第9話

~下仁田遙香の取り扱い説明書~


その1 下仁田モードの時には、絶対に敬語で遠慮する様に話しかける事。


その2 くれぐれも、教室で私に近づかないこと。


その3 2人の時は遙香モードになるから、その時はタメ口&遠慮なく。


その4 私の性格の事を誰にも言わないこと。



「以上になるわ」


「まぁ、大体理解した」


「それならよろしい」


説明が終わると、遙香はバックからスマホを取り出し、女子高生お得意の高速フリックで誰かにラインを打ち始めた。


「お前、打つの速くないか?」


「はぁ?そんなの当然でしょ?女子高生ならこんくらいできなきゃヤバいから」


「そ、そうなのか」


今の女子高生がいまいち分からない。

それは、俺が女子とあまり関わりがないからなのだろうか。

今度綺良に聞いてみる事にしよう。


「それで~、誰にラインしてるの?」


「さっき話したこの学校で唯一私の性格を知っている人。今からあんたに会ってもらうから」


「え!?今から!?」


そんなの聞いてないぞ。


まぁ、今聞いたばっかなんだけど!


「うん、もうここに呼んじゃったし」


遙香は、俺にその人とのトーク画面を見せてきた。

相手のラインのアイコンは、砂浜の写真だった。


俺はそのアイコンに少しばかり見覚えがあった……………………………だが思い出せない。


どこか、有名な誰かだったような……………………………………。

でも、人違いかもしえないし、そこはいいか。


「マジか……………………………………」


「マジだ」


「それって、どんな人?」


「それは来てからのお楽しみ」


中学時代の友達って事だから、金髪でピアス開けてて、不良だったらどうしよう。

そんな恐怖が俺を襲った。

俺は緊張のあまり、石のように固まっていると、


「大丈夫?」


遙香から声を掛けられた。


「いや、大丈夫じゃない」


「何をそんなに怖がってるの?」


「だって、遙香はギャルだったんでしょ?それで中学からの友達ってギャルかヤンキーなわけじゃん。それが怖い」


「何それ、決めつけ?」


「普通に考えたらそうじゃん」


「まぁ、それはそうか」


「で、誰なの?その人」


そろそろ答えが聞きたいので、遙香にもう一度質問をした。


「教えないって、来てからのお楽しみ」


「教えてくれたっていいじゃいか」


そうだぞ、そろそろ教えてくれてもいいんだぞ。


「それはだめだ。葵の反応が面白くなくなる」


「俺の反応を見て楽しもうとしてたの!?」


「そうだよ、だってホントにびっくりするような人だし」


と、本当に教えてくれなさそうだ。

これはちょっと強引だが、遙香に確実に吐かせる技を使うとするか。


「言わなかったら、お前の事バラすぞ」


これが一番遙香に効き目があるのだ。


「な―――――――――――――っなんでそのくらいですぐバラそうとするの!?」


「だって、ウザいし」


「そんなの別にどうだっていいじゃない!」


プイっと顔を背ける遙香。


「俺はどうでもよくないから」


「どうせあとで分かるんだよ?なのに何で今なの!?」


「なら、なんであとで分かるものを今教えてくれないの?」


「それは………………………………反応が見たいから」


と、少しはにかみながら言う遙香。

その表情がなんとも可愛くムカく。


「言ってくれないなら今から全校放送で遙香の事言ってくるわ~」


俺は迫真の演技をしながら屋上を去ろうとすると、


「それだけはやめでぇ~」


遙香は俺の足にしがみついてきた。

やはりこいつにはこのやり方は一番有効なようだ。


「で?教えてくれのか?」


「それはやだ!」


「なら放送しに行くけど」


「それもやだ」


「なら、俺は放送室行くから」


遙香を引きずりながら俺は歩き始めると、屋上をドアに近づくにつれ、しだいに遥香の泣き声は大きくなった。

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