第十六節:王都を守る青年

「緊急! 緊急! 魔物だーっ! 魔物の大群の襲撃だーっ‼」


 次の朝、警鐘と衛兵の声が城内に鳴り響いた。

朝の静けさは消え去り、人々は戸惑いの声を漏らす。

兵士からの報せによると、なんとこの王都に二足歩行の魔物、ゴブリンの大群が攻めてきたという。


 武装した兵士達が次々と戦いへと向かう中、客人として城にいたアルヴァとリーウェンも戦いの準備を始める。

すると、廊下を歩いていたふたりの前にアサラが走って近づいてくる。

ドレスではなく旅をしていた時と同じローブを着て、手には魔法の杖を持っていた。


「アサラ!」


「魔物の大群って、どういう事だよ!」


「わからない・・・、どうしてこんな!」


 その時、城の外の様子を見てきた数名の騎士達が城へと戻ってきた。

その中にいたルクストは、魔法の杖を手にしているアサラの姿を確認すると血相を変えて走ってくる。


「姫様!」


「ルクスト、城の外はどうなっているの⁉」


「すでに魔物達は王都に入り込んでいます。奴らは今、この王城に向かって進んでいるようですが、ご安心ください。

城門は絶対に我らが守ってみせます。 ですから、姫様は・・・」


「魔物達が王都に入ってきているですって⁉ それじゃあ、王都に暮らす人達は・・・」


「もちろん、避難、救助は続けております! ですから、姫様は・・・!」


「アルヴァ! リーウェン! お願い、手伝って!」


 魔法の杖を強く握り、アサラは力強くアルヴァ達の方へ向いた。

アルヴァ達もすでに、この危機に客人として黙っているつもりはなかった。

アルヴァも刀の鞘に手をかけて力強く答える。


「王都に入り込んだ魔物と戦えばいいんだろ? 任せろ」


「なんだよ、さっそく闘技大会以上のビッグイベントだな! 腕が鳴るぜ、おい!」


 その様子に唖然とするルクストだったが、すぐに我に返りアサラの前を塞ぐ。


「い・・・いけません! 姫様‼ そんな危険な‼」


「私は戦えるのよ! 私が旅に出るのを決心したのも、私がこの城で一番の魔法使いになったからよ!

それを、その力を! 自分の国を、民達を守る為に使わないで何が次期国王よ‼」


 そう言って、力任せにルクストを突き飛ばしアサラは王都へ向かい、アルヴァ達もその後ろへ続いた。

その姿を、ルクストは黙って見ているしかできなかった。


「ひ・・・姫様・・・」




 アルヴァ達が王都へ出るとそこは地獄絵図だった。

石や木で作られた不格好な武器を手にした数えきれないほどのゴブリンが、王都の各地で暴れていた。

街は逃げ惑う人々の悲鳴が響く。


「たぁーっ‼」


 アルヴァは刀を抜き、目につくゴブリンを次々と斬り捨てていく。


「おらおらっ! てやーっ‼」


 まるで、それに対抗するかのようにリーウェンもゴブリン達をその打撃で次々と仕留めていく。

アサラもまた、怯える王都の住民達に声をかけ、誘導する兵士の方へ逃げるように促しながら、魔法でゴブリン達と戦う。


「皆! 早く避難を!

我が魔力よ、氷となりて敵を貫け! ランケア デ スティーリア‼」 


 アサラの魔法の杖から放たれた槍のように鋭い氷柱がゴブリンの身体を貫く。

三人の圧倒的な力の前にゴブリン達も動揺を見せていた。


「なんだよこいつら、数だけか⁉ 手応えがないなぁ!」


 そう言いながらゴブリンを投げ飛ばすリーウェンの後ろで、アサラは何かを考えていた。


「おかしい・・・!」


「どうした、アサラ?」


「ねえ、アルヴァ。おかしいと思わない?

こいつら、たしかに一体一体はたいした事ないけど、やけに統制が取れている。

そうでなければ、王都にここまで入り込まれるなんてありえない!」


「魔物を・・・、指揮している奴がいるのか⁉」


 周囲のゴブリンを一掃したリーウェンも、ふたりの様子に気づき会話に加わる。


「おいおい、そんな馬鹿な話があるか?」


「ルクストは魔物達が城に向かって進んでいるって・・・。 じゃあ、奴らは城に何か目的があって攻め込んでいる⁉

魔物と言えども、野生の生き物よ⁉ それが、なんの為に⁉」


「それなら、一度城に戻った方がいいんじゃないのか?」


「でもまだ、逃げ遅れた人達が!」


 その時、判断に迷うアサラの肩をリーウェンが叩いた。


「城に入り込まれたら、城に避難した住民も危ないだろ。 ここは俺に任せて、お前ら戻れ」


「リーウェン!」


「俺達のおかげで兵士の士気も上がってきたし、もうだいぶ片付いてきたからな!

次期国王様の戦う姿、その気持ち! たしかに皆に届いてるぜ!

だから戻れ! こんな雑魚ども、残りは全部俺ひとりでやってもいいくらいだぜ!」


 気づけば周囲から住民の悲鳴は止み、ゴブリン達と立ち向かう兵士達の勇ましい声が響いていた。

その状況を見てアサラとアルヴァは互いの顔を見て頷く。


「任せたぞ、リーウェン! 行こう、アサラ!」


 そうして、城の方へと戻ろうとしたふたりの前に伝令の兵士が息を荒立てて現れる。


「殿下! 西側より、巨大な魔物が恐ろしい勢いで城を目指しているようです!」


「なんですって⁉ まさか、ゴブリンは陽動⁉」


「これは、本当に指揮官の存在を疑った方がいいな」


「それで、その魔物は?」


「はい! ゴブリンとは異なる体色、体形ですが、やはり同じ二足歩行で、兵士達を踏み殺すような巨体と強さで、その手には武器を・・・! あれは・・・、トロールです!」

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