第九節:剣術が冴え渡る青年
「さあ! ついに今年もこの日がやってきました! ハールイス闘技大会‼
この第六十四回大会の為に八十四名の猛者達が集まった!
はたして、優勝という栄光と賞金三万ジルを手にするのは誰だ⁉」
観客席を埋め尽くした大きな闘技場。
すべての観客の注目が集まる舞台の中心に立った大会進行者の声が会場内に響き渡る。
歓声にも負けずに響くその声は、魔法によって拡張されたものだろう。
「では、そろそろ始めようではないか! 選手は準備を始めてくれ‼」
より一層高まる歓声の中、大会が開始された。
流れるように試合が繰り広げられる中、アルヴァの1回戦が始まる。
対戦相手は、アルヴァと同じく旅の剣士。
素早い動きで左右に動きながらその手に持った細身の剣で鋭い突きを休む事なく繰り出す。
「たぁーっ‼」
だが、アルヴァはそのすべてを躱し、一振りで敵の剣を折ってみせた。
折られた対戦相手の剣の刃が地面に落ちる金属音が、会場の歓声によってかき消される。
「それまで! 勝者、アルヴァ!」
続く2回戦。
試合が開始すると早々に距離をとった対戦相手は、その手にもった弓でアルヴァへ向かって矢を放つ。
相手の視線を読んだアルヴァはその矢を躱す事なく、刀で撃ち落とす。
相手は矢を放ち続けるが、アルヴァは放たれた矢のすべてを同じように刀で撃ち落とし、相手との距離を詰める。
いよいよ、目前まで接近してきたアルヴァに対して、相手は腰の短剣を抜こうとしたが、それよりも速くアルヴァは刀の剣先を相手の喉元へと向けて相手の動きを止めた。
「それまでっ! 勝者、アルヴァーッ‼」
揺れるような歓声が響き渡る。
「またもや初出場の旅の剣士アルヴァ、圧倒的な強さで勝利! 珍しい剣、刀を振るい強敵達を寄せ付けない!」
2回戦が終わり、アルヴァが控え室に戻るとアサラが待っていた。
結局、大会出場者の中にあの銀髪の女性はいなかったので、アサラには観客や会場の周囲の群衆の中に彼女の姿がいないか探してもらっていた。
「おつかれっ! いやー、やっぱり強いねアルヴァは」
「それで、あの女はいたか?」
「残念だけどいないみたいねー」
現状、収穫はなし。
そうなると、この大会の目的は賞金による旅の資金調達と、アルヴァの使う剣術を知っている人物を探すふたつになる。
アルヴァがそんな事を思っていると控室の方にもよく聴こえるほどの会場の歓声が大きくなってきた。
「あ、見てよアルヴァ。あれが前回、前々回大会チャンピオンのリーウェンよ」
大会の係員に誘導されて控え室を後にするひとりの男を、アサラが指した。
シード枠で2回戦から試合を開始するその男はアルヴァと同じくらいの歳頃の男性。
だが、その手には武器はなく、腕に鉄の籠手をつけている以外に防具のない軽装で舞台へ向かっていた。
噂のチャンピオンの戦いに興味を持ったアルヴァとアサラは選手入場口近くにある小窓から試合の様子を覗き込んだ。
対戦相手は、リーウェンと呼ばれた軽装のチャンピオンとは対照的に、大きな盾で身を守りつつ戦う鎧の戦士だった。
「てあーっ‼」
試合が始まるとチャンピオンはまるで獣のような素早い動きで相手の剣士を翻弄しながら、鉄の籠手をつけた拳の連打でまず相手の盾を、そして鎧を砕き、最後には鞭のようにしなる蹴りで相手の手に持った剣を場外まで弾き飛ばした。
「それまでっ! 勝者リーウェン‼
さすがはV2チャンピオン! 今年も優勝はいただきかぁ⁉」
会場に響く歓声にチャンピオンが腕を上げて応えると、より歓声は大きくなる。
彼が、この闘技場でこれまで築いてきた人気の高さがよくわかる。
よく見ると涙を流して喜んでいる女性までもがいる。
「うわ~、強~い! アルヴァ! 負けないでね‼」
他人事だと思って、アルヴァの隣でアサラは観客同様に楽しんでいた。
「ああ。 観客席で俺の剣術を知っている奴がいたら、教えてくれよ」
「わかってるって! その代わり、賞金は山分けだからね!」
「山分けはなしじゃなかったっけ?」
たしかに、チャンピオンの強さは噂以上だった。
しかしなぜか、アルヴァには負ける気がしない、妙な自信があった。
その後も続く大会の中で、刀を振るいながらアルヴァは不思議な感覚を抱いていた。
こうして刀を握り、鍛錬を続けていた日々、誰かと共に互いを高め合った記憶、誰かと戦った記憶、そんなものを思い出せそうな気がしていたのだ。
アルヴァはそんな感覚を覚えながら、午後を過ぎてしばらくした頃、準決勝戦を難なく勝利した。
「それまでっ! 勝者、アルヴァ‼
旅の剣士アルヴァ! 試合を重ねる度にその剣術がさらに冴えわたり、初出場にしてついに決勝進出だーっ‼」
気づけば、会場のアルヴァを称える声はチャンピオンのリーウェンとも遜色がないほど、大きくなっていた。
「すごいじゃん、アルヴァ!」
控室に戻ると、アサラがちょうどやってきたところだった。
また屋台で何か食べてきたのか香辛料の香りがするので、アルヴァやその剣術の事を知る人物を探す事は忘れていないだろうかと、アルヴァは心配になる。
「次はいよいよ決勝だね!
やっぱり、あのV2のリーウェンって人が相手かな」
「いや、どうだろうな」
「え?」
たしかに、あのリーウェンの格闘術は人並外れたものがあった。
だがアルヴァは控室にいる間、ひとり異質な気配を感じさせる男の存在に気づいていた。
それが、チャンピオン リーウェンの準決勝戦の対戦相手だった。
試合途中からアルヴァもアサラと共にその試合の様子を覗く。
「すさまじい攻防! かつて、これほどまでにリーウェンと互角の戦いを繰り広げた者がいただろうか⁉」
歓声に包まれる中、大会進行者による実況が試合をさらに盛り上げるもうひとつの準決勝戦は今まさに、前回チャンピオンのリーウェンが全身を甲冑で覆った剣士を相手に戦っていた。
アルヴァが異質な気配を感じていたその剣士の顔は鉄仮面で隠され、表情は伺えない。
剣士は、控室にいる間も、決して仮面や甲冑を脱ごうとはしなかった。
リーウェンの獣の如き素早く荒々しい拳の連打をその剣士は妙に柔軟な動きで受け流し、甲冑を着ているとは思えない鋭い動きで剣を振るう。
「おらぁっ‼」
前蹴りで剣士の体勢を崩したリーウェンは追撃をかけた。
しかしその瞬間、体制を崩したはずの剣士の振るった一撃がリーウェンの胸元を捉えた。
「そ・・・それまで! 勝者ジャソール‼」
膝をつくチャンピオンの姿を見て、大会進行者の声と同時に会場内では歓声と落胆の声が響く。
「なんとリーウェン敗れた!
決勝戦は共に初出場! 共に剣士! 旅の剣士アルヴァ 対 鉄仮面の剣士ジャソールに決まった~‼」
アルヴァには、リーウェンに一撃を与えたその剣を持った剣士の腕が伸びたように見えた。
「なんだ、今の動き・・・。例のフルシーラの兵士か?」
「あんな人、フルシーラ兵にいたっけ・・・?」
アルヴァの隣にいたアサラがそんな独り言を呟いていた。
「え?」
「あ・・・、何でもない! 決勝がんばってね!」
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