復讐の狂門5 『朝の会話』


 翌朝。

 今日から教授の講義が始まる。最高の魔法使いに一歩でも近づくぞ!

 などと意気込む生徒が過半数を占める新入生一同だが——エクスティンもその例にもれなかった。


「なんだ? 早起きとは随分と気合が入っているなスティン」

「あ、ズィクト君! おはようございます!」

「おはよう——それでどうかしたのか? そんなにニヤニヤして」

「い、いや〜その、実は講義が楽しみで……なんて」

「なんだそれ」


 火の寮ピュロメテウスの中でズィクトとエクスティンは相部屋となっていた。


 これは相部屋となってはじめて迎えた早朝のほんの語らい。

 




「おはようございますお二方」

「おっはー」


 広大な食堂の一角に二人の少女が着席した。

 それを見送ってからズィクトを先頭に二人が返答する。


「おはよう」

「おはようございます!」


 そして、ちょうど四人が集まった時——丸テーブルの上に幾つもの皿が忽然と現れた。

 昨日の今日でまったく慣れないエクスティンが奇異の目を向ける。


「本当に凄いですよねこのテーブル。ご飯が自動で現れ出てくるなんて……」

「テーブルに魔法が組み込まれているんだ——時期に慣れるさ」


 ズィクトの口述に小柄な少年が納得の形相を呈した。


「そ、そうですね……」

「そうですねって、スティンさんは知らなかったのですか!?」

「スティン君無知〜」

「うっ——すみません。両親が非魔法人なものでして」


 そう言って項垂れる少年にローズリアが慌てて切り返した。


「謝る事ではありませんわ!」

「そう、ですかね?」

そーそーほーほーわからないことがあったらリアちゃんに任せなさーい」

「食べながら喋らない。あと勝手にわたくしに任せないでくれます?」


 口いっぱいにパスタを頬張る少女にローズリアが半目に閉じた視線を送った。


「今更だが、リアとリリィ君達はどんな関係なんだ? かなり親しそうだが……」


 そういえば——とズィクトが問う。


「私達の——」

「関係?」


 彼女らは少し考える素振りをすると、一言。


「ただの友達ですわよ?」

「そーそー。だって知り合ったの昨日だもんねー」


「え?」


 と、仲睦まじい様態の二人にエクスティンが瞠目した。


「驚いた、俺はもっと古い仲だとばかり思い込んでいたんだが……」

「その割に驚いてないような……」と小柄な少年が訝しげに首を傾げた。


 実際——ズィクトはかなり驚いていたのだが、それはまた別の話。






 朝食を済ませた彼らはさっそく入学後初めての講義を受けるために移動していた。

 科目は魔法史学。魔法界についてまったく無知であるエクスティンには気が重いことだろう。


 現に彼は、


「あまり気負いすぎるなよ」

「は、はい……」


 教室の端で小柄な少年が硬く頷く。

 それは単に初めての講義だったから——というわけではない。

 

 ズィクトが視線を別の場所へずらした。


「よりによって……だよな」

「まったくですわ。さすがに私も目眩がしましたもの」

「同感だ」


 そう言い合う彼らの話題は相棒パートナーとなる寮のことだった。

 ウルテイオでは五つの寮がある。そして講義はそれぞれ寮がパートナーを組んで挑むのだが……。


「まさか風の寮ヴュータがパートナーだとは……」


 組まされる寮は学年によって違う。人数で決められているからだ。今年は偶然にも火と風だったというだけの事——がしかし、入学初日から風の寮ヴュータ生といざこざを起こした身からすると、


「あー、ズィー君が嫌そうな顔してる〜」

「昨日の今日だからな」


 にひひ——と他人事に笑うリリィを置いて、頬杖をつく。


「?」


 やがて教室の入り口付近から掛け声が近づいているのに気づき——


「おっはよぉー! 一年生皆んなのアイドルッ! ピークちゃん参上だぞっ!」

「……」「……」「……」


 手のひらサイズの女性型精霊が決めポーズとともに登場した。その形姿はさながらアイドル。

 しかしアイドルなのは形姿のみで、生徒お客は誰ひとり熱狂をあげる事なく沈黙した。

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