第12話:町興し?
「ごきげんよう」
「「お待ちしておりました!」」
町一番の食堂『ベノムの牛タン亭』のキッチンに向かうと、食堂の亭主ベノムと奥さんのドナ、近くにある宿屋のシェフのトニーが待ち構えていました。
エプロンを着け、うねうね赤髪を三角巾で押さえ付け、手を洗い、準備万端です。
「今日は皆様が大好きな唐揚げの応用編ですわよ」
「「おぉぉ!」」
男性陣が大喜びです。
以前、どうしても食べたくなった唐揚げを領主邸のシェフと作っていましたら、納入業者が唐揚げを揚げる匂いで釣れ、一つお裾分けするとたちまち唐揚げの虜になりました。
その後、『領主邸で食べた唐揚げ』の噂話が巡り巡ってベノムの耳に届き、どうしても食べてみたい、となったそうです。
ベノムからレシピを教えて欲しいと請われたので、それならば! と『B級グルメで町興しの会』を発足させたのがここで色々と作るようになった始まりです。
ベノムが勇気を出して領主邸に来てくれて、本当に良かったですわ。
「では――――」
ベノム達に今日必要な物は事前に伝えておきましたので、調理台には材料や道具が綺麗に並べられています。
「先ずは鶏胸肉を半分にスライスして開き、こし布で両面を覆って……麺棒でお肉を叩きます」
「「叩くぅ⁉」」
なぜかドン引きされました。
『肉が薄く伸びる』という事に感動していたので、まぁ、許しましょう。
「五センチ程度の大きさに切ったら、唐揚げと同じように下味を付けて、お肉の真ん中にチーズをちょこんと乗せます」
四人が私の手に注目する中で、ちょっとドキドキしつつお肉でチーズを包んで行きます。
四つ角を真ん中に寄せて包むような形にしたら、キュッと握り締めてまとめ、塩コショウを軽くふり、コーンスターチをまぶします。
「これをきつね色まで揚げれば完成よ」
「えらく簡単ですね」
「ええ、簡単なわりに子供にも大人にもウケが良いこと間違いなしよ」
大人用はブラックペッパー強めにするとお酒が進むのではないかしらと言うと、ベノムが俄然やる気になりました。
「ディップにはトマトソースですかね?」
「そうね――――」
バジルソースなんてのも合うと話しつつ、キュキュと丸めてチーズチキンボールを作りました。
全て揚げ終えたら、皆で試食会です。
「ん…………んっっまぁぁい!」
「ハフハフ……あちち。ふはぁぁ、美味しいですわね」
外はカリッとしていてあっさりした鶏胸肉、中はとろーり伸びる濃厚チーズ。口の中で混ざり合う旨味。
――――最高ですわ!
「これは、間違いなく主戦力になりますね」
ベノムも太鼓判を押していたので、今日の試作品はそのままメニューに載せるのでしょう。
これで私は美味しいものが食べられ、街も賑わいます。一石二鳥ですわね。
あっ……いけませんわ、本音がぽろりと零れてしまいました。
「お嬢はほんと、食べるの好きっすよね!」
ロブがとても良い笑顔で訳の解らないことを言っていましたので、華麗にスルーしました。
私は町興しをしているのです。
決して私の食欲を満たそうとしているわけでは無いのですから、ねっ!
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