復讐の狂門7 『格闘魔法訓練』


「さっきのピーク教授が言ってたことって本当なんでしょうか?」

「なんの話だ?」


 すでに魔法史学は終了して、今は訓練場にて待機している。

 そんな中、エクスティンがうわ言のように呟いた。


禁忌の魔導書グリモワールの事ですよ。……なんというか規格外の力とかいわれても想像つかないっていうか……」

「あぁ——そのことか」


 確かにスティンからすれば馴染みのない単語か——ズィクトがひとり納得した。


禁忌の魔導書グリモワールは全魔法使いの宝ですわ」

「そーそー。今も世界じゅーの魔法使いが血眼になって探してる代物だからねー」


 二人の少女がエクスティンの背後から答える。


「宝……? 余計わからなくなってきたような……」

「まあ俺達もよくわかっていないさ。何せ現在禁忌の魔導書グリモワールを公式に所持している人は誰もいないから……実は学長が隠し持ってるなんて噂はあるけど所詮噂だし」


 と、そこまで話し込んでいるうちに時間が迫っていた。

 生徒達が自然と整列して教授の登場を心待つ。


 ————5分後。


「わりぃな寝てたら遅刻したわ」

「……」「……」「……」


 反省の色を見せない教授に場が静まり返った。それどころか当の彼は「まぁ五分だったらギリセーフだろ」と開き直るしまつ。


 ——不安だ。


 と、二つの寮の心が一致した。


「んじゃま早速やっかー」


 気だるげにうそぶく教授が橙色の髪をかきあげた。


「まずはオマエらの腕っ節を確認する。だから適当に二人一組になれー」


 その言葉の通り、各々が好きな生徒とペアになった。当然ズィクトはエクスティンと、ローズリアはリリィとだ。


「よし、じゃあ次はオマエらの腰にぶら下げてる魔法を放てる剣魔法剣を……と言いたいところだが初日だから木剣を使って打ちあえ」


 訓練場の端の方にはすでに多くの木剣が用意されていた。男子生徒なんかは機嫌を良くして手に取る様子が伺える。


「さて、俺達もはじめるか」

「は、はい。お手柔らかにお願いします!」

「そう硬くなるな。俺も上手いわけじゃない」


 エクスティンがあまりにも礼儀正しく頭を下げるものだから黒髪の少年が苦笑いをこぼした。

 そのまま相手が構えたのを確かめて、こちらも木剣を握りしめる。


「こい——!」

「せりゃぁぁ!」


 雄叫びとともに小柄な少年が剣先を向けて真っ直ぐに走り出す。対するズィクトは少し驚き——紙一重で横へ回避ズレた


「ぐふぅ——ぅ」

「……」


 標的が突如いなくなった事で、少年は混乱して足をつまずかせた。

 想像を超える一連の流れにズィクトは頭を抱えそうになった。尻を突き上げる様にして動かない少年には申し訳ないが——これほどまでに酷い動きだとは予想できなかったのだ。


「大丈夫かスティン?」

「う、うぅ……ありがとうございます」


 仕方なしに手を差し伸べるが、このままではダメだ。


「今の流れでわかったことがある」

「?」

「君はまず基本的な動きができていない。切羽詰まってもないのに相手に向かって無茶に突っ込むとか聞いた事ないぞ?」

「は、はい……」


 などと説教じみた状況になった時、二人の間に声が挟まれた。


「今のはひでぇなおい」

「教授……」


 容赦の無い物言いにエクスティンの肩が震えた。

 それに気づきながらもオレンジ髪の教授は執拗に責め続ける。


「オマエさ向いてないんじゃねぇの? 魔法使い」

「っ!」

「昔とは違う。時代は変化したんだ。今じゃあいくら呪文が使えようと近接戦闘が弱けりゃソイツは三流魔法使いになる」


 俯く少年にあくまでも教える者として口を開く。


「オマエには徹底的に才能がねぇ。呪文の方は知らねぇが……少なくとも近接戦闘の面でいえば最悪だな」

「……」


 ズィクトはあまりにも直接的な物言いに怒りを覚えたものの、その考えを決して否定しなかった。

 構え、目線、心の状態。どれをとっても初心者以下の少年を見て、


 自分もそう思ってしまったから。


 周囲ではわずかな異変に気づいた生徒がチラチラと視線を送りはじめていた。


「それとオマエ」


 今度は俺か——とズィクトが相対する。


「いくら相手が無能ザコでも直ぐに気を抜くな。実戦なら不意をついた別の奴に殺されるぞ」

「はい!」


 「よし」と教授が手を叩いた。


「オマエら集まれ! これから火と風で一対一タイマンしてもらうぞ!」


 あくまでも訓練として、はやくも火の寮ピュロメテウス風の寮ヴュータの衝突が始まろうとしていた。

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