第53話

「何怒ってんだよ」


「別に、怒ってないし!」


「ならなんで早歩きしてるんだよ」


「知らない!」


人ごみの廊下をかき分けるように、遥香はせっせと歩いていた。

何怒ってんだよ、俺なんかしたか?


「ほら、待て」


遥香の袖を掴むと、


「そこに座ってちょっと待ってろ」


そう言い、ピロティーに設置されている椅子に座らせると、俺はあるモノを買いに行った。

数分後、


「ほれ」


両手にクレープを持ち、遥香のもとに帰ってきた。


「なにこれ」


「見てわかるだろ、クレープだよ」


「なんで買ってきたの?」


その質問に、頭を掻きながら、


「なんか知らない間に怒らせてたみたいだから、そのお詫び。あと彼氏として?」


照れくさそうに言った。


「そ、そう。ならありがたく貰っとく」


俺の手からクレープを取ると、パクリと一口食べた。

すると、先程まで引き攣った顔をしていたのが、一気にほどけた。


「あ、やっと笑った」


「え、私笑ってた?」


「うん、幸せそうにな」


「それはクレープがおいしいからよ」


「それならよかった」


2人横並びでクレープを食べていた。

はたから見たら、ちゃんとしたカップルに見えているのだろうか。

そう思いながら、ホイップクリームの甘さを感じていると、


「ね、ねぇ………………………」


赤い顔をしながら、自分が食べているクレープを俺に向けて来て、


「あ…………あ~ん」


あーんをしてきた。


「あ、あ~ん!?」


突然の遥香からのあーんに、俺は当然戸惑った。

だって、その羞恥に染めた表情、めちゃくちゃ可愛いんだもん。


「そうよ!恋人なら普通するでしょ!」


「するけど、いきなりでびっくりしたわ!お前はいつも唐突だな!」


「それに、間接キスとか気にしないから!これくらいふ、普通だから」


お前は気にしなくても俺は気にするんだよ!

だけど、可愛い女の子(性格以外)と間接キスをするせっかくのいい機会なので、


「な、ならお言葉に甘えて」


遥香が口を付けたクレープに戸惑いながらも、俺は一口頬張った。

これには俺も顔が真っ赤であった。


「ど、どう?」


「どうって、まぁ味は同じだからうまいな」


「よ、よかった」


間接キス気にし過ぎて、クレープの味なんか感じなかったわ!

俺が口を付けたところに、遥香も戸惑いながらもやけになってパクリと食べた。

お前もよく頑張るな!


その頑張りは尊敬するよ!本当に!

それに、今日はいつもより5割増しで遥香の事が可愛く感じてしまう。


普段のように下ネタを言わないからか、学校モードとそれ以外モードのバランスが取れていて、遥香の良さだけが出ているからかもしれない。

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