第二節:別れを告げる青年

 夜道の中、そのふたりはいた。


「私は・・・、お前とは行けない」


 暗闇の中でもよくわかる美しい銀色の長い髪と真紅の瞳を持った、白い肌の女性は『彼』に向かいそう言った。


「そうか」


「やはり考え直せ! あの御方に逆らえればお前は・・・!」


「それでも俺は・・・、あんな命令にだけは従えない!」


「私との誓いは・・・、どうなるんだ⁉」


「それなら俺達の誓いは、なんの為だったんだよ⁉」


「だけど・・・、それはっ・・・!」


 『彼』との別れに納得ができないその女性は目に涙を浮かべていたが、『彼』はその姿から目を背けるように道の先へ歩き始めた。


「もう俺にかまうな・・・。これは、お前には関係ない。これは俺が、俺だけでやる。だからお前は・・・、ここに残って俺との誓いを果たしてくれ」


「アルヴァ! お前は・・・、死ぬ気なのか・・・?」


「・・・じゃあな」


「アルヴァッ・・・!」


 女性のその先の言葉はもう、『彼』・・・、アルヴァには届かなかった。


 アルヴァには、わかっていた。

これは夢だ。

もう何度も見た夢。銀色の長い髪と真紅の瞳を持った、白い肌のその女性に別れを告げる夢。

名前も思い出せないその女性。

アルヴァには、わからなかった。

あの女性が誰なのか、なぜ自分はあの女性に別れを告げたのか。

その夢が本当にあった出来事なのか。

そして・・・。


「誰なんだ、あの女は・・・。何で俺は、あの夢を何度も見るんだ?

俺は・・・、なんだっていうんだ?」


 夢から覚めたベッドの上で、アルヴァはそう呟いた。


 三ヶ月前、港町に傷ついた姿で流れ着いた青年アルヴァは自分の名前以外の記憶を全て失っていた。

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