第五節:泥棒と戦う青年

「待って‼ ・・・いた! 隠れて!」


 道中、走り去る男を見かけた人から話を聞きながら、町のはずれの森の中へと進むと、アルヴァ達は男を見つけた。

草むらに隠れてその姿を覗くと、男はひとり盗品の品定めをしているようだった。


「あの嬢ちゃんめ、なかなか立派な首飾りを持っていやがる。この装飾は・・・、売ればなかなかの額になるなぁ!

・・・うん? この紋章は・・・、おい、こりゃもしかして!」


「汚い手で触るな!」


 自分で隠れるように言っておきながら、自身の所持品を手に持っている男を見た途端、早々に少女は飛び出した。

アルヴァも頭を抱えながら、草むらから姿を出す。


「げっ!さっきの嬢ちゃん‼」


「もう逃がさないわよ! 私のペンダント返せ~‼」


「こんなところまで追いかけてきやがって! さっきは街中だったから手荒な真似は許してやったのによ!

ここなら容赦はしねえぞ! そんなに返してほしかったら力ずくで取り返してみやがれ!!」


男は腰に携えた変わった形の剣を抜き、その刃を向けて襲いかかってきた。


「ちょっと何よ⁉ 女の子にそんな物騒なもの向けるわけ⁉」


「はっ!」


 咄嗟に間に入ったアルヴァも剣を抜いて、少女を守るように男の剣を受け止めて鍔迫り合いとなる。


「なんだ、てめぇ⁉」


「いや、なりゆきで」


 力強く剣を振るう男の剣を、アルヴァはすべて受け流す。

ぶつかり合う金属音が木々に反射して森に鳴り響いた。


「おいおいやるじゃねぇか、兄ちゃん。 どこの剣士だ?」


 アルヴァ自身も驚いていた。

そういえば、港町でも魔物と戦う事はあっても、真剣同士の対人勝負なんてした事がない。

それにも関わらず、身体が相手の剣の動きにしっかりと対応できている。

自分は、どこかで相当な鍛錬を積んでいたのだろうか・・・?


「そのまま、そいつの動きを止めておいて!

我が魔力よ、炎となれ! サギッタ デ フラムマ‼ 」


 少女がそう呪文を唱えると、少女の持つ杖の先から炎が矢のように放たれて男の身体に直撃した。


「あちちっ‼うあっちぃっ‼」


「炎の魔法・・・」


 少女の放った炎の魔法は鮮やかに素早く、正確だった。


「はははっ! さあ、黒コゲにされたくなければ私のペンダントを返しなさい!」 


 服についた火を地面に転がりながら消している男を見下ろすかのように少女は勝ち誇った笑みを浮かべていた。

もはや、どちらが悪党なのかわからない。


「何てことしやがる! ・・・なら、これでどうだ⁉」


 男は、手に持っていた剣を地面へ投げ捨てて、両袖から別の武器を取り出した。

先端に重しのついた長い鎖を両手それぞれに持つと、ブンブンと振り回しアルヴァ達を牽制し始める。


「鎖のムチ・・!?」


「おらぁっ‼」


「ぐうっ!」


 先ほどとは、間合いも構えもまるで違う戦法をとる男の攻撃を受け流しきれずに、

アルヴァは伸びるように迫る敵の攻撃を受け後ずさる。


「我が魔力よ、炎となり・・・、きゃあっ!」


 再び魔法による攻撃を放とうとした少女の動きも、男は離れた場所から鎖を伸ばして妨害する。

アルヴァはなんとか間合いを詰めようとするも、男の両手で回転する2本の鎖の動きがそれを妨害する。


「くそっ! これじゃ近づけない!」


「なによ! そんなに腕が立つなら用心棒でもして稼ぎなさいよ!」


「うるせぇ! こちとら魔物にアジトを追い出されて手下共にまで逃げられた悲しい山賊さんだぞ!

魔物が増えたせいで旅人や行商人の減ったこのご時世、このくらいの盗み許してくれてもいいじゃねえか!」


「救いようがないわね・・・」


「おらっ‼」 


「くっ!」


 男の鎖による攻撃を受け流しきれずに、アルヴァは手に持った剣を弾き落とされてしまった。

やはり、剣での戦いそのものに慣れている感覚があっても、アルヴァには使っている剣そのものに何かの違和感があった。

そんな時、アルヴァの目にあるものが目についた。


「あれは・・・」


 それは、先ほど男が投げ捨てた剣だった。

先ほど男が抜いた時も思ったが、変わった剣だった。

刃は片刃、その形は緩やかな反りがついており、そして鍔や柄もまた独特の形をしている。

吸い寄せられるように手にしたそれは、アルヴァがこれまで手にしていた剣に抱いていた違和感を消し去った。


「なんだこれ、握りやすい・・・」


「ちょっと君! ボーッとしてないで!」


 少女の声に気づかされると、男の鎖による攻撃がアルヴァの顔をめがけて寸前まで迫っていた。

だが、その攻撃も今はすでにアルヴァには何の脅威も感じなかった。


「はっ‼」


 迫りくる2本の鎖は、その剣を手にしたアルヴァによる一振りの斬撃によって切り裂かれ、バラバラと地面に転がる。


「なっ・・・なにぃっ⁉」


「鎖を斬った?・・・チャンス!」


 武器を失い丸腰となった男に対して魔法を放とうと杖を向けた少女の動きを見た男は、急いで両手を上げ、

その場に両膝をつく。


「わーっ!待った待った! もう魔法はやめてくれ! わかった! 降参だ! 俺の負けだ!

あんたの宝物は返すから! ほら!」


 男はそうして、懐からペンダントを取り出すと前に出した両手で少女の方へ見えるようにそれを返す。

少女は警戒しながら、ペンダントを受け取るとやがて安堵したようにそれを抱きしめた。


「よかった。 壊れてない・・・」


「じゃ・・・、まぁそういう事なんで・・・さよならっ!」


 男が走って逃げだしたその時、この騒動に気がついてやってきたのだろうか、走り出した男の目の前にひとりの女性が立っていた。


 女性の視線は、アルヴァにあった。


「何だてめえは⁉ どけっ!」


 先ほど、アルヴァを押しのけたように女性をどかして男は走り去ろうとしたが、そうはならなかった。


「うるさい・・・!」


 自身に触れようとする男に、そう冷たく言い放った女性の手から何かが光ると・・・、


「ぎゃああああああああっ‼ 」


 その絶叫と共に男の身体から血しぶきが噴き出し、男の身体は真っ二つとなった。

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