復讐の狂門17 『名誉決闘』
エクスティンとルーデウッドの一件が片付いた次の日のこと。
そこで交わされているのは当然、エクスティンの身に起きた「例の出来事」だった。
「——これが昨夜の顛末だ」ズィクトが「ふぅ」と一息吐いた。
それからすぐにぷるぷると震え出した少女が一声。
「なにをしているのですかスティンさん!」
「あ、あはははは……ごめんなさい」
重い雰囲気を醸し出している少年が上半身を倒し机に身を置いた。それにローズリアが「まったく」と腕を組みながら言う。
「ズィクトさんが『話が長くなるから全ての講義が終わった後で』とおっしゃっていたのでまさかとは考えていましたが……」
「まぁまぁ〜リアちゃん。あまり怒りすぎたら髪の毛抜けちゃうよ?」
「喧嘩売ってますのリリィ?」
マイペースに笑った桃色の少女に「笑い事ではないですわ!」と昂ぶるローズリア、そしてそれを苦笑いを浮かべ眺めるズィクト。
いつも通りの“当たり前”の光景。だけど、とエクスティンの拳が強く握られる。
入学して短いのにこの光景をこんなにも特別に思う日が来るなんて思わなかった。
命の危機に瀕してしまった故か少年はただ素直にそう思ったのだ。
「スティンさん。これで最後にしますが、ズィクトさんには本当に感謝するのですわよ? もし彼が本気で貴方を探していなかったら——今頃死んでいたのですから」
まるで聞き分けの悪い子供に対し必死になって言い聞かせる母親のようだった。けれどエクスティンは聞き分けが良いようで、彼女の言葉の通りだと頷いた。
少年のしんみりとした空気を感じ取って動いたのは——やはりリリィだ。どうやら彼女はこういう雰囲気が苦手らしい。
「そーだよスティ君。次からは気をつけなさい」先まで庇っていたはずの少女が冗談めかしながら可愛らしく人差し指を立ててエクスティンを咎めた。
「貴女は誰の味方なんですの!?」
「
変わらぬ二人を尻目にエクスティンがズィクトへ体を向けた。
それから緊張した面持ちで、
「ズィクト君。昨日も言ったけど、もう一度お礼を言わせてください」
「本当にありがとうございます……!」
数秒にわたる礼を見てからズィクトが少年の肩に手を置いた。
「いいんだよ。幸い君に外傷はない。今回のことは一つの経験だと割り切ろう」
「は、はい……」
わかりやすく胸を撫で下ろした姿に「精神的ショックは少ない」と判断する。
それから明るく口を開いた。
「それに悪いことばかりではなかった」
「それって……」
ローズリアが頬をつまんでいる手をそのままにズィクトへ翡翠色の瞳を送る。
「たぶん君の考えてることであってるよ」
「ということは——ロイマス・ランパスへイム監督生ですわね?」
「ああ。彼と出会えたのは幸運だった。名前も聞かれたから多少は興味を持たれただろうしな」
いや、あの性格だ。相手を問わず隔てなく名は伺うのかもしれないが——ズィクトが内心で付け加えた。
「まさかあんな生徒がいるなんて信じられなかったよ。呪文自体はあまり唱えていなかったが……それ以外では化け物なのは理解できた」
「それ以外ってなんですか?」エクスティンが問う。
脳裏をよぎったのは犬を超えた嗅覚を持って歩き進むロイマスの姿。
間違いなく人間業ではなかった。
「簡単に説明すれば人間としてのすべての機能が高いんだ。別種の生き物とでも認識してればいいよ」
「ああ、そういえば
逆になぜ君は知っている?
そう訊ねようとして彼女が魔法貴族であることを思い出した。なるほど確かに魔法貴族ならウルテイオの情報が流れ込んでくるだろう、納得だ。
会話に追いつけないエクスティンが「あの〜」と恐る恐る手を挙げた。
「その魔人ってなんですか?」
「ふっふっふっ! それは魔法界きっての天才美少女博士のリリィちゃんが解説してあげようじゃないか」
まさかの告白に仰天した彼は叫ぶように椅子から立ち上がった。
「そ、そうだったんですか!?」
「自称ですわ」
「へ——?」
騙したんですか? とリリィへ視線を向けた少年だが……
「あ、ズィー君。今度私にも先輩のこと紹介してよ」
「構わないが……別に親しいわけではないぞ? そもそも俺が気軽に会える相手じゃない」
「完全になかったことになってるんですけど!?」
そんなツッコミも虚しく、今の話はなくなった——否、正確には先送りになった。
その原因はザワザワと騒ぎ始めた
その正体は、
「あれは——ヴォルゼイオス・ウルガータ?」
過去に格闘魔法訓練にてズィクトと対峙した
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