような気がして、アルヴァは目を覚ます。


「おーい、アルヴァ! 起きろ! おーい!」


「う・・・、リーウェン・・・?」


「やっと起きたか」


 小さな窓から日の光が差す部屋の中、目を覚ましたアルヴァの目の前にはリーウェンがいた。

すっかり慣れた揺れる床と潮風の香りを感じ、そこが船上である事を思い出す。

先に起きているのか、アルヴァとリーウェンと同室のルクストの姿はない。


「あぁ・・・、また、夢を見ていた・・・」


「お? 例の綺麗な女剣士の夢か?」


「なんだよ、その顔は」


 下品なにやけ面を見せるリーウェンに、アルヴァは顔をしかめる。


「はっはっはっ! いやー、罪な男だねー。

それよりも! 甲板に出て来いよ! いよいよ、エルミリア王国が見えてきたぜ!」


 ルクストを仲間に加えたアルヴァ達一行は、フルシーラ王国の使者として船に乗りエルミリア王国を目指した。

魔物の増加により禁止されていた渡航だったが、王国の調査団によって新たに開拓された航路を使った数か月ぶりとなるエルミリア王国行きの船が出され、一行の船旅は始まった。

途中、何度か海の魔物に襲われるたびにアルヴァ達は戦い船を守りながら進み、そして無事に目的地エルミリア王国へと入港した。

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