【エイルの挑戦状4】 エイル

 今年から大学生になる。もう3月末だけどさ。いわゆるLJKというやつだ。

 

 夢は高校の演劇部の時に色々教えてくれた、先輩と結婚することじゃなくて、お医者さんになりたいんだよね。

 

 医大は学費が高過ぎて諦めて、看護師にしたけどね。合格した看護学校の近くには1歳上の従姉妹が一人暮らしだから、私はお邪魔することにしたの。

 

 だって学費は恐ろしく高いし、奨学金制度かあるとはいえ返済は大変だから節約だよ。

 

 本音は先輩も住んでる街だから会えないかな?なんて思ったかな。

 

「怜奈ねーちゃん片付け手伝ってよ」

 

「嫌よ、せっかくの独り暮らしなのに、優香と共同生活になったのよ?そのくらいは自分でやりなさい」

 

「怜奈ねーちゃんの鬼ぃ〜!!この段ボール箱を見てもそんなこと言う?」

 

 壁一面に積み上げられた段ボールを、指差す。

 

「私のときは家電もあったのよ!!優香の方が楽でしょうが!!というか荷物が多過ぎなのよ。何持ってきたの?」

 

「えっと、ホームシック対策にカステラとびわゼリーをたくさん後はちゃんぽんと皿うどんを沢山だよ。これで半年はご飯とおやつに困らないよ」

 

「優香のばか!!そんなに食べたら飽きるのよ!!もうちょっと普通のチョイスなかったの?」

 

「お米もあるよ?90キロ分の玄米あきたこまち」

 

「多過ぎなのよ!!なんでそこで、あきたこまちなの!?地元じゃないでしょ?」

 

「えー、秋田産のあきたこまち美味しいじゃん」

 

「まぁ、私はお米には拘らないから良いけどさ。あら?なんで家電持ち込んでるわけ?冷蔵庫と電子レンジ、洗濯機に掃除機、テレビはあるのよ?」

 

「これ?強力粉とドライイーストにホームベーカリーだよ?これで夜仕込めば朝には焼き立てパンが食べれて幸せじゃん」

 

「どんだけ食にこだわるのよ?看護学校だからそんなに料理する時間ないでしょ?」

 

「そうかなぁ?医大も偏差値的には楽勝だったしどうにかなるよ」

 

「頭いいのは知ってたけどそんなになの?」

 

「たぶん東大は一発で行けるよ?興味ないけど」

 

「そんだけ大食いなのに細くて、頭もいいってムカつくわ。私が受験に苦労したのに優香は、余裕そうね」

 

「怜奈ねーちゃん酷い!!ボインの余裕かましやがって」

 

「細いけど、幼女体型なのは天は二物を与えずってことね」

 

「中学総体は水泳で国体は長距離走でそれぞれ全国優勝したけど?」

 

「そういえば、持久系は得意だったけ?それで食べても太らないのか。リア充爆発しろ」

 

「爆発するにはね音速より早く体積膨張するか高圧開放するか、つまり私は爆発しないね」

 

「腹立つわー。しかも軽々と30キロの米袋運ぶとか運動神経まで見せつけて、なんというか、ひたすらムカつくわー」

 

「台所は終わりー、カステラ食べる?箱食いしても怒られないよ?」

 

「そんなに食べたら太るから!!それよりも早くその段ボール片付けてよ。独り暮らし用だから狭い部屋なんだから邪魔なの」

 

「ぶー!!怜奈ねーちゃんの部屋だしやるけどさー」

 

「今度はなに持ってきた?」

 

「ん?Windows95のパソコン、ネットには繋げないけど、使えるかな?」

 

「おバカ!!古すぎて交換性ないでしょ!!」

 

「起動はするよ?」

 

「プリンタードライバーもないでしょ?印刷も出来ないし他のパソコンにデータも移せないでしょ?」

 

「えー、怜奈ねーちゃんなんとかしてよ」

 

「諦めて新しいの買いなさいよ」

 

「お小遣いは毎月10円だよ?年間120円つまり缶ジュース1本で1年分終わりだよ?買えるとでも?」

 

「どんだけ貧乏なのよ?今はあんたのお父さん少しはまともに稼いでるでしょ?」

 

「生活費を親戚に返すので精一杯だしお金ないよ?」

 

「はぁ、まぁいいわ好きにすれば」

 

「そうする。怜奈ねーちゃんのプリンターが使えるようにドライバーは自作しよっと」

 

「才能の無駄遣いするから貧乏なんじゃない?」

 

「お父さんは頭悪いよ?足し算も出来ないし」

 

「あれ?そこまでバカじゃないでしょ?」

 

「私とお母さんは965万8345+590万8351+=1556万6696とか出来るのに、お父さん出来ないもん」

 

「7桁の足し算とか無理だからね?さては算盤やってたな」

 

「10桁の足し算までなら暗算した方が算盤イメージして動かすより早いよ?」

 

「・・・優香あんた叔母さんに似て良かったわね」

 

「怜奈ねーちゃんとにかく、片付け手伝ってよ。お正月には遊んだ仲じゃん」

 

「年に、1回の関係でしょ?嫌よ。私はこれからデート行く準備するから頑張ってね」

 

「なんだって!?彼氏いたの?」

 

「彼女だけど?同性だと結婚できないけど、まぁなんとかなるでしょ」

 

「私も狙われる??」

 

「幼女体型に今日は無いし、浮気はしないの」

 

「はいはい、いってらー」

 

「夕飯は要らないけど、夜には帰ってくるからよろしく」

 

「私は力うどんに焼きおにぎりを食べるから気にしないでね」

 

「そこは、ちゃんぽんでしょ!!あとトリプル炭水化物はやめときなさい」

 

「お腹減ったし、太らないから大丈夫だもん」

 

「もう、好きにしなさい。それじゃ用意するから邪魔しないでね」

 

「はーい」

 

 私は段ボールを開けては片付けをしながら夕食を用意して、汗だくになりながらも8割くらいは終わらせ、夕飯を食べて終わったときのことです。

 

 スマホに着信アリで誰かと確認すると、片思いの先輩からです。

 

「演劇部の相談でレインはしてたけど、通話は久しぶりだよぉ、緊張する〜」

 

 演技は下手くそだし演劇に興味ないけど、先輩が居たから入部したんだよね。おっと切れる前に通話しなきゃ!!

 

「もしもし、先輩どうじ、じょました?」

 

 やばっ、かんだよ(泣)

 

『この前、看護学校選んで俺の近くに上京してくるってレインあったじゃん』

 

「あー、悩んで、最後は従姉妹のところに住まわせてもらうことになって、先輩の近くにたまたまなりました!!」

 

『すっげぇ頭良いのにもったいないなぁ。東大の医学部合格狙えたんでしょ?』

 

「東大医学部は流石に浪人するかもですよ。東大だけなら楽勝なんですけどね」

 

『浪人するかもって、天才は違うなぁ。奨学金使って医者になればお金持ちになれて夢も叶うでしょ?俺は頭良くても俳優1択だけどさ』

 

「先輩は夢を追いかけけて羨ましいですよ。あっそうだ、私初めての来たから街を案内してくださいよ」

 

『まだまだ売れないし無名だけどね。案内は良いよ。どうせ春休みでバイトしかやることないしさ』

 

 ヤッター初デートだ!!

 

「明日とか大丈夫ですか?えっと今日来たばかりで早く街を知りたくて」

 

 デートスポットも地理もレビューもバス電車の時刻表まで完全に暗記したし、ストリートビューも全部見たけどね。

 

『明日かぁ、ちょっと待って、えーと、これでよしっと。駅前広場に9時50分でどうかな?』

 

「駅前広場に午前9時50分ですね。分かりました!!明日はよろしくお願いします」

 

『よろしくー。じゃおやすみ』

 

「はい!!先輩おやすみなさいです!!」

 

 通話が終わって、やることは明日のコーディネートを考えることだよね。

 

「しまったなぁ、外出するつもりなくて服は片付けてないや。とにかくお母さんの秘伝お父さんを堕とした服を出さなきゃ!!」

 

 段ボール箱と格闘していると、怜奈ねーちゃんが帰ってくる。

 

「まぁだ片付けやってぇんの?寝なさいぃよぉ」

 

「怜奈ねーちゃん酔ってる?私は明日急遽デートに決まったから服を決めるのに忙しいの!!」

 

「優香?なんでデートに・・・服ですらないじゃん着ぐるみは辞めなさいよ。はぁ酔いも一発で、醒めるわ」

 

「えーこれでお母さんはお父さんを墜としたんだよ?」

 

「・・・そりゃ伯父さんが遠い目をするはずだわ。ねぇ?それはコスプレ衣装でもハロウィンでギリギリアウト何じゃない?」

 

「先輩の好きな小説から選んだんだよ?赤ちゃん主人公を追いかけて、脳天落としサマーソルトで頭を潰されたオークって良くない?」

 

「グロいからさ。何処に売ってたの?」

 

「演劇部の衣装を作った時に出た廃材とか文化祭のゴミとかを継ぎ接ぎしたけど?」

 

「その血のリアリティーと根性は褒めるけどね。不審者だから却下ね、他にないの?」

 

「これは?黒光りカサカサ悪魔に、たかられるエマーシュ」

 

「ウサミミ美女がゴキブリに・・・捨てなさい!!もっとキモいわ!!却下よ却下!!」

 

「これは?ババ○ンガ」

 

「デートに不潔は却下!!」

 

「難しいなぁ。これは?ヴィシリア」

 

「ドワーフのてっぺんハゲ爺とデートとか誰得なの?相手泣くわよ?もちろん却下」

 

「むむ、ならこんなのは?超絶リアルなグリズリー」

 

「リアルすぎでしょ?熊の迫力でチビリそうよ。当然却下よ!!」

 

「これならどうよ?愛される動物!!うさぎよ」

 

「やめい!!リアルサイズのリアル過ぎるうさぎがびっしりと張り付いてる着ぐるみとか怖いわ!!なんでそうなるの!!動くとうさぎの頭が固定されてて胴体が振り回されて見てられないわ!!却下じゃボケ!!」

 

「これは?地道かな?」

 

「普通のデフォルメされた恐竜!?めっちゃかわいいじゃん、デフォルメされたサメもあるじゃん!!着せ替えしたいわーいやむしろする!!」

 

「怜奈ねーちゃん!?デートの勝負服なんだけど?」

 

「ピカチ○ウ!!幼女体型に着せると最高ね!!あー、くま○ン!!1番可愛いの選ばなきゃ」

 

「ちょっと!!話を聞いて!!あ~れ~」

 

 たっぷり2時間かけて、サメの着ぐるみに決まりました。その時には流石に寝落ちをしてしまったのでした。

 

 ハッと気がつくと、午前9時前!?寝坊した!!移動に全速力で走って20分、汗かいたまま寝てたしシャーワーとお化粧とか、考えるともう時間がない。

 

 とにかくシャーワー浴びなきゃ!!

 

 そしてシャーワーが終わってサメの着ぐるみを着るようとして、ない下着!!昨日のは汗だくで、無理だし、探すのは・・・ぐちゃぐちゃで無理だね。これは責任を取る意味でも、怜奈ねーちゃんのを、パクるしかない!!

 

 ・・・パンツは大きくて抜け落ちるし、ブラは・・・悲しくなるから辞めよう。

 

「着ぐるみだしもう無くてよくね?そうしよう」

 

 まだ寝てる怜奈ねーちゃんを、放置してサメを着込んで、なんか深夜テンションで選んだからヤバい気もするけど、もう時間がない!!

 

 玄関を飛び出してダッシュする。

 

「ゼェーゼェー、先輩すみません、ギリギリになりました」

 

「あぁ、うん遅刻はしてないから、というかその格好おか・・・なんでない・・・いや無理だし。なんでサメの剥製?」 

 

「先輩どうですか?可愛いですか?」

 

 エヘヘ聞いちゃった。

 

「それはキツイって」

 

「そんなぁ、下着着てないからですか?」

 

「そういう問題じゃないから!大問題だけどさ」

 

「先輩は下着を着てないと嫌ですか?」

 

「えっと、そんなことはないから!!エロくて良いものと思います。あっ、とりあえず下着買いに行こうか?」

 

「はい♡先輩よろしくお願いします」

 

「優香には俺がついてないとダメな気がするし、よろしくな」

 

 

 時は流れ仲良くなり、先輩が優香の実家を訪ねた時のことだ。

 

「みなまで言うな。あの母娘の矯正が出来なくて申し訳ない」

 

「天才とバカは紙一重ですからお気になさらず」

 

「お互い苦労するな」

 

「えぇ夢もお互い追わせてもらってますけどね」

 

「色々と諦められんし、逃げられないな」

 

「全くです」

 

 漢の友情が結ばれたのだった。

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