エピローグ

これで、終わりにする

 車は村の最寄り駅から四つ程離れた駅についた。昔ながらの無人駅で監視カメラなどはない。乗車証明書が木箱に入っておいてあるだけだ。


「どうしてここに?」

「これから事件の事を俺から警察に届け出る。今回調べに来たのは俺一人ということにするから君は今回一切関わってないということにしておけ。普通の路線を使えばもう監視カメラがあって映像が残るが、この私鉄はそういうのがない。万が一取り調べが君の所にいってもごまかせるだろう」

「私はいいけど、それでいいの?」

「ケジメさ、俺なりの。それに君が出てくると加賀親子が犯人で終わりではなくなる。メディアが騒ぐし調査がややこしくなるからな。息子を殺された父親の執念の活動、の方がすっきりまとまってるしさっさと終わるだろう」


 何でもない事のように言うが、なんだか笹木にすべてを押し付けてしまうのが申し訳ない気分になる。しかし本人がそれでいいと、それ以外は受け入れないと言っているのならもうそれ以上言うことはない。


「君の事は村の人間に見られていないし、見たのは加賀だけだ。……もう生きてないだろうけどな」


 笹木の言葉に琴音は黙る。前のオニワさんは消えたが、約束を果たしていない加賀が無事とは思えない。あのタイミングならぎりぎり代替わり前に約束を守れたかった者への罰が「間に合ってしまった」可能性は十分ある。


「じゃあ、先に帰るね」

「ああ」


 言葉短く別れの挨拶をかわし、琴音は車を出た。バタン、と扉を閉めると車は走り出す。それを静かに見送り、時刻表を見るとあと三十分で次の電車が来る。そしてそれが今日の最終電車だ。ほぼ利用者がいないのだろう、十八時台が終電とは。

 村の方向に目を向ける。もうすっかり暗くなって遠くは見えないが、あそこに今でも日和がいる。相手を見つけることができないかくれんぼを永遠に続けなければならない憐れなオニワさんが、今でも探し続けている。

 これが本当に最善なのか、これで本当に良かったのか、琴音には答えが出せない。しかし自分は選んだし、決断した。言い訳はすべて自分の中でしかできない事だ。

 さあ、っと風が吹く。肌寒くなったのを感じ、自分を抱きしめた。



 十年前の児童連続殺人事件の犯人死亡、というニュースはその地方で小さく新聞に取り上げられただけだった。それは笹木が教えてくれたことだ。実際琴音はニュースをチェックしていたがテレビもネットも報道されなかった。

 あれから笹木は警察に行ったが最初は相手にされず、後に加賀の遺体が見つかり事情聴取を受けたらしい。途中までは犯人扱いされたが、結局証拠不十分で釈放された。

 結城という男が長崎に殺されたかもしれない事や、結局オニワさんとは一体なんだったのか、見える家系の者は何故それを必死に作り続けているのかなど解決していないことはいくつかあるが、それをすべてどうにかしようなどと思っていない。自分達にできることには限りがあるし、そこに深く関わるつもりはなかった。


「このまま俺を犯人に仕立て上げたそうな雰囲気だったから、加賀の不正の証拠を興信所の人と弁護士つきで警察に提示したらあっさり釈放されたよ。このまま加賀を犯人って事で終わりにしちまうだろうな」

「警察の不正を隠したいから?」


 二週間ぶりに二人は会って話をしている。場所は以前琴音が勤めていた店で昼間の時間にママが貸してくれたのだ。VIP用の監視カメラがない部屋をわざわざ提供してくれたので、何かを察したらしいママからの気遣いだった。


「それも勿論あるが、どちらかと言うと信心深い地元の人間による圧力かもな。あの辺りは警察から市議から地元出身者が多い。オニワさんを信じて余計な波風を立てないようにしたの半分、地元住民がオニワさんをテレビとかで面白おかしく取り上げられることに暴動手前の異議申し立てをしたってところだろう」


 望んだ形の解決にはならなかったが、これで一区切りだ、と笹木は言った。以前会っていた時よりもいくらか表情は晴れ晴れとしていて顔色も良い。


「俺はこれですべて終わったことにする。過去に執着するのは疲れるんだよ。どっかで区切らんと永遠に終わらない」

「そっか。私はこれからも執着し続けるだろうけど。それでも、向き合いながら執着してみる。今までは遠くに避けとくだけだったから」

「ああ、そうしてくれ。山上は大学をやめた、連絡先は知ってるがたぶん連絡つかない気がする。これ以上オニワさんのヒントを探るのはできないからな」

「いいよ、もう本当に何もないだろうから。お礼言いそびれちゃったけど」

「あいつはそういうの求めてないから大丈夫だ」


 そう言うと笹木は立ち上がった。手に持っていたスマホを操作し、琴音の目の前で琴音の連絡先を削除して見せる。

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