第十四節:王に謁見する青年
何度か魔物の襲撃に逢いながらも、それを退けるアルヴァ達を乗せた馬車はやがてフルシーラ王国の王都へと着いた。
城へと入ったアルヴァ達は、そこで美しいドレスに着替えたアサラと共に謁見の間へと案内される。
そこには、厳格な雰囲気をただよわすフルシーラの王、アサラの父が待っていた。
「さて・・・理由を聴こうかアサレフィア。
お前が突然、城から抜け出し旅へ出た理由をな・・・」
「アサレフィア?」
玉座に座った王の口から出た、聴き慣れていない名前の正体をアルヴァは隣にいる姫君に確かめる。
「私の本名。そのままだとすぐにバレちゃうでしょ」
「アサレフィア」
よそ見をする娘を叱るように再度、その名前を強く呼んだ王に対してアサラは小さくため息をついた後、王の顔をまっすぐ見てその気持ちを正直に答えた。
「旅に出たかったからです、お父様」
「姫様! まだそのような事を!」
「お前もアサレフィアの護衛ならばしっかりと見張ってほしかったものだな、ルクストよ」
「も・・・申し訳ございません・・・」
頭を下げるルクストの方を向く事なく、王は娘と目を合わせて言葉を続ける。
「よいかアサレフィアよ。何度も言うようだが儂の子はお前ひとり。
お前はやがてこの国を治める王となる者なのだぞ。
お前にはもう少し次期国王としての自覚というものが・・・」
「わかっています! けれど・・・!
どうしても私は旅がしたいんです! 外の世界をもっと知りたいんです!」
娘の意志の強さに苛立ちを感じたのか、王は玉座から立ち上がった。
「ならん! 次期国王のお前が、それも魔物の増加したこの時代に旅をしたいなどという言葉は許されるものではない!
お前の軽率さが、民の不安を招く事になるのだぞ⁉」
「ですから、正体を隠して旅をしていたんじゃないですか!」
「それでお前の身にもしもの事があった時、誰が私の跡を継ぐのだ?
誰がフルシーラ王国を守るのだ? お前はその責務を放棄するというのか?」
「そんなつもりはありません! ですが・・・」
アサラも、自分の立場はわかっていた。
だが、アサラもひとりの少女であり、ひとりの人間なのだ。
世界を知りたいと願い、魔法という力を持った彼女にとって、城の中での生活はあまりに窮屈なものだった。
しかし、その願いは王国の姫君に許されるものではない。
魔物の繁殖した今の世界ではなおさらだった。
「王位を継ぐ覚悟と責任を感じているのならば、子どもじみた旅への憧れなど断ち切ってみせよ!
わかったな、アサレフィアよ。もう二度と城を抜け出すような真似はするな」
アサラは返答をせず、王から視線を逸らしてうつむいたままでいた。
王も娘から視線を外し、玉座へ座り直してアルヴァ達へ言葉を向ける。
「アルヴァとリーウェンといったか。
そなた達ふたりにはアサレフィアが世話になったな。
今日は城に泊まっていくとよい」
「おお、やったなアルヴァ。 旨いメシと豪華な部屋を楽しめるぜ」
リーウェンのその言動にルクストは眉をひそめていたが、王は特に気にする事なく言葉を続ける。
「アルヴァとやらは記憶喪失と聞いた。 そんな身で娘が迷惑をかけたな。
そのバレド流と、ザスディーンという名の戦士についても調べておくように城の者に伝えておこう。
今夜はゆっくりと旅の疲れを癒してくれ」
その時の王の表情からは先ほどまでの厳格な雰囲気を消え、
娘が無事に帰ってきた事の安堵と、アルヴァ達の感謝の気持ちが感じ取れた。
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