復讐の狂門2 『残酷な宣告』


 ウルテイオ魔道学校。

 桜舞い散るこの季節、そこにズィクトは入学した。


「最後に校長からの宣告です」


 入学式。

 息を呑む音があちらこちらで聞こえた。

 一般的に校長先生の話は長く、睡眠欲を擽るものなのだろうがウルテイオの校長は別だ。


 この学校の校長は名の馳せた魔法使いで、一年生にとって憧れの的。新入生一同が耳を澄ませるのは自然な事だった。

 拡声呪文によって声が響き渡る。


「校長のジンベルンゲン・フリーだ。まずはウルテイオの教授達を代表して君達を歓迎する、とだけ言っておこう」


 カーテンのような灰髪の糸目男が厳格に告げた。


「回りくどいのは好かない。単刀直入に言おう——今ここにいる生徒たちの過半数が間違いなく卒業までに死ぬ。そして一握りの生徒が栄光の橋を渡るだろう」


 冷酷な言葉に騒めく生徒。しかし教授達がそれを咎めることはない。

 なにせ、


「君達が取り乱す理由は察せられる。しかしウルテイオは秘密主義だ。夜10時以降はそれぞれの寮内を除いて無法地帯となることも、この迷宮学校が活発化することも——知っているのは新入生君達の中でも少なかったはずだ」


 ウルテイオの実態を知らされるのはごく一部だけだ。今年の場合は魔法貴族だったり、魔法皇族の皇女がそのごく一部に当てはまる。


「危険な橋だがどうか渡りきってほしい。そしてその先にいるワタシ達をいつの日か追い越す事を心から願う。ワタシからは以上だ」


 要はすんだと言わんばかりに足速に立ち去る校長。しかし学校の実態を知らぬ大部分の生徒達に拍手をする余裕はなかった。


 あまりにも残酷な宣告に体が固まっているのだ。

 つまり校長は「命の保障はしないし、夜10時以降なら好きに殺し合っても構わない。襲われても文句はきかない」と言っているようなもので、


「嘘……だろ?」


 誰かがやっとの想いで声を漏らした。入学式なんて忘れるほどに理不尽な校則が原因だろう。


 生徒達を冷静にする意味を込めて司会者が吐く。

 

「続いて皆さんには懇親会に参加してもらいます。それぞれが自由に行動し、親交を深めてください」


 生徒達が、はじめは消極的に、しかし慣れとともに多くの学友をつくり始めた。

 





 懇親会が始まってしばらく。ある程度グループが固まり出したころ、未だひとりのズィクトは不審な雰囲気に注意を向けていた。


「なあオマエ——火の寮ピュロメテウス生だろ。火の寮アイツらも運がねぇなこんなクソチビがお仲間だなんてよ」


 赤髪の少年が軽蔑の瞳を曝け出す。

 次いでの乱雑な言葉遣いに「え、えと……」と小柄な少年が口ごもった。


 そして——不幸な事にその弱気な態度が赤髪の少年をさらに苛立たせてしまった。


「チッ——反論もできないか、腑抜けが。まあ火の寮ピュロメテウスなんて所詮そんなもんだろうがな」

「ぴゅ、火の寮ピュロメテウスを馬鹿にするのはっ!——よ、よくないとお、思う……」


 小柄な少年も己が所属する寮を貶されては黙っていられない。

 ここは強く言わないと!——と覚悟はしたものの……。


「あん? 馬鹿にするのは、なんだって!?」

「い、いやその……あの……」


 近くで一連の流れを観察していたズィクトが嘆息する。


「まったく、見てられないな。おい、君——入学初日から同級生に嫌がらせをするものじゃないぞ」

  

 これではまるでイジメじゃないか。





 決闘場で睨みをきかせる赤髪の少年を見ながらズィクトは思う。


 あぁそうだ。俺が口を挟んだからか……。だから今決闘場に一年全員が集まって——俺達に注目しているんだ。

 やるしかない——か。


 ズィクトが諦念の表情かおワンドを構えた。


「後で泣き喚いてもしらないぞ。あの少年にはしっかり謝罪をして筋を立ててもらう」

「常套だ——テメェこそオレが勝った時の約束、忘れんなよ」


 審判役として呼び出された六年の監督生が試合開始腕を振り下げた

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