第八節:大会に出場する青年
一度港町に戻ったアルヴァは、この三カ月間世話になっていた町長達に別れを告げた後、アサラと共に旅に出た。
アサラがアルヴァに教えた場所は北東の町ハールイスだった。
旅立ったふたりは、何度か森や山を越え、やがてその目的地へと到着する。
その町では毎年、闘技大会が開催されおり、今まさにその時期を迎えていた。
「ここがハールイス・・・。ずいぶんと盛り上がっているな」
屋台が並び、多くの人々が行き交う町の様子にアルヴァは驚いた。
町全体が、その活気に満ち溢れていた。
アルヴァの隣にいるアサラはすでにいくつもの屋台を覗き、気づけばその右手には串焼き、左手には飴を持っていた。
「闘技大会がいよいよ今週末開催されるからね、この町で一番のお祭りってわけね。
魔物達が増えた今、強い人には前よりも注目が集まってるんじゃない?」
町中に至るところに張られた広告のひとつに目をつける。
そこには勇ましい男達の姿が描かれ、闘技大会の出場者を集う内容が記されていた。
「剣、槍、弓、魔法、格闘術、あらゆる戦いの技で最強を決める大会・・・か。
なるほど。そこなら俺の剣術を知っている人もいるかもしれないってわけだな」
「私も一度、来てみたかったんだ! なんでも去年の優勝者が凄く強い人らしくてね。
去年もその前の大会も、剣も魔法も使わずにその華麗な体術で優勝して大会を二連覇したものだから、今年はその三連覇を防ごうとする、さらに凄腕の戦士達が集まるって話よ!
そこならきっとアルヴァを知っている人も見つかるわよ!
まだ大会出場選手受付中みたいだからもしかしたら、あの女の人も出場しているかも!」
「それなら、俺も出場した方がいいのかな。 アサラはどうする?」
「ふふふ・・・。私が本気を出したら、優勝しちゃうわよ? アルヴァ、初戦で私と当たったらどうする?
あ、賞金は山分けとかなしだからね?」
「おや、あんた達も今回の大会に出るのかい?
どうだい? ハールイス名物、勝利の肉まんじゅう! これを食べたらもう入賞間違いなしよ!」
アルヴァ達が大会出場について話していると、すぐ目の前の屋台の女店主が話に割って入り注文もしていないのに蒸籠から饅頭を取り出すと、アルヴァ達の前に突き出した。
食欲を誘う甘い香りがアルヴァ達の嗅覚を刺激する。
「わーっ! 食べる食べる! おばさん! ひとつ、ちょうだい!」
アサラは子どものようにはしゃぎ、銅貨を女店主へ渡すと満面の笑みでその饅頭を頬張った。
いつの間にか両手にあった串焼きと飴は姿を消している。
「お前、さっきからずいぶん食べてるな」
「私、こういうお祭りって初めてなんだ! もう楽しくって楽しくって!」
「そういや俺も・・・、初めてかもしれないな」
少なくとも、アルヴァにとって記憶を失ってから『祭り』というものは初めてだった。
あるいは、記憶を失う以前からこのように活気に満ち溢れた町に来た事もなかったかもしれない。
「お客さん達は剣術使いに、魔法使いかい?
今回はあのチャンピオン、リーウェンだけでなく、フルシーラ王都の兵士も何人か出場するから、きっと盛り上がりますよ! ぜひ一緒に大会を盛り上げてくださいね!」
女店主のその話を聴いたアサラが突然、顔をこわばらせた。
「やっぱやめた!」
「え?」
「アルヴァ、やっぱりひとりで参加して。私は観戦しているよ」
短い付き合いだが、アルヴァはすでにこの少女が結構な『自分勝手』な性格をしている事は理解していた。
この町に来る道中も、何度か彼女の気分で経路を変えたものだ。
「お前、さっきの自信はどうした」
「まあまあ、今回はアルヴァに譲ってあげるよ!」
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