第七節:酒場で待ち合わせる青年

 アルヴァは待ち合わせをした酒場に到着するとその姿を見つける。

先ほど、泥棒の男と共に戦った魔法使いの少女だ。

手をふった少女の方へ向かったアルヴァは、少女の座っていたテーブルにつく。

すると、少女はすぐに酒場の給仕に声をかけてアルヴァの分の飲み物と料理を注文した。


「そっちの用事は済んだ?」


「ああ、頼まれていた手紙ならさっき届けてきた。 悪いな、おごってもらって」


「このくらい安いものよ。今更だけど、突然の事なのに私のペンダント取り返すの手伝ってくれてありがとう。このペンダント、私の母の形見なの」


 そう言いながら、胸元からペンダントを取り出す。

よく見れば、決して派手ではないものの高級感と気品さを感じさせる装飾をしたペンダントだ。

泥棒に狙われたのも理解できる。


「よかったな、取り戻せて」


「えっと・・・、アルヴァ・・・さん? だっけ?」


「いいよ、アルヴァで」


 おそらく歳下であろう少女だが、アルヴァともそれほど歳が離れているようには見えない。

もっとも、アルヴァは自分の年齢も今は忘れてしまっているのだが。


「私はアサラ。 旅の魔法使いよ。 君、なかなかの剣の腕前ね。 どこで習ったの?」


「いや、わからないんだ。 何も覚えていなくて・・・」


「さっきの話・・・、記憶をなくしているって本当なのね」


「ああ。さっき逢ったあいつ、何も教えてくれずに消えちまった。 他に手がかりといったら、これくらいかな?」


 そう言って、アルヴァは腰に下げた武器をテーブルの上に置いた。

先ほどの泥棒との戦いで、アルヴァはこの武器を使う事で鉄の鎖を軽々と斬る事ができた。


「あ、さっきの泥棒が持っていた刀ね。 もらってきたの?」


「カタナ?」


「その剣、刀っていうのよ。普通の剣とは製法の違う珍しい剣だから使い手はなかなかいないはずだけど 」


 刀・・・。

アルヴァにとって記憶を失ってから初めて聴いた言葉だが、妙に聴きなれた響きだった。


「刀か・・・。なんだか妙にしっくりくるんだ。

たぶん、記憶を失う前の俺は、刀を使っていたどこかの剣士だったんだと思う」


「それって重要な手がかりじゃない? 刀を使う剣術を探せば君を知っている人も見つかるんじゃないかな」


 あの女性が姿を消した事で記憶の手がかりが消えたと思い落ち込んでいたアルヴァだが、たしかに刀を使っていたという曖昧な手がかりよりも、その剣術を探した方がより手がかりに近づけるのではないだろうか。

そう思えば、手がかりとしては期待の薄かった刀の存在も大きな手がかりになるかもしれない。


「どこかに詳しい人はいないかな?」


「それなら、ちょうどいい場所があるわよ。 良かったら一緒に行きましょう。

その代わり・・・、君の記憶が戻るまでで構わないわ。私の旅の護衛をしない?」

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