第13話:招待状

 



 ロブやベノム達とB級グルメを開発したりと楽しく過ごしている内に、領地に戻って五年が経ちました。

 王都にいらっしゃるアシュリー様とはお手紙の交換を続けていますが、一度もお会いできていません。


 社交シーズンになると、王都からお茶会や夜会の招待状が届きます。

 お父様とお母様、お兄様とお義姉様はそれらに参加するため、王都のタウンハウスに行かれますが、私は全てお断りしていました。


「ミラベル、流石にデビュタントボールには参加せねばならないよ」

「……」

「ミラベル」

「っ……はい、参加いたします」


 お父様からやんわりと注意を受けつつ、舞踏会に行くことを了承しました。


 デビュタントボールとは、その年に成人し社交界デビューするご令嬢ご令息の為に王城で開催される舞踏会です。

 今年成人を迎える私にも当然国から招待状が届きました。

 断れないのは解ってはいるのです。

 ただ、乗り気がしないだけなのです。

 ただ、セオドリック殿下に会いたくないのです。

 デビュタントの為に国が開催する舞踏会なので、デビュタント特典があります。特定の相手がいなかったり、希望者は王族の方とファーストダンスが出来るのです。


「ほら、今は王族には女性がいないから、アシュリー嬢も参加されるんだろう? 久しぶりに会えるじゃないか」


 アシュリー様は既にデビューされていますが、王族に近い公爵家令嬢なので、ファーストダンス要員として今回の舞踏会にも参加されるそうなのです。

 

 確かに、アシュリー様にお会いでき

ると思えば、少し楽しみになってきました。


「そうですわね。……お父様、いつもわがままばかり言ってごめんなさい」

「ミラベルは頑張ってきたからね。どうしても断れないこれだけ参加してくれれば大丈夫だよ。終わったらまた領地に戻って好きなことをしていいからね」

「ありがとうございます。あの、ドレスですが――――」


 参加する気が無かったので、ドレスがありません。普通は何ヶ月も前から準備すべきなのです。

 持っているのは水色ばかりなので袖を通す気になれないというのもあり、新しく既製品に近いものから買いたい旨をお父様に伝えようとしました。


「あぁ、ドレスなら心配いらないよ。王妃殿下が王都のタウンハウスに届けて下さっているよ」

「……王妃殿下が、ですか?」

「ふふっ、大丈夫。水色じゃないよ」


 お父様がくすくすと笑いながら教えて下さいました。私の瞳の色に合わせて、ごく薄い黄色なのだとか。サイズはきっとお母様から漏れているのでしょう。

 あとの問題はエスコート役だけですわね。




 王城で開催されるデビュタントボールに参加することにしたものの、エスコート役が見つかりませんでした。

 お父様はお母様をエスコートするから、お兄様はその日は別の夜会があるから、と非常に軽く断られました。


 我が領にいる貴族の知り合いに頼んでみたものの、恐れ多いと断られてしまいました。

 いやいや、気楽に参加しましょう? と言っても駄目。

 何か交換条件を付けて良い! と言っても駄目。

 直球勝負で、お願い、助けて! と言っても駄目。


「私、このまま行き遅れそうね」


 普通こんなに断られるものかしら? と思ってロブを使って調べてみたら、私が過去にセオドリック殿下の婚約者だったことが原因のようでした。


「皆、王族に睨まれると思っているようでしたしねぇ。もう無理なんじゃないですか? お嬢は食べ物開発して、楽しくお一人様生活満喫でいいと思いますよ」

「ずっとここで?」

「はい」


 この五年の間ですっかり体が出来上がって、騎士に昇格したロブがとてつもなく良い笑顔で『お一人様』を勧めてきました。


「…………まぁ、それも良いかもね」

「お、やった! そんで、俺はお嬢の護衛続けて、腹も懐もホクホクってもくろみです!」

「あら、じゃあ、その分しっかりと働いてもらいましょう!」

「え――――」


 ロブの割としょうもないもくろみのおかげで、とても良い方法を思い付きました。


「デビュタントボールまであと二ヶ月よね? しっかりと貴族の嗜み、覚えましょうね?」

「えっ――――」


 ロブにニッコリと微笑みかけると、顔を真っ青にされてしまいました。


 ――――こんな可憐な少女を目の前にして失礼ねっ!



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