復讐の狂門12 『先輩とは』
「まずい……!」ズィクトの額に嫌な汗が滲み出た。
同じ寮に住まう少年がいなくなったのだ。今は何も心配ないが、それも今だけだ。あと少しで、ウルテイオ最悪の時間が訪れる。
そうなれば……
「っ!」
凄惨な光景が脳裏をよぎった。こうなれば致し方ない——リスクはあるが探しに行こう。
と、ズィクトが
「リア、リリィ出てくれ!」
女子寮へ赴いた少年が扉を叩く。もしかしたらスティンはここにいるかも、なんて希望的観測を持ちながら。
幸いにも彼女達はすぐに扉を開けてくれた。
「どうかしたしたの?」
「もうそろそろ22時だよ〜?」
若干ながら訝しげにローズリアが問いかけた。
「スティンを見てないか?」
「スティンさん……?」
緑髪の少女は隣のリリィへと視線を向けた。少し考えるすぶりを見せたリリィは首を振る。
「見てないかなぁ〜」
「そうか……」
「スティンさんがいなくなったのですか?」
「ああ」
手短に答えたズィクトは次に尋ねる場所を考えていた。とは言っても、エクスティンと親交のある者は自分達以外思いつかず。
「少し心配のしすぎですわ」
「む、そうだろうか……?」
まあ確かに、と思うものの。ズィクトにはズィクトの言い分がある。
「だが……普通この時間まで寮に戻らないなんてありえないだろ? しかも俺に黙って」
「言われてみれば……そう、ですわね」
ローズリアが顎に指を添えて何やら考えている。あの時の学長の言葉でも思い出しているのだろうか。
『夜10時以降はそれぞれの寮内を除いて無法地帯となる』
殺人だろうが出歩く者にならば何をしても構わないという悪魔的な校則。特に一年生なんて生まれたばかりのネズミに等しく、よい
それを
彼女の瞳が微かに揺れた。きっと最悪の結末を想像したのだ。
このままではらちが明かない——ズィクトは他寮の生徒に話を聞こうと少女達の前から動き出した。
それを止めるように「もしかしたら……」と口にしたのはリリィだ。
「もしかしたら実験室かも」
「え?」
ローズリアもズィクトも驚いたものだ。リリィの予想に、というよりは彼女の真面目な表情に。
——それよりも……!
少年が今日のエクスティンを振り返る。
いつもと変わらない様子だった、一部を除いて。ここで肝心なのはその一部——つまり、魔法道具実験の時間だった。
ベルトリアに責められた彼は自らを恥じて、悔しそうに俯いていた。それ以降も唯一
——スティンの性格は把握したつもりだった。もしかしたら隠れて練習くらいはするだろうとは考えていたが……まさかこの時間なんて……!
ズィクトが頭を抱えて自省する。
「俺は実験室に向かう。君達は22時を回るまでで構わないから他寮の生徒にスティンのことを聞いておいてくれ」
「わかりました。気をつけて」
「気をつけてね〜」
少年が軽く頷いて走り出した。
目指すのはもちろん実験室だ。
◆
薄暗い実験室で、小柄な少年がモゾモゾと魔法粘土を探していた。本来ならば呪文を使って多少光をあてるがエクスティンはその呪文を知らない。
お陰で何やら関係のない物ばかり手に取ってしまう。
ため息をついたその時、背後から白い輝きが差した。
「?」
少年が「まさか教授?」と恐る恐る振り返る——集中していた彼は気づかなかったが、足音はずっと響いていた——そしてその光の正体を見て、静かに胸を撫で下ろした。
「貴方は……?」
緑の制服を着用している金髪の生徒だった。握られている杖先からは小さな光が灯っている。
「オレはルーデウッド・バサカー! 三年生だ、よろしく後輩!」
「え、え? よ——よろしくお願いします!」
太陽のような明るい笑顔で握手を求める姿はエクスティンが想像していた先輩とはかけ離れていた。彼の脳にこびりついている学長の言葉が、無意識に警戒心を呼び起こしたのだ。
「んで? 何やってんだこんな時間に」
「その……恥ずかしい話ですが、
肝要な雰囲気でポツポツ語り出した少年にルーデウッドは目を点にして——豪快に爆笑した。
相当に面白かったのか彼の目からは涙が出ており、人差し指で拭いながら言う。
「そうかそうか。じゃあ魔法粘土を探してるわけだ」
「そうですけど……もしかしてどこにあるかわかりますか?」
「もちろん知ってるぜ。なんならオレが
「ほ、本当ですか!?」
願ってもない、エクスティンは腰が折れそうになるほど頭を下げた後、魔法粘土を片手に言う。
「今さらですけど勝手に使っても大丈夫ですかね……」
「そんな細いこと気にすんなって! 何かあってもオレが何とかしやっからよ」
そんな言葉もあって少年は粘土を無断に使用することにした。
一方そのころ……
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