復讐の狂門3 『遊戯』
審判役として呼び出された六年の監督生が
先手を撃ったのは赤髪の少年だ。
手に持つ
「
杖先から剣型の鋭い風が放たれ——ズィクトが対抗するように叫んだ。
「
ズィクトの杖先から現れ出たのは半透明の
それは彼の身を守るとすぐに光の粒となって消え——その光景を目に映した赤髪の少年が驚愕につぶやく。
「は? まさか——なんでそんな中級呪文を……」
「
どおりで
「
「——ッ!」
ズィクトの呪文に従い石敷きが砕けるとまるで生物のように動き出す。それは自然なようすで囲うように宙へと舞い————赤髪の少年に躊躇なく特攻した。
「
「い、
風霊呪文で数個は撃ち落としたが手数が少なく、全方位からの投石攻撃に赤髪の少年が絶叫した。
彼の手足は痛々しく腫れ上がり——しかし胴に狙われた痕跡はない。
己の脚で立ち上がる事もままならない少年にズィクトは憐れむ。
「今なら降伏も認めるが?」
「ふ——ふざけるな! このオレに恥をかけと言うのか……!」
「そうは言うが……今の君は芋虫とそう変わらないだろう」
「テメェ——!」
「ウルテイオでは決闘で命を落とす事も珍しくはない。ここで君を殺しても誰も俺を咎めることはないだろう」
ズィクトだって命を奪いたいわけじゃない。というか今は出来るだけ奪いたくはないのだ。
だからこれは、この憐れみは決して赤髪の少年のためだけにある感情ではなかった。
「これが最後だ——降伏しろ」
「…………」
「そうか……残念だ——仕方がない、か」
何らかの意地を張っているのか、あるいは見下しに見下した
少し視線を逸らせば
「仮にも同じ寮の仲間だろうに」
酷いものだ、なんて他人事に考えている俺も酷いか。
ズィクトは不必要な思考を振り払うように言葉を紡いだ。
「入学初日から手札はあまり見せたくない。君には悪いが——このまま石ですり潰させてもらう」
「ひっ——た、助け——ッ!」
「死ぬまでに降伏するといい」
「だ、誰が……!」
「強情だな」と不気味に
音響する慟哭。これには顔をしかめる一年生も多く、けれどもズィクトは出来るだけ苦しませてから殺すつもりだった。
さて、次は両脚、その次は目。
その次は——と思考回路を働かせている時、ズィクトが待ち望む言葉が薄らと消えそうな声音で吐かれた。
「わぁ、わがっだ……お、オデのま、
「……」
思ったより早かったな——と口にはしない。プライドを捨て、謝罪する男をさらに罵倒するほどズィクトは恥知らずではない。
「そうか。お互いに良かったな」
——死ななくて、そして殺さなくて。
「その両手のことなら後で教授にでも聞いてみるといい。きっと治し方を教えてくれる」
返事を待たずに審判へ視線を配ると、慌てたように声を上げた。
「しょ、勝者!
熱気のような歓声があがる今この場にはさまざまな感情が行き来している。
良いものもあれば憎悪に近いものも。あるいはなんとも言えないものも。
「目立ったな」
多少の拷問をしただけで命は助かったのだから責められる謂れはない。もし彼が降伏せずに死んだらその限りではなかったが……。
熱に浮かされたような新入生一同は再度懇親会の場まで戻り——赤髪の少年が負った傷はその場にいた教授によって治された。
懇親会終了時間まであと数十分。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます