第3回「2000文字以内でお題に挑戦企画!」 クロノヒョウ様
トンネルの攻防
異世界にとある勇者が呼ばれて転移した。その男は大学で化学を専攻していた。
理由は爆発が大好きだからだ。爆発はロマンであり、爆発する瞬間の美しさ、時間をかけて合成した化合物が一瞬で無くなる儚さに魅了されていた。
そんな変わり者が、爆発物を禁止する法律などない剣と魔法の世界にやって来たのだ。
先ずは黒色火薬を作り化学法則がそのままな事を確認した。黒色火薬に満足しなかった勇者はさらに強力な爆発物を求めた。
色々なハードルはあったがたった一つの化合物に、絞ることで量産に成功した。それは、ニトログリセリン、作ったのはダイナマイトである。
「爆弾としては不満だが爆発としては悪くない」
とは勇者の弁である。
この異世界は人間と魔族が長年争い、お互いに長城つまり防衛線に城壁を作りそこでの小競り合いに終始している。
そんな状況を打開する勇者召喚なのだ。もちろん魔族側も作戦を練り実行に移していた。
蟻の魔物を使い地下にトンネルを掘り壁を無効化しようと画策したのだ。
こうして爆弾魔と魔物というありえない物が激突する舞台が整った。
「アリだーー!!」
人間側に奇襲が入り大慌てで、魔物を迎撃する。
「トンネル?密閉空間じゃないか!!これはダイナマイトの出番だ!!魔物を爆散させなければ!!」
勇者は少し危ない事を言いつつも、大量のダイナマイトをアリが掘ったトンネルに迎撃の合間を見計らい流し込む。
「ふははは、魔物爆散!!」
勇者はノリノリで導火線に着火する。
少しの間を置いてアリがダイナマイトを無視して出てくるが、ダイナマイトが起爆し爆風により四散する。
「素晴らしい!腹に響くこの爆音!!揺れる大地!!まさに爆発は芸術だ!!ふははは」
「「「あっ」」」
勇者は楽しそうに笑っている。そして人間は予想外の事態に固まっている。
魔族は1ヶ所ではなくトンネルを横につなげて複数箇所から攻撃するつもりだった。そのために地下空間は大きく、軍勢が待機していた。
もちろん歴史を動かす戦果が予想されており、魔王が直々に指揮しており、ダイナマイトの餌食となった。
しかしだ。そんな大空間でダイナマイトを起爆すればトンネルは崩壊する。その上には超重量物である境界線を守る城壁がある。
トンネル空が爆発で埋まり大地が陥没すれば、いかに難攻不落の鉄壁も崩れ落ちた。
「素晴らしい!!素晴らしいぞ!!」
「これ、魔族がまだまだ攻めて来てますよ?勇者様今こそ最前線で我らをお守り下さい」
魔王を失った魔族は次期魔王になるために戦果を求めて、城壁が、壊れたところから突破し、人間領に攻め込んでくる。そして、優しく城壁をぶっ壊した責任を取れと勇者に言う。
「ん?俺は研究と生産指導しかしてないから戦闘力なんてないのだが?」
化学が存在しない世界にダイナマイトを量産させるために勇者は、日夜働いた。だから身体は鍛えられていない。
「ごちゃごちゃ言わずになんとかしろ!!」
「俺はボマーなんだ!生産職の勇者を戦わせるなよ〜〜〜」
人間の将軍により戦犯たる勇者は魔族率いる魔物と死闘を繰り広げ、戦死したと伝えられる。
剣と魔法にダイナマイトが持ち込まれた世界は、泥沼の戦争に陥った。
その歴史に勇者は、城壁崩壊までしか登場しない。しかしいつからか魔族はTNT爆薬を使いだしたことから、勇者生存説は常に検討されている。
しかしながら、魔王が人族だったとも魔族の四天王にフルフェイスを外さない奴が、いたとも伝わるが、事実を知る者は全員が爆散しており真偽不明である。
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