第36話

「なんじゃこりゃ~」


落ちた本を手に取りながらぼやいた。

なになに、『イジメてくださいご主人様』『お姉さんとイイ事しよ?』『お姉ちゃん、僕,我慢できない』かー。


それにBLだと『シェアハウスの夜事情』『小っちゃいのがお好みですか?』ねー。

こいつショタにも手を出していたのか……………………

本当に救いようのない変態だな。

近寄ると子供が出来そうだ。


全身が凍り付いている遥香の横で、床の本を物色していると、


「なんだ、これ」


それはスケッチブックに似た表紙をしていて、『俺の犯したいのか?』という題名の横に、ペンネーム『遥香』と文字か書かれていた。

これ、遥香が自分で書いたやつじゃないのか?


「見たら殺されるだろうな~」


と、わざと遥香に聞こえる声でその表紙をちらつかせたが、反応はなかった。

いつもなら「やめろぉ~!!」と怒鳴りながら飛び掛かってくるのに…………………


俺は、6分の恐怖と4分の好奇心に動かされ、その中身をぺらぺらとめくった。

その内容は予想通り、カオスとしか言い表せない内容だった。

これは口に出したら口元に『コンプラ』と書かれてピー音が付いて何も聞こえないから言わないでおこう。


その漫画を見ていると、


「パソコンの履歴もこれで丸わかりやぁ~!!」


小林は先程まで泣きじゃくっていたとは思えないほど、ハイテンションで且つ満面の笑みでプリンターから出てくる紙を自慢げに見せてきた。


「なんだこれ」


「遥香の検索履歴に決まってるじゃない」


「はぁーー。これで俺にどうしろと?」


「私が味わった羞恥を遥香にも味わってもらうため?」


「なぜに疑問形なんだ。それとあの段ボールひっくり返された時点でノックアウトしてるぞあいつは」


「よく言うでしょ?やられたらやり返す、倍返しってね!」


お茶目に舌を出しながら人差し指を立てた。

本当に今更なんだが、目の前で人の秘密と検索履歴を晒して、その数分前に子供みたいにぎゃーすかと泣いてたのが生徒会書記でクラスの人気者なんだよな。

しかも、その表情ちゃんと可愛いのもやめてくれ。

天地がひっくり返っても惚れはしないが、表情が緩んで反応に困る。


「小林」


「なに?」


「これからさっきと逆な事が起こるぞ」


「え?さっきと?」


小林はポカンとした表情を浮かべたが、


「あれだ」


と、遥香の方を指差した。


「遥香は固まってるだけじゃない」


「ちょっと待てよ」


俺は腕時計を確認しながら、


「3………………2…………………1…………………」


カウントを始めた。


「なによ、そのカウント」


「まぁすぐにわかるさ」


ゼロという前に、その答えは明らかになった。


「なんで私までぇ~~~~~~~~!!!!!!!!」


先程の小林同様、遥香は床にのたうち回りながら泣き叫んだ。

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