事後の静奈はヒロイン力が限界突破
「……………」
「静奈?」
「っ……!!」
ジッと見つめてくる静奈の名前を龍一が呼ぶと、彼女は掛け布団で顔を隠した。その様子に一足先にベッドから出ていた龍一は苦笑する。まあ確かにと、龍一も何も思わないわけではない。
「どこか痛いところとかあるか?」
「……痛いところはもうないけど、ちょっと変な感じね」
「最初はそんなもんだ。これから回数を重ねて慣れれば……っと、何でもない」
途中まで言いかけて龍一は言葉を切った。
今彼はズボンしか身に着けておらず、上半身は服を着ていない。その強靭な肉体を余すことなく晒している。反対に毛布に包まっている静奈は何も着ていない。これが意味することは一つ、二人は最後までやったのだ。もちろん、ちゃんと守るべきラインは守っている。
「……どうして何でもないって言うの?」
「は?」
「私とはもう……してくれないの?」
その声はとても悲しそうで、同時に僅かながらも期待を滲ませる声だった。あの静奈がここまで言うとは思っておらず、龍一も少し目を丸くしたがすぐに腕を伸ばして彼女の頭を撫でた。
「ったく、可愛い奴だな本当に。なんだ? これからも相手してくれるってのか?」
「もちろんだわ。私だってもう、龍一君と関係を持った女よ。世間一般的には間違っている関係なのは分かっているわ。でもあなたに向かう想いを私は止められない。だからこれで良いんだって思ってる」
「そうか……来い、静奈」
「っ……はい♪」
来いと彼女に告げると、すぐに掛け布団を払い除けて龍一の胸に静奈は飛び込むのだった。何も身に着けていないからこそ、彼女の体は龍一から丸見えだ。美しい白い肌もそうだが、高校生離れした凹凸のある体も終わった後だと言うのにしつこく情欲を誘う……それだけ彼女の体は魅力的だった。
「……龍一君♪ 好き……大好きぃ」
ただ触れ合っているだけなのに、それが何よりも幸せそうな静奈の表情だった。彼女が初めてということもあり、決して辛くならないようにと注意しながら龍一は相手をした。初々しさの中に垣間見せる静奈のマゾな部分、それは初めてだというのにこれでもかと発揮されていた。
「それにしても思いっきり乱れてたな。これで初めてって言うんだから中々のもんだぞ?」
「言わないで……でも、あんな姿を見せるのは龍一君だけだわ」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか」
見上げてきた静奈の唇を奪った。
普通ならば龍一と静奈の関係性におけるキスだと恥ずかしがるのが普通だ。だが静奈は一切恥ずかしがることはなく、僅かに頬を赤く染めるだけで逆にもっともっととキスを求めるほどだ。
「……その……初めての経験だったけど凄いのね。けど何となく、龍一君がとても上手っていうのが分かったわ。やっぱり慣れてるのね?」
「まあな。静奈より大人を相手することもあったからな。どういう風にすれば喜んでもらえるかもある程度は理解している。それを抜きにしても静奈は分かりやすかった方だ。激しい方がお前は好みだろ?」
「……もう!」
ポカポカと胸を叩いてくる彼女に龍一は笑った。
こうして話をしている間、龍一の手はずっと彼女の胸に添えられていた。手で支えても零れ落ちる豊かさは咲枝譲り、反応に関しては遥かに静奈の方が強かった。流石は漫画のヒロイン、初めてであれほど乱れられるのもある意味才能だ。
『お、おぐぅ……あたって……っ!!』
その反応の良さにいつも以上に龍一も燃え上がったのは反省点だ。
「……まあだが」
「?」
静奈とする中で思ったのは、今までのどの相手よりも相性が良かった。龍一も静奈を憎からず思っているし、静奈に関しては完全に龍一に対して分かりやすいほどの好意を抱いている。だからこそ、ここまでお互いの体がマッチしたと思われる。
「静奈の体は最高だった。相性抜群だと思うぞ俺たちは」
「……そう♪ ふふ、嬉しいわね!」
普通の感性なら少し考えることもあるはず、それにも関わらず静奈は褒められた子供みたいに嬉しそうに笑ったのだ。それからお互いに服を着ずに雑談に花を咲かせていたが、忘れてはならないのが明日も学校があるということだ。
「そろそろ帰る。明日も学校だし」
「……分かったわ」
見るからにガッカリした様子だった。
またいつかな、そう伝えると静奈は笑顔を浮かべ何とか悲しそうな表情は引っ込んだ。着替えを終えて玄関に向かうと、静奈だけでなく咲枝も見送りに来た。
「またいらっしゃい。今度はもっと豪華な食事を作ってあげる」
「マジか? なら近いうちに……」
そこまで言ってまるで餌付けされているようだと龍一は思う。まあだとしても本当に料理は美味しかった。それこそ毎日食べたいと願ってしまうほどにだ。胃袋を掴むという言葉があるが、正に今の龍一はそれかもしれない。
挨拶を済ませて玄関から出ると、静奈は上着を着て出てきた。
「どうした?」
「……ううん」
何か用があるのか、そう思ったが静奈は迷うような素振りを見せる。何か忘れ物をしたのか、或いは他に伝えたいことがあるのか、ジッと待つ龍一に向かって彼女はこんなことを口にした。
「……私は、龍一君のことを何も知らないわ。噂のような人じゃない、それだけは自信を持って言えるわよ」
「何も間違っちゃいないんだがなぁ」
価値観は変わったが本質は変わらない、それについ最近までやっていたことは全て的を射ていることだ。
「そもそもお前の母親とも関係を持ってるし、付き合ってもないのにお前とも体の関係を持った。セフレ……ってのも少し違う気がするがそれみたいなもんだろ。高校生からしたら歪んだ関係だ」
「それは良いのよ別に。私が望んでいることだから……確かに友人たちに私は龍一君のセフレだなんて言えることじゃないけれど、こればかりは良いの。私が望んだ関係だから」
「……ったく」
どこまでも真っ直ぐだなと龍一は思う。
確かに静奈はヒロインだ。堕ちていくヒロインではあるものの、それを感じさせない芯の強さを目の前の静奈は持っている。眩しいなと、素直に龍一は今の静奈をそう評した。
「……真っ白だ静奈は」
「え?」
ボソッと呟いたその言葉に静奈が目を丸くした。龍一は言葉を続けた。
「もしも俺が淀んだ真っ黒な色だとしたら、静奈はどんなことがあっても汚れない真っ白な色だと思う。俺が何をしたって本質までは染まらない白……眩しいくらいに綺麗な色だ」
それだけ言って龍一は背を向けた。
ヒラヒラと手を振りながら歩き出したが、すぐに背中に小さな衝撃が走る。腹に腕を回され、大きな柔らかい感触と額を押し付けられたような感覚を受けた。
「これじゃあ帰れないぞ?」
「……ごめんなさい、少しだけこうさせて」
少し外は冷える、だが静奈の好きに龍一はさせた。
そんな中、静奈も龍一の言葉に応えるように静かに言葉を口を続けた。
「さっきも言ったけど、龍一君がどんな人なのか全部は分からないわ。どうして私を抱いている時、何かを耐えるように辛そうな目をしていたのかも分からないし、私を気遣う仕草とどこか女性を下に見るような目を行き来したのかも分からない」
「っ!?」
それは龍一の核心を突く言葉だった。
心の内側を覗かれたみたいな錯覚に陥るが、それが静奈だからこそ不快に思うことはなかった。それ以上にどうして分かったのか、そんな困惑の方が大きかった。
知らず知らずのうちに腹に回った彼女の手に握る。冷たいのは当然だが、同時に温かさも秘めていた。
「もしも龍一君が話してくれるその時が来たら、私はそれを聞きたい。龍一君は言ったわよね? 私は汚れない白だって、だから安心してほしいの。どんなことがあってもあなたの傍には変わらない色があることを。不安な色を塗り潰す強い色がいつだって傍に居るから」
あまりにもクサいセリフだ。
それでも静奈という人間をこれでもかと表すような言葉だった。なるほど確かにこれは正真正銘のヒロインだ。元の世界の記憶などは一切関係なく、彼女という人間の本質の素晴らしさが嫌でも理解できるのだから。
彼女の手に己の手を重ね、龍一は優しく解いた。
「あ……」
「いい加減帰らねえとお互い引っ込みつかねえだろ。じゃあな静奈」
「……うん。ねえ龍一君、最後にキスしてほしいわ」
「分かった」
迷う素振りなんて見せず、龍一は静奈の頬に手を添えてキスをした。それからようやく龍一は静奈から離れ、アパートに続く帰路を歩き始めた。
「……色々あったな」
本当にそうだと先ほどまでのことを思い返した。
まるで蜜のような甘い時間を過ごしたような気分だ。そして同時に、別れる前の静奈の言葉にはまさかとも思った。
「……結局、俺はアンタの子供ってことだよクソッタレが」
自分の価値観も、女性への考え方も、全てを狂わせた元凶に対する恨み節……だが龍一は理解している。そうは言っても、本当は自分自身が一番悪いことを。
薄汚く笑う女の顔、自分を邪魔だと断じた醜い声……気分が落ちそうになったが、そこに差し込む陽光のように静奈の笑顔と言葉が蘇る。
「……悪くは……ないな」
そう小さく呟き、龍一は足早に帰るのだった。
その足取りは軽く、表情も心なしか明るかった。
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