復讐の狂門4 『学友』


 決闘を終えたズィクトは居心地の悪さを感じていた。

 

「引かれてるな、これは」


 明らかな距離感。ズィクトの周囲にだけ生徒が誰も近づかない異様な光景。

 しかしまあ——それも仕方がない事だと少年は理解していた。


 あの赤髪の少年の命を潰えさせないためとは言え、非人道的な拷問をした。

 だれも俺とは関わりたくないだろう——とズィクトは高を括っていたのだが……


「あ、あの……」

「ん?……君は……?」

「え、エクスティン・プープラ、です」


 完全に浮き上がってしまったズィクトに小柄な少年は恐る恐る呼びかけた。


「ああ、さっきは大丈夫だったか?」

「あっ——さっきはありがとうございましたっ! それで、その……」


 エクスティン——と名乗る少年は例の一件を思い出したように礼を告げるとすぐに口ごもった。そして意を決した赤い瞳を向けてゆっくりとその言葉を伝える。


「あの、その……僕と友達になってください!」

「は——?」


 斜め上の台詞にズィクトは間の抜けた声をこぼしてしまい——正面でぎゅっと目を瞑る少年を見て強張っていた体がほぐれた気がした。


 そうか、君も居心地は悪かったよな。

 そう思えてしまい、気づいた時には「もちろん」と即答していた。


「や、やった……! 僕のことはスティンと呼んでください! そっちの方が呼びやすいと思うので!」

「俺はズィクトでいい。これかららよろしく頼むよ、スティン」

「わかりました! じゃあ——」


 その時、二人の少年に新たな声が向けられた。


わたくし達も混ぜてくれませんこと?」

「まぜてー」


 ハキハキとした物言いの長髪パーマの少女とそれとは全てにおいて真逆の肩まで伸ばされている桃色に色づいた髪の少女が、そこに立っていた。


「君達は……?」


 代表してズィクトが問いかけた。

 最初はじめに返答したのは翡翠ひすいの長髪を持つ少女だ。


「私はローズリア・ペクシーと申します。魔法貴族ペクシー家の人間ではありますが、どうかお気になさらず関わってもらえると幸いです」


 魔法貴族だけあって頭を下げる工程などのひとつひとつの動作に上品さがあった。魔法貴族を初めて見たエクスティンが下を巻くほどだ。

 一方でもう一人は、


「私はね〜、リリィ・フィーベルっていうんだ〜。リリィちゃんって呼んでねぇ〜」


 親しみやすい柔らかな雰囲気に遅口、ローズリアとは似ても似つかない人物だった。

 本来なら警戒するが、悪い人ではない——気がしたのだ。だからズィクトは先と同様に即答した。


「二人ともよろしく頼む。俺達は——」

「もう知っていますわ。だって貴方方すごく目立っていたんですわよ?」

「はぁ、当然だよな……」


 他の生徒達はすでに注目をズィクトから外している。しかし万に一つの事を考え緑髪パーマの少女が声を潜めた。


「ところでなぜあの場で拷問を? 一思いに殺した方が相手のためにもなったと思うのですが……」

「…気を悪くさせただろうか?」


 もしかしてそれを問い詰めることが目的か?

 ズィクトが胸の内で呟いた。


 しかし、


「い、いえ! 純粋に興味が湧いただけですわ」

 

 と、彼女は身振り手振りを含めて明示する。  


「ふむ、そうか——ここだけの話。あの男は忍耐力がないと俺は確信していたんだ」


 だから、と間をあけて、


「入学初日に命を奪うくらいなら多少痛い目にあわせてでも生かすべきだと判断した——それだけだよ」

「えー、ズィー君やさしー」


 リリィが大袈裟に反応した。

 しかし今回ズィクトが気になったのはそっちではなく——


「ズィー君?」


 この世に生まれて十五年。そんなあだ名ニックネームを付けられたのは初めてだった。

 リリィの隣に目をやれば、頭を抱える緑髪パーマの少女が嘆息をひとつ。


「彼女はそうやって気に入った人に愛称をつけるんですの」

「そーそーリアちゃんの言うとーり。だからズィー君もスティン君もこれからよろしくね〜」

「あ、ああ」

「は、はいっ! よろしくお願いします! えっと……リリィちゃんにリアちゃんさん!」


 エクスティンの言辞にリリィが煌びやかに笑う。


「わー、リリィちゃんって呼んでくれる人初めて会ったー。うれしいなぁ〜」

「え!? は、初めて!?」


 エクスティンが騙されたとでも言いたげな表情を作った。

 そこにローズリアが一声する。


「まったく貴方方は——と言いたいところですが、私の名前は少し長いので皆さんはリアとお呼びください」


 が、一転。彼女は少し冗談めかして微笑んだ。 

 状況を理解して——なにそれ、と軽く笑い合う三人。


 こうして学友彼らは出会ったのだ。これから先、苦難を共にするであろう真の仲間と。

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