復讐の狂門1 『なぜこうなった?』
「オマエ——今なんつった?」
「だから入学初日から同級生に嫌がらせをするなと言ったんだ」
入学式が終わり——学校の善意で開かれた懇親会。
親交を深めるための場ではあるが、中には気に食わない相手に嫌がらせをする生徒もいた。
例えば今——ズィクトは小柄な少年を庇うために横から口を挟んだが、
「おいおい、なんの根拠があって嫌がらせをしてるっつうんだよ」
この通り、彼は口撃の手を緩めるつもりはないらしい。
「まあでもオマエがこのチビより面白そうだったらこれ以上絡まないでやるよ」
赤髪の少年は獲物を見つけた肉食獣のように笑う。先まで高圧的に見下していた小柄な少年のことはすでに眼中にないようだ。
ふむ、とズィクトが唸る。
「なぜ俺が君の欲求を満たすために行動しなければならないんだ?」
「——ああ? 文句あんのかよ。オレがチビとお話ししてるのに割って入ってきたのはテメェだろうが。テメェにはそれを聞く義務がある」
「確かに途中で口を挟んだのは認めよう——しかし、君はこの少年を見下し、威圧し、一方的に暴言を吐いていただろう」
明らかに苛立った赤髪の少年を前にズィクトは臆さない。
彼が身勝手な理由で怒りを感じているようにこっちも苛立っているのだ。
だが敢えてズィクトはそれを表に出さず会話を試みる。あくまでも理想は平和的解決だから。
「君はそれを『お話』とのたまったがそれは違う。一般的に人はそれを『イジメ』と——」
「ごちゃごちゃごちゃごちゃウルセェなぁ! 頭脳派ぶってんじゃねぇよ雑魚が!」
どうやら彼は怒りっぽい性格らしい。周囲を忘れてながら怒号を飛ばし注目を集めたのが良い証拠だ。
「……」
——最悪。
と、ズィクトが嘆息した。
細い針で刺されるように辺りいっぱいから視線を感じる。
困惑、興味、嫌悪、迷惑、冷徹——各々が瞳に込めた想いは違うが、ひとつだけ皆一様に揃った感情があった。
それは『驚愕』。
決して赤髪の少年が怒りに叫んだからではない。
「君——
「オマエは初日から潰してやるよ。よかったな——これから七年間の学校生活は卒業までオレの奴隷だ」
ズィクトに向けて突き出された魔法書。わずかな時間で顕現されたそれが、迷いなく少年の手に収まっている。
「ありゃ決闘の合図じゃねぇか!」「入学初日から飛ばすなぁー!」「やっちまえやっちまえ!」
無責任な言葉の数々が、重圧となってのしかかった気分だった。ここまできて「冗談だから」は通用しない。
ズィクトの心臓が縮み上がる。嫌な方向へと進む展開に否応なく目線が下がり、床に取り込まれるようだ。
と、その時——「チビ」と呼ばれていた少年の目がコチラに向けられた。
「——ッ!」
謝罪か応援か、ズィクトに判別は出来なかったが一度助けに入ったのなら責任は取るべきだと感じた。
落ち着くように一息——次の瞬間、少年は知らしめるように宣言した。
「いいだろう。もし俺が勝利を掴んだ時は、そこの少年に謝罪しろ」
「ふんっ! テメェごときに負けるかよ。オレは幼い頃から魔法を習っているんだぞ」
決闘場に来い——そう言い残して赤髪の少年は立ち去った。
どよめく懇親会でのあの立ち振る舞いをできる精神力に関しては本物だろう。
「?」
そういえば、なぜこんな事になったのだろう?
そんな言葉を頭の隅に、ズィクトは入学式を思い出しながら決闘場へと足を運んだ。
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