復讐の狂門18 『名誉決闘②』
ただ、ヴォルゼイオス本人はそんな事態に興味も示さずズィクト一行の元へと迫ったのだが。
「ズィクト・スパーダ。オレに付いてこい」
「……唐突だな。でも、君の態度には慣れてきたよ」そう口にしてから少し間をあけて続けた。
「悪いが既に22時を過ぎているから
面倒だと感じながらも相手は魔法貴族。それ相応の対応はしたつもりだった。貴族への態度が酷いなどという理由で今よりも悪目立ちするのは勘弁だ。
「怖いのか?」
「恐怖心があるのは認めるが」
余裕を見せて肩をすくめたが、実際は二度と寮を出たくない気分だった。とは言え、ヴォルゼイオスの瞳にはズィクトが適当なことを言っているようにしか映らなかったようで、不機嫌そうに表情を歪めた。
それから僅かに逡巡して、
「恐怖心がある……か。確かに——昨夜、
「——なに?」
ズィクトが——いや、テーブルを囲う皆んなが各自反応した。それからいの一番に問い質したのはローズリアだ。
「ゼイオス。貴方何を知っていますの?」
「おいおい、オレたち
彼は思いの外ローズリアには優しく笑みを浮かべていた。それが意外で一瞬だけ別のことを考えてしまったが、まだヴォルゼイオスは肝心なことを吐いていない。
「質問に答えろ、ヴォルゼイオス・ウルガータ。君には魔法貴族として答えなければならない義務があるはずだ。そうでなくては名が廃るだろう」
ズィクトが鋭く言い放つ。
好意的な笑みを引っ込めたヴォルゼイオスが再度ズィクトに向き直った。
「そんな顔してるって言っただけだ。……でも、そうだな。オレに付いてきたら——わかるかもしれないぜ?」
頑として譲らない。そんな雰囲気の彼を見つめてリリィが「どーするの?」と小さく聞いたきた。
返答は決まっている——ズィクトが心中で呟いて、宣言する。
「行くと思うか? 寮の外は魔道に狂った
「その点は心配しなくていい。少なくともオレから離れなければ、な」
「信用できないな。せめてその根拠を説明してくれ」
「……」
ヴォルゼイオスは口を開くことなく、ただ選択を委ねるような視線をズィクトに送るだけだった。
虚偽を言っている風には見えない。けれど彼がもたらした情報は、信用するにはあまりにお粗末なのも確か。
ルーデウッドの一件に関わっているのなら出来る限り要求に従って、真実を教えてもらう必要があるが——
「
少女がエメラルドの瞳を煌めかせた。
「それが条件なら受け入れよう。ただしあくまでもオレが求めているのはズィクト・スパーダだ。邪魔はするなよ?」
「それは貴方次第ですわ。もし貴方がめちゃくちゃするのでしたら私にも考えがあります」
大袈裟に腕を組んだローズリアはそれだけは絶対に譲れないと決意を固めている。
それに水を差すように少年が早口で言った。
「いや待て。俺はまだなにも答えてないぞ」
「大丈夫ですわズィクトさん。少なくともゼイオスは嘘をついておりません——それにあの話の真相を知りたくはないのですか?」
「……」
はぁ、とズィクトは疲れたと言わんばかりに頭を抱えた。
確かにローズリアの言う通りだった。またルーデウッドにエクスティンが攫われたら今度こそ終わりだ。ああいう頭のネジが飛んでる人は“バレなければイイ”の精神で日夜行動しているから午前中でも油断ならない。
できれば——というか絶対にこの問題を解決しておきたいのは紛れもない本心だった。
「わかった。わかったよ。ただし途中で身の危険を感じたら戻るからな」
「そうですわね。それは私も賛成ですわ」
二人の中で方針が決まるとぴょいと華奢な腕があがる。
「リリィちゃんも行きたい」
「え、えぇ!? 行っちゃうんですか!?」
好奇心旺盛な少女と、その隣で何やら冷や汗を垂らしている少年。真反対の二人が、これまた真反対の反応を示していた。
「リリィも……?」
「私は構いませんけど……」少女が確認の意味を込めてヴォルゼイオスに目を向けた。
「問題ない。今さらひとりふたり増えても関係ないしな」
「だそうですが」
「やった〜!」
と親指を立てた彼女の影に俯いている少年がいた。
それに気づいてズィクトが提案する。
「スティン。君にはここで待っていてほしい」
「え、な、なんで……!?」
彼は勢いよく顔をあげると叫んだ。恐らく足手まといだとでも告げられた気分だったはずだ。
実際その通りなのだが、それを馬鹿正直に伝えるわけもなく——予め用意していた言葉で返した。
「いいか、よく聞いてくれ。俺達はどこに行くのかも知らされていない。わかっているのは向かう先が無法地帯であることだけなんだ」
「だから……」とズィクトは続ける。
「もし、もし仮に明日の朝になっても俺達が戻らなかったらロイマス・ランパスヘイム監督生にこのことを伝えてくれ。それが君の仕事だ、他の誰かじゃ信頼に足らないからな」
「でも——っ!」
本当に僕だけ安全地帯にこもっていていいのか? 友達が命を懸けて僕の安全を優先してくれているのに? 本当にいいの?
そんな不安や恐怖が混ざり合った考えを脳内でぐるぐるくと回しながらエクスティンは——小さく頷いた。
「は、はい……! あ、ああの……気をつけてください」
「ありがとう。でももしもの事を伝えただけで今言ったようになることは少ないからな、大丈夫だよ」
今にも泣き出しそうな声音に少年が優しく微笑んだ。
そうして彼らは安全地帯である
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