三人の悪童、ここに見参

 文化祭、それは体育祭と同じように大きな盛り上がりを見せていた。

 各学年の各クラスによってそれぞれ趣向の違う出し物、まあ似たようなものもあるのだが細部まで似通っているわけではないので新鮮さはあった。

 中でも特に普段とは違う衣装に身を包んだ学生たちの運営する喫茶店は人の出入りが激しく、そこにイケメンや美女が居るとなれば勝手に人並みは増えてくる。


「お帰りなさいませ、ご主人様」

「静奈ちゃんちょう可愛い!!」

「とっても可愛いですよ静奈ちゃん」


 さて、そんな風に盛り上がる文化祭の中での一コマだ。

 龍一と静奈が在籍するクラスでの出し物は執事メイド喫茶となっており、メイド服に身を包んだ静奈の元に千沙と沙月が顔を見せていた。


「ありがとうございます二人とも♪」

「……キュンって来るわ」

「凄い破壊力ですね」


 眩しい足をこれでもかと見せるミニスカメイド、そして体のラインが良く見えるタイプのメイド服ということでしっかりとした丸みを見せる胸元……これだけ見れば大変エッチで眼福なのだが、更に静奈の見せる美しくも可愛らしい微笑みに千沙と沙月はメロメロだった。

 いつもはストレートにしている髪型もツインテールにしておりかなり新鮮な姿でもある。


「咲枝さんも来れると良かったんだけね」

「はい。お仕事が入ったそうですね?」

「急遽ということで……残念ですけど仕方ないです」


 そう、本日咲枝は残念ながら顔を出すことは出来ない。

 そのことについては非常に残念だが、いずれ時間がある時に家で咲枝にこの姿を披露しようとも静奈は考えていた。


(その時はもちろん龍一君も巻き込もうかしら♪)


 龍一はきっと嫌そうな顔をするだろうが絶対にやってくれる、そんな安心が静奈の中にはあった。


「こういう高校生の出し物って厄介な客とか来そうだけど大丈夫そう?」

「はい。今のところは特にないですね。その辺りのことを考慮して近くに先生も待機してくださっていますし」


 外部から客を招くということは厄介事が付き物だ。

 女子生徒の接待に難癖を付けたりして騒ぎ立てるような連中は決して居ないわけではなく、ちゃんと現実問題として存在しているのだ。

 静奈はお盆を胸に抱えながら周りで接客している同級生たちを見ていると、クスッと千沙が笑った。


「う~ん、確かに周りの子たちも可愛いけど静奈ちゃんが一番その辺りは気を付けないとでしょう?」

「……ふふ、ありがとうございます」


 それだけ静奈の美貌が優れているということだ。

 まあ静奈からすれば千沙と沙月も恐ろしいほどの美人であり、今ここに居る学生を含め他の人たちからも視線を集めているので気を付けてほしいところだ。


(……千沙さんが居るから心配するだけ無駄かしら)


 美人でスタイルの良い大学生のお姉さん、しかし龍一にすら時折マウントを取るほどの女傑なので静奈の思ったように心配するだけ無駄である。

 さて、そんな風に静奈にとって大切な知り合い二人がお客さんとしてやってきている現状、おそらくは彼女たち二人にとっても目当てである龍一の姿はここにはなかった。


「龍一君は居ないんですか?」

「今休憩中なんですよ。すぐに戻ると思いますが……」


 彼は今真と要を引き連れて休憩中だ。

 静奈が言ったようにすぐに戻るとは思うので、心配しなくてもちゃんと二人も彼の姿を見ることは出来る。


「ふふ、それなら良かったです♪」

「まあ静奈ちゃんもそうだけど、龍一も見てみたいものねぇ」


 千沙と沙月はメニューの一つでもあるイチゴパフェを口に運び、学生が作ったにしては完成度の高いその味に舌鼓を打つ。


「静奈、こっちは任せてちょうだい。あなたはそちらのお客様のお相手をしてあげてね」

「分かったわ」


 静奈も他にやらないといけないことがあるのだが、知り合いが居るのならそっちを優先して大丈夫ということだろうか。

 ありがたくその気持ちに頷き、それから二人の相手をすることに。

 特に問題なく時間が進み、静奈たちが楽しい瞬間を過ごしていたその時だ――先ほど話題に出た厄介な客が現れた。


「ひゅ~! めっちゃ可愛い子いんじゃん!!」

「大学生かな? すっげえ美人!」


 大きな声を出して堂々と近づいてきたのは見た目からしてチャラい二人組だ。

 おそらくは静奈と同年代くらいの男子で高校は別だろうか、彼らはゆっくりと静奈たちの元に近づいてきた。


「メイドさんってことはお世話してもらえんだよな?」

「どんなことしてもらおっかなぁ?」

「……………」


 静奈は心の中で盛大にため息を吐いた。

 せっかく楽しい時間を過ごしていたのに、それだけでなくクラスのみんなも一生懸命働いている時に水を差すような彼らの行動だ。

 面倒ごとの香りを感じたのか、責任者の立場にある女子がすぐに動いて先生を呼びに教室を出て行った。


「アンタたち、入る前にルールを読まなかったの? 非常識なことはするな、そう書かれていたはずだけど?」


 そして当然、気の強い千沙が何も言わないわけがなかった。

 相手は高校生といえど男なので無茶をするなと誰もが思うかもしれないが、それを出来るだけの胆力と度胸があるのが千沙なのだ。


「あ? なんか気の強い姉ちゃんだな」

「でもめっちゃ好み。なあこの後ホテルいかね?」


 この男子たちも一切に気にした様子もなく、あろうことか千沙をホテルに誘う勢いだ。


「租チンそうだし興味ないわ」

「ぶっ!?」


 千沙の言葉に隣で様子を見守りながら紅茶を飲んでいた女性が噴き出した。

 流石にそこまで言われると男子たちも気分を害したのか、少しばかり表情を変えて一歩を千沙に踏み出す。


「おいおい、ちょっと舐めすぎじゃね?」

「良いじゃねえか。やっちま――」


 千沙に向かってその手が伸ばされようとした時、教室の入り口から静奈たちが心から待ち望んでいた声が聞こえた。


「お客様、騒ぎを起こすのはやめてもらおうか?」

「……あ」


 教室の中に居た全ての者たちが動きを止めた。

 力強さを感じさせるその声の持ち主、龍一は真と要を引き連れて中に入ってきた。

 三人ともオールバックに執事服という出で立ちだが、そもそも少し前まで不良として通っていた部分もありその表情はとても厳つい。


「っ……」

「……なんだよこいつら」


 ヤクザのような三人の登場、それはさながら漫画などで見られる主人公とその仲間たちの登場のようにも見えた。

 真ん中に立つ龍一に至っては襟を緩めるように手を添えており、やるならやるぞと言外に伝えてくるかのようだ。


「良い女に恰好を付けたい気持ちも分からんでもないが、身の程を弁えろよ」

「それでもなおやるってんなら俺たちが相手をしてやる」


 完全に三人の醸し出す空気に飲まれていた。

 男子二人は旗色が悪くなったのを感じ取り、舌打ちすらするまでもなくそそくさと教室を出て行くのだった。


「……おぉ!」

「かっけえ!」


 その瞬間、三人を称えるかのような拍手が巻き起こった。


「先生連れて……あれ?」

「……出番なしか?」


 遅れて登場した先生の出番は残念ながらなかった。

 あの男子たちに決して気後れしたわけではないが、静奈は安心したように笑みを浮かべ沙月に至っては目にハートを浮かべている。


「……かっこいいですぅ」

「沙月? ちょっとここでトリップするのはやめなさい」


 いつもと違う龍一の姿に沙月は完全に雌の顔になっており、そんな沙月を注意しながらも千沙だって顔を赤くしていた。


「……かっこいいじゃない」

「サンキューな」


 二人からの好印象に龍一もくくっと笑った。

 さて、これでようやく執事姿の龍一とメイド姿の静奈が揃ったわけだ。


「千沙に沙月も写真撮るか?」

「撮る!」

「撮りますぅ!!」

「お、おう……」

「凄い勢い……」


 龍一はクラスメイトに写真係を頼み、千沙と沙月を挟むようにして龍一と静奈が並び合った。

 四人ともそれぞれのスマホで写真を撮ってもらい、こうしてまた一つ新しい思い出が形として残るのだった。


「なんかこう! 刺激のある台詞をお願いします!」

「沙月、アンタどんだけハマってんの……」

「刺激のある台詞なぁ……」


 あっと思い付いたのか龍一は沙月の耳元でこう囁いた。


「お嬢様、ドロッドロに犯してやるがどうする?」

「っ……ふわぁ♪」


 体をブルっと震わせてその場にストンと腰を下ろした沙月に、龍一はやり過ぎたかとほんの少し反省した。


「沙月? 濡れた?」

「濡れました」


 親指を立てて沙月は千沙にそう返した。

 ちなみに今のを眺めていた静奈も若干刺激され、今度は私にも言ってとおねだりするのだった。

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