第三節:魔物を駆除する青年

 その港町に流れ着いた記憶喪失の青年アルヴァは、剣を振るい町の周囲に生息する魔物を駆除していた。

一度は治癒魔法をかけた神父も諦めかけていたほどの重症を負っていたアルヴァは、驚異的な生命力で傷を癒し、半月もしない内に歩けるようになるまでに回復し今では剣を借りて町の畑を荒らす魔物の駆除を手伝っていた。


「はっ‼ やぁーっ‼」


 子犬程度なら丸呑みしてしまいそうな大きさの蛙の姿をした魔物が、アルヴァの剣によって胴体を切り裂かれ断末魔を上げながら力尽きた。

周囲にもう魔物がいない事を確認したアルヴァは、緊張を緩めた。


「ふぅ・・・。とりあえず、このあたりはこんなものか」


 アルヴァが流れ着いた時のその身なりと港町では見かけない白い肌からどこか遠くの地に仕える戦士と推測されたが、武器は失っており身分を証明するような所持品もなかった。

 実際に町の衛士から剣を借りて魔物と戦ってみれば、このように蛙や蝶の姿をした弱い魔物ならばたやすく倒す事ができた。

しかし、アルヴァには妙な違和感があった。


「うーん・・・、何かが違うな・・・。なんだろうな、この感覚」


 素振りをしながら、自分の手に馴染まないその剣にアルヴァは違和感を覚えていた。

剣を振るい、魔物を切り裂く感覚。

それ自体は記憶のないアルヴァにも、その体に憶えがあるような気はしていた。

だが同時に、体が憶えたその感覚と、なんらかの違いがあった。

もしかしたら、自分が使っていた武器は剣ではなかったのかもしれない。

剣以外の切り裂く武器。短剣か、斧か、あるいは別の・・・。


「おーい、アルヴァ君」


 アルヴァが悩みながら駆除した魔物の死骸を片付けていると、離れた場所から杖をついた老人が近づきながら

こちらに声をかけてきた。


「町長さん、おはようございます」


 その老人に気づいたアルヴァは、老人へ近づいた。

それは、この港町にアルヴァが流れ着いてから3カ月間、記憶も身寄りもないアルヴァを自宅に寄宿させてくれている町長だった。


「朝からすまないね、おかげで安心してこのあたりを歩けるよ。

体の具合はどうだい?無理はしていないかい?」


「なんともありません。むしろ、こうやって動いている方が体の調子が良いというか・・・。

ただ・・・」


「記憶の方は相変わらずか・・・。

うん。どうだろうか、アルヴァ君。北の町へ行ってみないか?」


「北の町・・・、ですか?」


 北の町と言われてもアルヴァには、いまひとつイメージが浮かばなかった。

記憶を失って以降、この港町以外の町に行った事がなかったからだ。


「北の町サレネスにいるわしの娘に手紙を届けてほしいんじゃよ。こんなご時世だ、腕の立つ君になら任せられる。

神父さんからも何かがきっかけで記憶を取り戻すかもしれないと言われているだろう?そのきっかけを別の町で探してみるのも悪くないだろう。どうじゃ? やってくれるかの?」


 アルヴァは世話になっている町長の頼みなら可能な限り、応えたかった。

それに、いつまでも記憶が戻らない事にアルヴァも不安があった。

そんなアルヴァにとって、それは良い機会だった。


「いいですよ、お世話になりっぱなしですから

俺もちょうど町の外には出てみたいと思っていましたし」


「ありがとう、それではよろしく頼むよ。くれぐれも気をつけて」


 町長から手紙を預かったアルヴァは旅の支度をして港町より北へ向かった。

道中、ゼリー状の魔物や、馬よりも大きなサソリの魔物などにも襲われたがアルヴァはなんなく退け、借りた地図を頼りに進み、たまに脚を止めては太陽が照らす草花に覆われた景色を眺める事に妙な喜びを感じながら、やがて北の町サレネスへと辿り着いた。

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